地味で冴えないオタク女子。
月曜日。
かなり憂鬱な朝だ。
1限目から体育という俺にとって1週間の中で最も嫌いな日なのである。
だがしかし、そんな最悪な日ではあるものの俺達にとって唯一の救いと希望がある。
それは...男女合同体育だからだ!!!
「いやー、いいですな。女子との合同体育!」
ドッヂボールで初っ端からボールに当たってしまった剛と俺は、外野から女子達がキャーキャー逃げ惑う姿を見ていた。
そんな時、ボールが俺の元へと転がってきた。
「大智くん!投げるんだ!」
「えっ?!おっ俺?!」
運動が苦手な俺はボールを投げる事ももちろん苦手だ。
ヒョロヒョロしているとはいえ、男だから多少のパワーはあるものの、壊滅的な程コントロールが効かずどこへ飛んでいくか俺にもわからないのだ。
「おーい、久賀!さっさと投げろよ〜」
なかなか投げない俺にクラスの皆が野次を飛ばし始めた。
「どうにでもなれ!!!」
俺は全力でボールを投げた。
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「すまん、本当に申し訳ない!!!」
俺は深々と顔にガーゼを当てた目の前の女子に頭を下げた。
「本当に。最悪すぎます。」
怒った顔でこちらを見上げる彼女は、俺のクラスメイトである本多さん。
話したことは無く、いつも教室の隅で本を読んでいるような地味で冴えない女の子だ。
にしても初めての会話が、俺のスーパークソコントロールで顔面直撃したせいで謝ることになるなんて最悪だ。
「あなた、当てるにしても女の子の顔はないでしょう普通?!最悪だわ!」
「すまん...俺もまさか本多さんの顔に行くとは思ってなくてだな...」
「おかげで私の眼鏡が割れちゃったじゃない!」
「それは!バイト代がそろそろ入るし!勿論弁償させてもらうつもりだ!」
「当たり前よ!眼鏡がなくちゃ見えなくて困るのよ。まぁ、予備の眼鏡持ってるから良かったけど!」
いつも銀縁の眼鏡をかけており、髪の毛も黒髪にピシッと三つ編み姿で、テストもいつも学年トップ。かなり先生からの評価も高いらしい。
そんな彼女は物静かであまり喋らないのかと思っていたが、実際に話してみると本多さんはかなり気が強いらしい。
「と!に!か!く!とっとと眼鏡のお金払ったらもうこれ以上私に構わないでよね!わかった?!」
そう言い残し、彼女は保健室から出ていった。
「あー、やっちゃった。眼鏡っていくらするのかな...」
そうして俺も保健室から出ようとした時、ベッドの上にカバンがあることに気づいた。
「本多さんのカバン...か?」
忘れたのなら届けようと思った俺は、確かめるためにカバンの中身をそっと確認した。
するとそこから一冊の本が出てきた。
「こ、これは!!」
この本は俺も見たことがある。
「NO,1メイドヒメ伝説ファン写真集?!」
そう、DOLCEのNO,1メイドヒメちゃんの最初で最後の伝説の写真集本だったのだ。
もちろんこの俺も発売当初店に駆け込み、3冊入手済だ。
2冊も何故余分に買うのか?
それぞれにちゃんとした役割があるのだ。
1冊は未開封のまま部屋に飾っている観賞用。
そしてもう1冊は未開封のまま引き出しの中にとってある保存用だ。
そんなクソオタクな俺は、他にもヒメちゃんグッズがあることに気がついた。
「これは!DOLCE店内限定ランダムガチャガチャの缶バッチ!!しかもヒメちゃん5種類コンプ済だと?!」
「はっ?!これは?!去年のヒメちゃん生誕祭の限定ブロマイド!!」
「こ、これも!ヒメちゃんオリジナルドリンクについてくるスペシャルストラップ!!!!」
どんどん出てくるヒメちゃんグッズ。
あの本多さんがヒメちゃんのファンであることにテンションが高まった。
「そうか、本多さんは地味で冴えないオタク女子だったのか!!!!!!」
同類だ!そう納得した俺は、友達になれそう!と勝手な妄想を抱き、カバンを持って本多さんの元へと向かった。
ー登場人物まとめー
【主人公】久賀 大智
高校2年生/17歳/
大阪のメイドカフェ〝DOLCE〟に通う。
推しである人気NO,1メイドの〝ヒメ〟にバイト代をほぼ全額貢いでいるクソオタク。
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【新人メイド】本多 愛葉〝音〟
高校2年生/17歳/
〝DOLCE〟に新しく入った新人メイド。
以前からメイドへの強い憧れがあり、メイドへのこだわりとご主人様への想いはピカイチ。NO,1であるヒメ(姫乃)を尊敬している。
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【NO,1メイド】白石 姫乃〝ヒメ〟
高校3年生/18歳/
〝DOLCE〟の人気NO,1メイド。
ぶりっ子だがかなり性格は腹黒いらしい。
最近入った新人の音(愛葉)の人気に嫉妬と焦りを感じている。
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【友人】江山 剛
高校2年生/17歳
大智のクラスメイトであり親友でありオタク仲間でもある。
大智と違い特に推しは作らず、DOLCE自体が好きで店に通っているタイプのオタク。
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