オタクとメイド
衝撃の事実を知ってしまった俺は本多さんに路地裏へと連れられたのだった。
「いい?!誰にも言わないで頂戴よ。特にあの江山剛には。」
「分かってるってば...」
「ただでさえ闇深いメイド界隈...客とメイドがリアルで繋がってるだなんて知れたらどうなることか...!」
「だから言わないってば...」
必死に口止めする本多さんを横目に俺は今までの出来事を脳内で整理していた。
あの日初めて出会った純粋で頑張り屋さんな音ちゃんだったが、今目の前にいるこの本多さんと全くの正反対で理解が追いつかないのだ。
「と、とにかく...!私はもう出勤の時間だから、いい?わかったわね?」
「わかってるよ...」
そう言いながら店内へ入っていった本多さんを見送った。
「これが理想と現実ってやつか...」
しばらく考えた後、このまま帰ってしまうのは勿体ない気がした俺は、そのままDOLCEへと入った。
「おかえりなさいませ!ご主人様♡」
無論、本多さん...いや音ちゃんはかなり嫌そうな顔をしていたが、また笑顔の音ちゃんに戻りいつも通りの対応をしていた。
「あら、さっきぶりですわね♡ウフフ」
訳(さっきあれだけ言ったのに何普通に客で来てんのよ?)
と、心の声が聞こえる気がした。
「俺はヒメちゃんに会いに来たからね!」
訳(お前に会いに来たんじゃねーよ!)
「ヒメさんのこと本当に好きなんですね!羨ましいですっ」
訳(相変わらずヒメさんのクソオタクしてるのね!ヒメさんが可哀想〜!)
「ヒメちゃんは可愛いからね!」
訳(お前は死んでも推さねーからな!)
「こんな一途なご主人様がいて、本当にヒメさんが羨ましいです♡」
訳(こっちからお断りだわクソオタク♡)
そんな心の言い合いをかましていると、横からひょこっとヒメちゃんが声をかけてきた。
「2人ともいつの間にそんなに仲良くなったのぉ?ヒメもまーぜーてっ!」
「「かっかわいい...!」」
ピョンッと飛び跳ねてテーブルの上に顎をのせたヒメちゃんに、思わず俺と本多さんは声を揃えた。
「ほらぁ〜、やっぱり仲良い!あやし〜い!」
「「仲良くないですよ〜アハハ」」
「あっ、また揃った!ますます怪しいんだけど!」
「大丈夫だよ!俺はヒメちゃんがだーいすきだから!」
「ほんとっ?良かったぁ!」
「あっ、ヒメさんが来たのでじゃあ私はこれで失礼致しますね!どうぞごゆっくりして行ってくださいね!た・い・ち♡ご主人様♡」
嫌味のようにそう告げると、音ちゃんはそそくさと去っていってしまった。
「ヒメちょっと妬けちゃうなぁ〜、いくら音ちゃんが可愛いからってデレデレしちゃって!」
「し、してないよ!そんなの!」
「ふ〜ん?」
「本当に!」
や、妬いてるヒメちゃんも凄く可愛い!
その日の俺は、そんなヒメちゃんを見られて家に帰るまで興奮が冷めやらなかったのだった。
ー登場人物まとめー
【主人公】久賀 大智
高校2年生/17歳/
大阪のメイドカフェ〝DOLCE〟に通う。
推しである人気NO,1メイドの〝ヒメ〟にバイト代をほぼ全額貢いでいるクソオタク。
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【新人メイド】本多 愛葉〝音〟
高校2年生/17歳/
〝DOLCE〟に新しく入った新人メイド。
以前からメイドへの強い憧れがあり、メイドへのこだわりとご主人様への想いはピカイチ。NO,1であるヒメ(姫乃)を尊敬している。
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【NO,1メイド】白石 姫乃〝ヒメ〟
高校3年生/18歳/
〝DOLCE〟の人気NO,1メイド。
ぶりっ子だがかなり性格は腹黒いらしい。
最近入った新人の音(愛葉)の人気に嫉妬と焦りを感じている。
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【友人】江山 剛
高校2年生/17歳
大智のクラスメイトであり親友でありオタク仲間でもある。
大智と違い特に推しは作らず、DOLCE自体が好きで店に通っているタイプのオタク。
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【友人】元井 咲良
高校2年生/17歳
愛葉の親友で、唯一メイドとして働いていることを知っている存在。
面倒くさがり屋で、楽観的な性格だが意外としっかり者な一面も。