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間・のない悲劇。悲劇は次々やって来る!

「ここで二手に別れよう────」


 瀧の力でまたしも車を盗んだ。これで二台目だ。一つは関西国際空港へと行く車。もう一つは日本で逃げ回るために使う車だ。



 山を削って作られたこの村は木造の家が建ち並ぶ。ビルのような大きな建物はなく、まさに田舎という風景である。米が植えられた田圃は雑草の生えた荒地と交互に点々と存在している。地面は所々古くなってひび割れたコンクリートが見える。

 人の移動は殆どない。若者となる者は見当たらず老人は家で残された人生をゆっくりと味わっている。寒い外へとわざわざ出てくる人は少ない。


 過疎化が進んだこの村には空巣となった場所も少なくない。悪の休息地としては持ってこいの場所だ。


 一段落息をついたらまた動き出す。

 油断は禁物だ。もたもたはしていられない。いつ警察が追ってくるかなんて分からないのだから。

 それに、海外へと逃げるには身元がバレてはいけない。上手く顔を隠し別の人間に見せて進む必要がある。しかし、もたもたしていると顔がはっきりとバレてしまう可能性がある。


 瀧らは俺らとの別れを言い放ち車へと乗り込んだ。そして、瀧に続いて偽物の俺五人も乗り込んで、滝は車のアクセルを踏んだ。


 俺らも瀧のお陰で入手出来た車に乗り込んでエンジンをかける。


 俺らとは真逆の方向へと進んでいく。

 俺は手を振って見送った。車は古びた住宅街を走り抜けていく。


 が、、、

 黒く衒う車が瀧の乗る車へと思いっきり衝突した。


 あまりにも衝撃的で俺は目を見開いた。鮮明に瀧らの状況が脳に映る。

 瀧の車は逆さまに反転していた。仕方なく車から脱出していく瀧ら。それと同時に衝突した車からも誰かが降りてきた。


 少し高価な黄土色の地味なコート。ワックスで固めた黒い髪。見下したように見つめる眼。見たところ若い感じがする。

 彼の手には刀を持っていた。



 瀧が危ない───

 誰かは分からないが、正義のために悪人の俺らを殺そうとしていると踏んだ。偽物の俺らは死なないと安堵しているが、瀧は殺されてしまう。

 思わず俺は車から飛び降りた。


「僕は畔川(あぜかわ) 大樹(たいき)。この世のために君達には死んで貰うよ!!」


 刀を持つ男は大樹と名乗った。


「知らんな!一戦交えようとするなら、受けて立つよ!俺は死なない!本当だぜ?なんなら、殺してみるか?」


 偽物の俺は大樹の前へとずかずかと近づいた。例え、刀で斬られたとしても蘇り分身する。いずれ数の暴力で彼は勝てなくなる。

 そう思っていた────


「知ってるよ、分身することはね。だから、動けなくするのさ。」


 大樹は洗練された刀捌きで偽物の四肢を切り落とす。両手足を斬られた偽物はダルマ状態となり地面に倒れた。

 斬られた傷痕から出る血は止まり、そして、生々しい所は綺麗に皮膚に覆われた。

 元から両手両足がない人のような容姿となっていた。


「骨が折れても元通り、血が出てもすぐ止まる。けど、骨が切り落とされればその骨は戻らない。」

 大樹は転がる俺を踏みつけた。そして、血が滴り落ちる刀を偽物に向ける。

「斬られた腕と君の身体を繋ぐには糸が必要だ。しかし、死なないとその糸は現れない。君は死なずに切り落とされたせいで繋ぐ糸は現れない。どころか、接合する部分を無用に回復させたせいで両腕両足は戻らなくなる。不老不死ですぐに回復してしまう力も、返って絶望を味わうなんて──皮肉なもんだね。」


 冷徹な目が俺を、俺らを怯ませる。

 何故か不死身な俺でも勝てる気がしない。恐怖が俺の心を支配した。



「死ぬ訳じゃねぇ!怯むな!!同時に攻めるぞ!」


 四人の偽物はまだ戦う気だ。刀さえ奪えば倒せる。二人以上いっぺんに攻めれば刀を奪いやすい。


「君は君自身のことをなんにも知らないんだね」


 大樹は刀を鞘に収め、懐からマッチを取り出した。マッチ棒が鑢紙(やすり)と擦れ先端が燃え始めた。

 大樹は手に持つそれを太一に向けて投げる。

 小さな火は太一に接触するといなや燃え盛る大きな炎となった。乾いた空気が余計に火を焚かせる。


 雪雲によって暗く閉ざされたこの村に現れる紅く照らす炎が大樹を美しく魅せていた。見下すような目が一瞬の時を止めた。

 いつしか火は消え去り、火だるまとなった太一は消えてしまった。分身が増えるどころかその太一が蘇ることはなかった。


 不死身だと思っていた俺が──死んだ?

