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晩餐会です(2)

 この国の晩餐会の入場の仕方は他国と反対だ。


 中には下位貴族から順番に入る。お父様とお母様は爵位が公爵なので一番最後だ。その後、王族であるギルバート殿下と私が入場する。


「それじゃあシアちゃんまた後で会いましょうね」


「ええお母様」


『お次はラスター公爵夫妻のご入場です』


「アリー呼ばれたよ。手を」


「はい貴方」


 お母様はお父様が差し出した手にそっと自分の手を添えると、直ぐにいつものお母様では無くて公爵夫人の顔になり、一回カーテシーをして中に入っていった。


 そんなお母様はとても素敵だ。


「お母様、やっぱり綺麗だわ」


「……シアも十分に美人だけど……お陰で他の子息達を蹴散らすのが大変……」


「ん? 何か言いまして?」


「いや、何も。空耳じゃない?」


 殿下は、誤魔化す時に愛想笑いをする。今もそうだ。私が問い返したら誤魔化そうとしてる。

 疑いの目を向けるがそっぽを向かれる。これは何を言ったのか教えてくれないパターンだ。


「殿下、お時間でございます」


 侍女が再度告げる。


「シア、行くよ」


「……分かりましたわ」


「何……? 拗ねてるの?」


 返事が遅くなったことを先程のことに結び付けているらしい。私は断じて拗ねているのではない。教えてもらうことを諦めただけなのだ!


「違うわ。行くのでしょう? エスコートお願いしますね」


「仰せのままに。僕のお姫様」


 そう言って殿下は白手袋越しに私の手を取るとそっと口付けを落とす。


「……やめて。本の中の王子様だったらステキ〜ってなるけどギルが言うとムズムズするわ!」


「酷いなぁこれでも本物なんだけど……」


「知ってるわよそんなこと」


 むうっとしているとごめんねと頭を撫でられた。本当は頭を撫でるのもやめて欲しい。

 せっかくルーナ達が綺麗に結ってくれたから。でもなんだか落ち着くので目をつぶってされるがままになっておいた。


『ギルバート・ルイ・ソルリア第一王子とその婚約者、アタナシア・ラスター公爵令嬢の入場です』


「シア、笑顔笑顔。いつも通りでいいからね」


「分かっています。ここからは女の戦場なのですから!!!」


「いや……普通の晩餐会なんだけど」


 またもや苦笑いをしている殿下を無視し、淑女の仮面を付けて私は扉の内側に足を踏み入れ、カーテシーをする。


(よしっこれは完璧ね)


 心の中でガッツポーズした。


 私の外向きの笑顔は中々評判が良い。崩れなければ……の話だけど。

 そして殿下にエスコートされてお母様、お父様がいる卓に向かって歩く。


「アタナシア様こんばんは。殿下にエスコートされて良いですわね」


「ギルバート殿下こんばんは、後ほどぜひ私の娘とダンスを踊っていただけませんか?」


「ギルバート殿下と一緒にいるアタナシア様邪魔よね」


「私も殿下にエスコートされてみたい」


 などなど途中でたくさんの会話が聞こえてくる。私たちはそれを笑顔で受け流す。チラリと殿下を見ると愛想笑いをしながらもめんどくさいという感情がダダ漏れだ。まあ気付いているのは私と王妃様だけだろうけど。


