仮部室
配電室の鏡は、ヘルメットを被るためのものだったらしい。誰が設置したのか、まったく人騒がせなやつだ。学校の七不思議の謎を解いた僕らは一気に有名になった。そして、2年になると同時に公認の同好会として仮の部室を与えられた。
「なんで、仮部室が生徒会室の隅なんだ。」
エレンは少々、いや多いに不満げだった。
「しかたないだろ。部員3人だけの同好会に1室用意してやることはできない。」
生徒会長のハブは、僕と将棋盤を挟んで睨みあっている。
「パチン。」
ハブの王手がかかる。
「ベチャ。」
僕の玉が後ろへ逃げる。
「相変わらず、下手な音だな。」
ハブのいつものいやみだ。
「しかたないだろ。初心者なんだから。だいたい今どき、将棋盤で打つやつなんて本物の棋士ぐらいだぞ。」
中学生プロ棋士が増えたこともあって、プロ棋士同士の対局もオンラインでやることが増えた。
「この部屋に、将棋のできるやつが、令しかいないんだ。それにソフトじゃ、待ったや手戻ししながらの指し直しができない。悪手をそのままにして初心者相手に勝っても、時間のを無駄だ。」
この音が、やがて8番目の不思議になるとは露にも思っていなかった。
「ここにいれば、事件が起これば真っ先に駆けつけられる。」
いや、だからこれは事件を解決する同好会じゃないんだって。だいたい、生徒会室にある同好会にまともなやつが入りたいって来るだろうか。
「有名な名探偵同好会と聞きました。アガサポーです。好きなものは古典推理小説。」
「自分はアキチデゴロゴロ。猫が逃げたとき、探してくれた探偵にあこがれて入部希望を出しました。」
こんな推理オタクな連中しか尋ねて来ない。入部申請には本名も必要だと言うと、ほとんど去っていく。今時の中学生は、例え先輩にでも個人情報を明かすことには、かなり警戒している。
中にはおしいやつもいる。
ヤマモトイソジ。卒業したヤマトの弟だ。イケタニモサク。カナダライト(雷人)とフウト(風人)の双子。チカラ兄妹で力・メラオとメルナ。
しかし、どれもしっくりこない。まあIDならともかく、まともな親が本名におかしな名前を付けるわけが無い。ぎりぎりのところで逃げを用意しているものだ。