カ・能性ゼロ!?刑務所からの脱出!!
警察に現行犯逮捕として捕まった俺は署まで連行され、事情聴取された。そこで何故犯行に行ったのかを聴かれたのだが、黙秘した。いや、黙秘するしか出来なかった。下手なことは言えない。非現実的な事が事実であり、彼らが信用するとは到底思えない。
何日か拘留された後、俺は裁判にかけられた。
親は来ていない。親にとっては偽物であり本物はGZ-991だ。だから、偽物として見られている俺の所へは来ないのだ。
そして、刑事裁判は俺の敗訴で終わり懲役10年が義務付けられた。
こうして俺は刑務所の中へと閉じ込められた────
◆◆◆
囚人の俺は希望の見えない日々を過ごしていた。
日の当たらない屋内からは勝手に出られない。就寝、自由時間の半分は俺に与えられた部屋に閉じ込められる。そこから逃げ出すことは不可能に近い。鍵がかけられているし、不審な行動は取れない。刑務官の見回りもあるし人数が欠けていたら、刑務官らにマークされる。マークされれば逃げることは出来なくなる。
俺は囚人No.20086と名付けられ、常に管理されている。
一日の朝はその部屋から始まる。
その部屋は独房ではなくもう一人の囚人がいる。簡素な作りで最低限生きるために絶対必要な物以外はない。部屋は硬い壁に囲まれた正方形で、一つだけドアがある。そのドアは外からしか開閉出来ない仕組みだ。
朝起きれば朝食を取ることになる。囚人らで集まり提供された質素な食事を取る。
その後、家事に関することが役割として与えられているので、その役目を果たす。余計な時間は部屋に閉じこもる。
昼が過ぎると食事を取る。その後、刑務官によって外へと出される。
外に出ると畑仕事を行う。そこでも監視されていて下手な行動を取ればマークされてしまう。
外には畑がある。そこから遠くには檻が囲っている。その檻は高く、上の方には棘がついている。下手して登って足を滑らせたら一溜りもない。
その檻の向こうには高い塀が聳え立つ。例え檻を乗り越えても塀を乗り越えなければ連れ戻されてしまう。
与えられた仕事が終われば部屋へ。そして、部屋を出て夜御飯、身体を洗い流し、などを行う。その過程の後部屋で就寝だ。そこで人数が足りているか確認され、部屋に鍵がかけられる。
失敗は出来ない。
だからといって、抜け出そうとしない理由にはならない。俺はここから絶対に抜け出してやる。そして、俺を罠に嵌めた二人に復讐してやる。
囚人となった俺はもう正義を掲げることは出来ない。
なら俺は、悪による悪退治を行うだけだ。そのためにはまずこここら抜け出さなければ……
「お前ェ~、ここから脱獄しようって考えてるな~」
相部屋となった恩藤瀧が耳元で囁く。就寝時間から数時間は経った頃だ。外は星が美しく輝いているのだろう。
彼は凄腕の泥棒で、与えた被害額は指で数え切れない程だ。鍵のかかったドアを容易く開けることが出来る特技を持つ。ただ、鍵穴がないと開けれない。この部屋には鍵穴はないのでここからは脱出出来ないでいる。
「まあな、濡れ衣を着せられたんだ。復讐しなきゃ気がすまない」
「なるほどな……だが、マークだけは気を付けないといけない。俺も脱出させてくれるなら協力するぜ~」
「ああ、協力しよう。ただ、少しずつ確実に脱出を計画しよう。」
脱獄には彼の力は必要だ。しかし、彼だけの協力では脱獄は出来ない。他にも協力を煽る必要がある。
朝となり当番となった家事をする。その時に共に家事をすることとなった囚人の雀坂冬秀に近づいた。刑務官には気付かれていない。
「話がある!」
「なんだ?」
「俺は脱獄を考えてるんだが、協力してくれないか?」
「何を馬鹿げたことを……囚人No.20086」
「俺に案がある。黙って協力する意思を見せろ!No.20074」
「失敗したらただじゃ済まないからな──」
冬秀は暴行事件を起こして捕まった者だ。彼は暴行を起こす程気が荒い。鍛え上げられた身体。すれ違う者を脅えさせるような厳つい顔。まさに、剛腕の荒くれ者って感じだ。
脱獄の計画を実行するのはまだまだ先だ。俺は新入りで軽くマークされている。刑務官は俺が脱獄など儚い足掻きをしないか見張っている状態。
その状況が過ぎ去るまで…俺は何も抵抗しない手なず蹴られた犬となる。刑務官に何もしないという信用を得るまで俺はひたすら着実に準備を進める。
幸か不幸かこの身体では死ぬことはない。さらには、傷もつかない。棘にささって傷ついてもすぐに傷痕は消え去り逃げるためのリスクを追う必要がない。
この脱獄は、この特性ならではの……脱獄だ!!
