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悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!  作者: 夕香里
第二章 アルメリアでの私の日々
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眠り姫と偽りと(6)

(私が王女だから彼も簡単に婚約を破棄できないのね)


 普通の貴族であったならば、彼は、彼の父であるシモンズ侯爵は、容赦なく私のことを切り捨てられるというのに。この身に流れる王族の血がそれを許さないのだ。


 だから、決めたのだ。こんな誰も幸せにならず、むしろ不幸になるだけの婚約なんて破棄してしまおうって。

 ただ、王女である自分が婚約を破棄するとなると相当な理由がなければ許されないだろう。


 今まで関係は良好で、ジェラルドを思慕していることをお母様やお父様は知っている。

 そんな私がいきなり「婚約を破棄したい」と願い出ても信じてはくれないだろう。頭でも打ったのかと心配してくるに違いない。


 そして今のままもし仮に婚約破棄ができたとしても、「王女との婚約を破棄した愚かな子息」という汚名が彼に付いてしまう。たとえ私が不吉で忌み嫌う存在だったとしても、王族というだけで尊い身分なのだ。そんな存在との婚約が破棄になったとなると、何か彼に欠点があったのだと醜聞になる。

 断じて彼に非がなくとも、そういうことになってしまう。


(どうすれば……)


 はっきり言ってこういう策略を練るのは不得意だ。

 そこでもうヤケになった私が考えついたのは、馬鹿馬鹿しい作戦だった。


 それはジェラルドを「我儘で最低な王女に理不尽に罵倒されたり、冷たく当たられる何の非もない可哀想な婚約者」に仕立て上げるという作戦だ。


 周りの生徒たちから同情を得るような冷遇を私からされれば婚約の破棄を彼から言いやすくなるだろうし、貴族達も彼のせいではないと信じるはずだ。


 さすれば懸念事項は払拭される。


 元々私の評判は忌み子として低いのでこれ以上地に落ちたところでなんの問題にもならないし、気にすることもない。


(こうすればジェラルドだってシェリル様と婚約を結べるはずだわ)


 考えをまとめた私は涙に濡れる顔をすっと上げ、真正面からもう一度彼を射抜く。


「お引き取りください」


「…………」


 ジェラルドの瞳に困惑が強く滲むのを見て見ぬふりをして私は眉根を寄せた。


「聞こえませんでしたか? 体調が優れませんのでお引き取りください」


 呆然とするジェラルドを部屋の外に追い出し、ピシャリとドアを閉め、彼を拒絶したのだ。


 その日から徹底的に彼を嫌っているのだと人々にアピールした。一部のものは、ようやく本性を現したと言い、またある令嬢は「可哀想なジェラルド様!」と彼の慰めに走り、早くも後釜を狙い始めた。



 こうして今の現状が出来上がったと言う訳だ。



 途中、馬鹿みたいなことをしている自分自身に呆れて、お兄様が説得を試みてくる度にぐらぐらと意思が揺らぐくらいには何をやっているんだろうと思った。


 さっさと婚約破棄したいと伝えれば良いのではないかとも思った。


 だけど、それでも、この選択肢が最善なのだと思いたかったから。私から彼を解放するにはこれだと思ったから続けたのだ。


 彼に冷たく当たる度、本当はそんなこと思ってないのに罵るような言葉を吐く度、ジェラルドの揺らぐ瞳に戸惑いながら伸びてくる手に、罪悪感からなのかズキズキとする心臓は酷く痛くて。泣きたくなるほど辛かった。


 ここぞとばかりにジェラルドのそばに居座るシェリル様。私を目にとめて、まるで自分の方が彼にふさわしいのだと主張するようにふわりと笑ってくることに、彼の隣は私の場所だったのにと勝手に傷ついて。


 全てのことに疲れ果て、もう限界だという時に、ようやく彼はお父様──国王陛下に婚約の破棄を願ったらしい。


 ああ、これで約束が叶い、自分の気持ちを欺き続ける愚かな演技も終わりにできる。


 だからシャンデリアが落ちてきたとき、どうせもう誰のところにも嫁げないお荷物な私は死んでもいいかなって思ってしまったのだ。


 そんな思いに反応してかシャンデリアと接触する寸前、アザが微かに残っていた魔力さえ体内から吸い取り、私のかろうじて保っていた意識はプツリと途切れた。



 ──こうして全て終わったはずだった。



 目を閉じ、ふわふわと海の中を漂う海月(くらげ)のように永遠の眠りに委ねていた私は、突如何かに手首を掴まれた。解こうと抵抗してみるが離せない。

 仕方なく、なすがままにしているとグイッと引っ張り上げられる。


 一切の音が取り払われた世界から徐々に雑音が聞こえてくる。一体どういうことかと緩やかな動作で瞼を上げたその視界には鮮やかな金髪が見えて。見慣れた紺碧の美しい瞳がゆるゆると歪む。

 途端、目の前の人はぽたりぽたりと大粒の涙を零し始めて。


「リタ」


 気づいた時には強く抱きしめられていた。

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