白石姫乃の葛藤。
夏のビラ配りは1番嫌い。
暑い中ヒラヒラで動きにくいメイド服を着ながら、どれだけ無視されようと笑顔で振る舞わなければならないからだ。
「こんにちは〜!メイドカフェDOLCEですっ♪」
「・・・。」
「メイドカフェです!いかがですかぁ?」
「・・・・・・。」
「メイドカフェDOLCEでーすっ」
「・・・・・・・・・。」
「っはぁ〜?!?!全員無視ぃ!なんっっだよ!このタコ!こーんなに可愛い女の子が笑顔で声掛けてやってんだから、チラシくらい受け取れや!クソオタク共が!」
なーんて、言えるはずもなく。
心の中にしまい込みながらヒメは笑顔でいなければならない。
「大体、こんな真夏にビラ配りだなんて馬鹿なのかしら??全く...」
「大丈夫ですか?ヒメさん?」
「あっ音ちゃん!なんでもないよっ!どーしたのぉ?」
「交代しに来ました!後は私が...」
「そっか!ありがとう!暑いから体調に気をつけてね?!」
「はい!ありがとうございます!」
なんていい先輩なのかしら。
後輩の体調を気遣うヒメちゃん...うん。
良いわね♪悪くない。
だけどね。ヒメはあなたのことが嫌いなの。
先輩であるこのヒメを差し置いて1位の座を奪うだなんて信じられない。
外面では仲良くしてあげてるけれど、本多愛葉...絶っっ対に許さない。
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その日の晩。
ヒメは投稿した嘘の噂の今の状態を確認すべく、掲示板を見ていた。
「にしても、あれから少したったのに、どうして何も起きないのよ...もっと音が騒いで面白くなると思ったのにっ...!」
ヒメの計画では、音がもっと騒ぎ立てることによって話が肥大化していくだろうと考えていたのだけれど、結局ヒメの投稿した嘘の話題は掲示板では未だにその話題が書き込まれ続けているものの、実際店での影響はほとんど無かった。
それどころか音は何も気にすることなく普通に出勤している。
「ただの噂だからって無視してこのまま関わらないつもりね...この..ヒメのこと馬鹿にしてっっ!」
バンッーーー
あまりの怒りにスマホを投げてしまった。
ヒメの邪魔をする奴は全員消さなければ。
実際、ヒメの出勤日にしか来ていなかったはずのオタク共が最近音が出勤している日にも来ているらしい。
ちょっと可愛いからってオタク共は簡単にホイホイついていくんだから...。
「あっ、そうだ!」
オタク共を言い聞かせることが難しいなら、DOLCEに居られなくなるようにすればいい。
「外側から潰せないなら内側から潰せばいいんだぁ♪」
「ヒメって頭良いっ♡」
女は皆1度亀裂が入れば二度と戻らないと言うけれど、それは違うのよ?
女は皆最初から亀裂まみれなのよ。
ちょっと揺すってあげればすぐその亀裂はボロボロに崩れていくんだからチョロいわよね♪
DOLCEはメイド皆仲がいいなんて言っているけど、全員馬鹿なの?
〝友達〟とか〝仲間〟とか。
「フン、そんな安い言葉大っ嫌いよ。」
「はぁ〜、次の出勤日が楽しみぃ♡」
ドサッとベッドに倒れ込み、ヒメはそのまま深い眠りへと落ちていった。
ー登場人物まとめー
【主人公】久賀 大智
高校2年生/17歳/
大阪のメイドカフェ〝DOLCE〟に通う。
推しである人気NO,1メイドの〝ヒメ〟にバイト代をほぼ全額貢いでいるクソオタク。
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【新人メイド】本多 愛葉〝音〟
高校2年生/17歳/
〝DOLCE〟に新しく入った新人メイド。
以前からメイドへの強い憧れがあり、メイドへのこだわりとご主人様への想いはピカイチ。NO,1であるヒメ(姫乃)を尊敬している。
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【NO,1メイド】白石 姫乃〝ヒメ〟
高校3年生/18歳/
〝DOLCE〟の人気NO,1メイド。
ぶりっ子だがかなり性格は腹黒いらしい。
最近入った新人の音(愛葉)の人気に嫉妬と焦りを感じている。
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【友人】江山 剛
高校2年生/17歳
大智のクラスメイトであり親友でありオタク仲間でもある。
大智と違い特に推しは作らず、DOLCE自体が好きで店に通っているタイプのオタク。
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【友人】元井 咲良
高校2年生/17歳
愛葉の親友で、唯一メイドとして働いていることを知っている存在。
面倒くさがり屋で、楽観的な性格だが意外としっかり者な一面も。
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【オーナー】 間柴 勇
自営業/29歳
DOLCEのオーナー兼キッチン担当。
裏でしっかりメイドたちを支えるDOLCEの柱的存在。
見た目とは裏腹に、困った時は結構頼りになるらしい。