思い出の地
4人になったので部屋に簡単な仕切りをつけてもらった。
「これで、生徒会の目を気にしないでゆっくり出来る。」
マリにとっても周囲を気にしなくてもいいんじゃないかと思った。そして、みんながいつでも気軽に集まれるように極力顔を出すようにした。しかし、なぜかマリはあまり部屋にこなくなった。
「あいつ、人に見られるのがいやでひきこもってたんじゃないのか?」
僕には納得がいかなかった。
「動画職人がそんなわけないだろ。お前は、女心がわかっていない。」
エレンも最近は無理に連れてくることはない。
僕は休みの日に、ヤマトの伯父さんの屋台に行った。
「あんこ、カリカリで。」
きっとマリの行動の原点が、この場所に由来しているはずだ。毎年、今川焼きを届けてくるのが証拠だ。そのとき、現場に居た店主なら何かを知っているにちがいない。
「何かって言われてもな。男の子も女の子も同じくらいの年だったし、イソコのやつなら何か知ってるかもしれないな。」
僕は、ヤマトの母の勤める新聞社に向かった。そして応接間に通された。黒皮のソファーに高そうな絵が掛けてある部屋は落ち着かない。
「兄さんから話は聞いたわ。私も話を聞いて、記事になるかもと思って、その後すぐに探したんだけどどちらも見つからなかったわね。もともと女の子はこの街の子じゃないし、男の子も店に来なくなったから。」
僕は、落胆しかけた。あれ?なんでこの街の子じゃないって言ったんだろう。
「で、今でも解らないんですか。」
そう問いかける僕には答えず、彼女は腕時計をチラっと見て
「あ、ちょうどいい頃合いね。」
と言ってテレビをつけた。
「県内の養鶏場で、鳥インフルエンザが確認されました。」
それはニュース番組だった。ライブで知事の会見を行なっていた。
「この人、知ってる?」
そうイソコ記者に問われ、僕は大きく首を縦に振った。もちろん知っている。マリの母親だ。
「その女の子のお母さん。」
僕は、驚いた。迷子で泣いているなど、今のマリからは想像できなかったからだ。
「当時は知事じゃなくて、県庁の一職員に過ぎなかったら気付かなかった。気付いたときには、さすがに、記事にするだけの新鮮さには欠けていたわ。」