男女2人でカラオケ=??
「おいおいおい。大智くん大智くん!」
と、まだ人数の少ない朝の教室で慌て気味に声をかけてきたのは剛だった。
「おお、おはよう剛。どうした?」
「DOLCEの件だよ!」
「あぁ、見た見た!音ちゃんがまさかの1位だったな!俺もビックリしたよ!」
「それもビックリなんだが、違うよ!これを見てくれ!」
剛はスマホを取り出すと、俺の目の前へと差し出した。
「掲示板?」
「コレ見てよ!音ちゃんがオーナーと繋がってて、人気投票の票を操作させたって書き込みだよ!」
「はぁ?!」
そう。そこへ書き込まれていたのは、今回の人気投票イベントと見事1位になった音ちゃんに関しての内容だったのだ。
じっくり見てみると、あまりにも悪質で信じられないような内容ばかりである。
「音ちゃんとオーナーがデキてる?!...あれは出来レース?!...ホテルに入るところを見かけた?!」
「これが本当なら僕ショックだよ〜...」
「ま、まさかそんなことするはずないだろ?!好きなら信じろよ!」
「そうだけど...」
まさか気が強くて男なんて皆嫌いよ!とか言い出しそうなあの本多さんが?
あまりにも衝撃の書き込みを目にした俺は、信じることが出来ずにいた。
・
・
・
放課後。
あれから1日中ずっと気にはなっていたものの、あまり本多さんに好かれていない俺は声をかけることが出来ず、ましてやこんな話を本人に直接聞くなんて勇気は俺には無かった。
諦めて今日は帰ろうとしていたその時。
「ん゛んっ...ちょっと?」
「え?」
声をかけて来たのは本多さんだ。
まさか本多さんから声をかけられるとは思っておらず、固まっていると
「これから少し時間あるかしら?」
腕を組み、そっぽを向きながらそう言った。
「べ、別に何も無いけど...」
「そ!じゃあ、ちょっと付き合ってくれる?」
そう言い残すと本多さんはスタスタと廊下を先に歩き出した。
「おい、ちょ、人に物頼む時くらいちゃんと話せよ〜!」
俺は急いで本多さんのあとを追いかけた。
そして本多さんに連れられやって来たのは、カラオケだった。
「なんで?なんでカラオケ?」
されるがままに受付を済ませ、部屋へと連れられる。
「ちょ、本多さん...」
「いいから!早く部屋入んなさいよ!」
と言いながら、ドンッと押され中に入った。
入口で突っ立っている俺を横目に本多さんは不機嫌そうに足を組みながらドスッとソファーに腰掛けた。
「何?早く座りなさいよクソオタク。」
「は、はぁ...」
そう言われ、机を挟んだ本多さんの正面のソファーに腰掛けた。
何故ここに連れてきたのかわからず、黙っていると本多さんもツーンとした表情で一言も発すること無く、その場はシーンと静まり返っていた。
無言が続き5分程たった頃、本多さんがやっと口を開いた。
「何か歌いなさい」
「はぁ?無茶ぶりにも程があるだろ?!」
「カラオケに来たんだから歌うのが普通でしょう?!」
「そうだけどお前がここにいきなり連れてきたんだろ!お前が先に歌えよ!」
「嫌よ。」
「はぁ?!」
「とにかく歌いなさい!!!!!」
そう言いながらピッと本多さんが曲を入れた。
画面に映し出され流れ始めた曲は...
『一生メイドルチェ宣言♡』
〜♪〜♪
「こ、これは...」
「DOLCEの公式テーマソングよ。何が歌えるか分からなかったから...。クソオタクのあなたならこれは歌えるでしょう?」
そう言いながらマイクを渡された俺は...
・
・〜♪〜〜〜♪
・
「誰もノリノリで踊りながら歌えなんて言ってないんだけど」
「ふぅ...!」
「そのやりきった感..うざいわよ。あとなんかキモイ。」
「DOLCEオタクだからな。曲が流れたら体が勝手に動くんだよ!」
「普通に歌うだけで良かったんだけれど」
ついついオタクの血が騒いでしまった俺は、ノリノリで踊りながら歌ってしまったのだった。
本気を出してしまいなんだか暑くなってしまった俺は、テーブルにあったジュースを一気に流し込んだ。
「飲み物無くなったから、俺ちょっと行ってくるわ」
ドアを閉め部屋を出た俺は一気に体の力が抜け、どっと疲れが押し寄せた。
「はぁぁあぁぁぁ...!!!あの横暴な本多さんとは言え一応女子だぞ?!いや、そもそも正体はあのDOLCEのNo.1になった音ちゃんだぞ?!カラオケで個室で2人きりだぞ?!しかも向こうから?!誘ってきて?!何これ?!ラブコメ要素全開なんですけどォォォォオオォォ!!!期待しちゃうんですケドォォオ!!!!!」
顔には出さなかった...いや、顔に出ないように我慢していたのだが、実の所女子と個室で2人きりになった経験も無ければ、そもそも女子と遊んだことすら無いモテない俺は、かなり緊張していたのだった。
「えっ、これってもしかしてアレですか?あのネットの情報は本当のことで、清楚な見た目して実は色んな男に擦り寄るかなりのビッチとか?!俺、もしかして襲われてしまうのか?!いやまて、ビッチだとしてもいいのか?!いいのか俺?!そんなビッチに今まで大切に守り抜いてきた(?)俺の童貞を捧げてしまってもいいのか?!」
「...」
「いいのか!!!!!!!!!!!」
そんな無駄な考えを頭の中でゴチャゴチャと考え、俺は鼻の下を伸ばしながら部屋へと戻った。
ー登場人物まとめー
【主人公】久賀 大智
高校2年生/17歳/
大阪のメイドカフェ〝DOLCE〟に通う。
推しである人気NO,1メイドの〝ヒメ〟にバイト代をほぼ全額貢いでいるクソオタク。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【新人メイド】本多 愛葉〝音〟
高校2年生/17歳/
〝DOLCE〟に新しく入った新人メイド。
以前からメイドへの強い憧れがあり、メイドへのこだわりとご主人様への想いはピカイチ。NO,1であるヒメ(姫乃)を尊敬している。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【NO,1メイド】白石 姫乃〝ヒメ〟
高校3年生/18歳/
〝DOLCE〟の人気NO,1メイド。
ぶりっ子だがかなり性格は腹黒いらしい。
最近入った新人の音(愛葉)の人気に嫉妬と焦りを感じている。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【友人】江山 剛
高校2年生/17歳
大智のクラスメイトであり親友でありオタク仲間でもある。
大智と違い特に推しは作らず、DOLCE自体が好きで店に通っているタイプのオタク。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【友人】元井 咲良
高校2年生/17歳
愛葉の親友で、唯一メイドとして働いていることを知っている存在。
面倒くさがり屋で、楽観的な性格だが意外としっかり者な一面も。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【オーナー】 間柴 勇
自営業/29歳
DOLCEのオーナー兼キッチン担当。
裏でしっかりメイドたちを支えるDOLCEの柱的存在。
見た目とは裏腹に、困った時は結構頼りになるらしい。