 どういうことだ?


「不老不死の君は唯一、火で殺すことが出来る。君の取り込んだ妖怪(・・)の唯一の弱点は火だ。不老不死だと思って余裕ぶっていたのが仇となったね。」


 大樹は不気味に微笑む。

 足が竦む。身体は震え、目の焦点が合わない。



「さて、君達には死んで貰おうか────」



 敵わない敵──そう感じた。少なくとも残された俺もそう思っているだろう。

 偽物は恐怖によってそこから離れようとする。


 それに追い討ちをかけるようにマッチの火が投げられた。火は太一を焼き、木造の家を燃やした。

 雪が降り頻る静寂の夜に燃え盛る業火の炎が瀧らを襲う。



 火事は隣の家、隣の家へと燃え移る。凪が炎をより強くする。逃げ惑う声が広がっていく。

 真っ暗闇の中にある大きな炎が影を伸ばす。その炎はまさに俺の悪魔を凌駕する程の怪物のように見えた。



「逃げるぞ!!」

「ああ────」


 俺の思考が停止した。その時に、仲間の誰かの計らいで俺は車に乗り込んだ。何も考えていないので、何故乗ったのかは覚えていない。


 炎に見舞われた村を背に車を走らせた。

 目に映る炎は段々と遠ざかりいつしか瞳には映らなくなった。



 瀧、あの村に残それた俺の分身達……

 どうか無事でありますように────



◆◆◆



 車を走らせてから夜が明けて朝を迎えた。

 俺らは見ただけで治安の悪いことが分かる場所へとやって来た。


「ここは日本の裏の顔だ……」

 くすんだ色合。綺麗さは全く見られない。

「江戸時代の階級差別が今にも残る。その部落民の住む場所の一つだ……」

「階級差別?」

 冬秀はここへと連れてきた。ここに詳しいようだ。

「江戸時代に平民の下の階級、穢多(えた)非人(ひにん)が作られた。一説には平民のモチベーションを保つために作られたという説や誰も手を出したくない職種の役割を埋めるために作られたという説がある。

 明治には四民平等としてこの差別構成を廃止した……が、それは政府の出したもので国民の心の根本には差別意識は残っていた。

 いつしか全国水平社が差別社会を廃止を訴えかけ、差別廃止の旋風を巻き起こした。」


 薄く汚れてはいるが綺麗な服装の人が横を通る。俺らが犯罪者で脱獄犯だということに気付いてないのだろう。何事もなく素通りしていった。


「だが、結局差別が消えることはなかった。複雑に絡む根っこのように心の底に残っているんだよ。それを示すのがここさ。社会から排除されている部落。

 未だに差別され報われない生活を強いられているこの部落民は改善のために鈍く動かないこの社会への不満から反社会的思想を持つものも少なくない。

 まあ、それは表に出すような奴は殆どいねぇが、俺らを隠してくれる奴はそこら中にいる。ここをひとまず拠点にしよう。」


 俺はこの村を隠れ家にすることにした。

 冬秀はここの出身だったことが発覚した。そして、そのお陰で匿ってくれる人がいた。

 生活は少し苦しいものだが、贅沢はいえない。そもそも、刑務所の中よりマシに感じた。




 その日は夜となり俺は就寝した。

 寝ている間に昨日起きたことを整理した。



 俺は不死身だと高を括っていたが……炎で死ぬんだ。

「だからどうした?人間なんだし死ぬのは当たり前じゃないのか?」

 俺は夢の中で一人呟く。

 目の前は真っ暗闇。未来を見通せるぐらい確立したものは見えない。希望があるのか分からない。絶望の可能性なら幾つでも数えられそうなのに。けど、その絶望はいつも予想を越えてくる。


 やっぱり、未来はどうなるのか分からないな────



「迷ってる暇はない───か……。」



 大樹が襲ってきた時、迷ってあのまま車に乗って逃げなかったら俺はもうこの世にはいないんだろうな。

 迷って何もしないという逃げの選択肢よりも最初(はな)から逃げるを決めた選択肢の方が格好いい。いつも問題や課題が来る度に迷って迷って迷いまくる俺はいつもそれから目を背けていた。もう目を背けられない。背けた結果が今の"俺"なのかもな。



 迷って悩んでいては閉じれない瞼を俺は閉じて夢の中へと入っていった。

次回予告



 ついに動き始める社会の制裁。

 動き出す大樹。


 謎の男隆志。彼は誰なのか?


 悲劇を乗り越えた先に……何が待つ?



 次回も作ろうかな?

to be continued

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