「この外面だけはいいんだからもうっ!」


「……アタナシア嬢何か言ったかな?」


「何も言っておりませんわ。ギルバート殿下は今日も笑顔が素敵でございますね」


 満面の笑みで弾き返した。


「ありがとう。今日も君は美しいね」


 小声で言ったのが聞こえてたらしい。若干声色が冷たい。地獄耳だ……怖い。


 ちなみに私が言った言葉を意訳すると『ギルバート殿下、貴方とてつもなくめんどくさいという感情が出てるわよ?』だ。


 多分殿下のは『知ってるよ。君には言われたくないかな』だ。


 にこにこと二人で笑いながら牽制し合っていたら、周りはお似合いね。仲が良くていいわと勝手に言い始めた。


「どうぞアタナシア嬢」


「殿下、エスコートありがとうございました」


「いえいえ当然のことをしたまでです」


 どうやらテーブルに着いたらしい。椅子を殿下が引いてくれたので腰を下ろす。


「それでは、皆さんごゆっくり」


 同じテーブルについていた人にも挨拶をして殿下は自分のテーブルに向かった。


「シアちゃん何か殿下とあった?」


「いいえ何もありませんわ」


 座った途端に隣の席であるお母様が話しかけてきた。お母様は何か勘づいたらしい。こういう時だけとても鋭い。だけど何も無いはずだ。いつものからかいだけだ。


「いやー。アタナシア公爵令嬢はギルバート殿下と仲がよろしいのですね。是非私の娘とも仲良くしていただければ」


 おっとお母様との話が済んだらすぐに正面のダンバル侯爵が話しかけてきた。すこーしだけ頬を染めて恥ずかしがってる風を装う。


「ふふありがとうございます。殿下と仲が良いと思われているのは嬉しいですわ。殿下はとっても優しいんですの」


 (外向きだけね。普通の時はそんなことないわ)


 ダンバル侯爵が話しかけてきたとなると私の宿敵もここにいるということだ。


(いよいよね。来るわよ。今日も勝つわ)


「まあ聞いているこっちまで恥ずかしくなってくるわ。ところで、貴方殿下の前で倒れられたそうね? 病弱なのかしら」


 身構えているところに今日のラスボス、ダンバル侯爵家の令嬢──シュレア様が仕掛けに来た。この所私が夜会に出る度に突っかかって来るご令嬢。つまり敵である。


「いいえ。倒れたのは事実ですが、体はいたって健康です。お気遣いありがとうございます。シュレア様」


 発言に勝ち負けは無いが、私は勝手に付けている。言い負かされるのは嫌いなのだ。でもなぜ、私が倒れたことを知っているのだろうか。やっぱり一週間も意識がなかったから?


「そう? それならいいのだけれど。もしかしたら気づいていなかっただけで、病にかかりやすいのかもしれないわ。もう一度お医者様に診てもらった方がいいですわよ? 殿下も心配していたわ」


 失礼な。体はいたって健康だ。それに治そうと思えば自分の回復魔法で治せるから、弱くなるとかありえない。


「お医者様にはもう三度診てもらいましたわ。全ての診察でお墨付きを貰っております。殿下もお見舞いに来て頂きましたしその時に既にお伝え申し上げました」


「それは一安心ですね。……所で今度私の家でお茶会をするの。是非お越しにならない? 今は薔薇が綺麗なのよ」


 この話題ではダメだと判断したのか突然別の話に切り替わる。これは参加したら一人になるパターンな気がする……かと言って侯爵令嬢である彼女の誘いを断ったら後で何が起こるかわからない。


「薔薇ですか。シュレア様の邸宅の薔薇はとても綺麗だとお聞きしています。とても楽しみにしていますわ」


 本当は行きたくないけど……。


「参加してくださるのですね? 後ほど招待状をお送りしますね」


「よろしくお願いします」


 彼女は満足したのかそっと席を立って殿下の方へ移動して行った。次は殿下にアピールするのだろう。

 彼女との会話が終わったことで幾分かこちらに向けられていた悪意の視線が外れる。


 それらはシュレア様と同じ視線だ。


────ここは敵だらけだ。


 右も左も王太子の婚約者の座を奪い取りたい貴族達でごった返している。少しでも粗相をするとひたすらなじり続ける。だから一瞬でも気が抜けない。


 抜いたら最後、奈落の底に落ちるまで詰り続けてくるから。


 私はフォークとナイフで料理を細かくして口に運ぶ。手を休めることが出来ないほど大量の料理が私の食べ終わるタイミングを見て次々と運ばれてくる。


 それらの料理を咀嚼しているとほっぺたが落っこちそうになり、顔が緩むのを抑える。そうしているうちに先程の不快感はいつの間にか消し飛んだ。


(美味しいわ〜このスープなんてどうやって作っているのかしら? レシピ欲しいわね……)


 そんなことを考えていたら一番前のテーブルに着いていた陛下がグラスを片手に立ち上がる。


「今宵は王宮晩餐会の参加、誠にありがとう。年に数回の機会だ。是非貴族間での交流を深めてくれたまえ」


 陛下がワインの入ったグラスを天に向ける。


「神の祝福に感謝します」


 そう陛下が言って晩餐会が始まった。と言ってももう、皆さん思い思いに食べ始めているけれど。


 今晩の晩餐会には国内全ての貴族が招待されている。この機会はとっても貴重で、この晩餐会で新しい縁談や交渉が決まるのも珍しくはない。それだけ政治にも、経済にも重要な晩餐会なのだ。

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