◆◆◆
直射日光の色が薄くなってきた。
炎天下の中で耐えてきた身体は薄い炎の中で軽々と動いていく。夏の凪は秋風へと変わり、涼しい風が包み込む。
重い鍬を振り上げて地面に向けて振り下ろす。柔らかい土に刺さる。深くにある土に外の空気を浴びせるために土を上へと持ってくる。黄土色の土は黒褐色の色に覆われる。
そここら一歩下がってまた鍬を振り上げて、振り下ろす。そして、土を耕していく。その繰り返しだ。
夏に野菜を収集したばかりで土は柔らかかった。新嘗まで時間もないのに種を植え始める。ここの畑は三毛作で、春に野菜を植えて初夏に収穫。すぐさま植えて秋の初めに収穫。そして、今また植え始める。
秋の真ん中に収集するのが一般的なのだが、ここでは秋の初めに収集する。秋の真ん中に収集するのには今頃では間に合わない。
鍬を降ろした。
俺は張り詰めていた息を吐いてかいた汗を手で拭う。
秋になったとはいえ、残暑で暑く汗をかく。猛暑の時よりもマシなため平気に感じるが、やはりひと仕事の後は疲労が溜まる。
「お疲れだなぁ。なぁ?20086?」
「20087……。どうしたんだ?」
「いやぁ?めちゃくちゃ疲れてっから絡んだだけさ」
彼は椿裕翔。性的虐待をして捕まった囚人だ。
弱々しい見た目の癖してなかなかの力持ちである。
「じゃあなっ」
今日の仕事はここまでのようだ。刑務官が呼んでいる。
多分、この瞬間だけが外で刑務官が目を離す時だなと思う。刑務官は帰っていく囚人を一人一人確認するために扉の前に構える。確認が一段落つくまではそこから動かない。
だから……その場所の死角となる場所にいればバレない。
ただし、ずっとここにいると刑務官が確認してくるからこれは時間との戦い。
「おい……20086…」
冬秀が鍬を持って近づく。
「脱獄なんて出来るわけなかったじゃねぇか?」
俺の頭に思いっきり鍬が振り落とされた。
強い衝撃が俺の頭を撃ち砕く。俺はいつの間にか真っ暗な空間に漂っていた。
真っ暗な空間に漂う俺の目の前に現れる人外の存在。
<そうだ!絶望から脱出するために、、さあ、この力を使うんだ!!>
眼前の悪魔は段々と変形していきいつしか俺の分身になった。
<さあ、もっと、分身を!!!>
俺は一瞬にして元の世界へと戻された。
俺の目の前で震えている冬秀。そんなに俺が無傷でいて瓜二つの分身がいることが恐ろしいか?
位置的に俺が本物だな。俺の頭に鍬の先端が乗っている。もう一人の偽物には乗っていない。
「それじゃあ、脱獄作戦に移ろうか────」
もう一人の俺は影へと消えた。そして、俺は普段通り部屋へと向かった。向かいながら俺は冬秀に告ぐ。
「20074、今のは秘密な、脱獄したければな。」
「ああ、お前についていけば新世界が拓けそうだしな」
奇跡的に俺は呪いの本に選ばれた。
俺はもう人間じゃない……。人間と悪魔のハーフ。この身体を使えば新世界の創造も夢ではない。佐藤太一の支配する世界。それはそれで面白そうだな───
だが今はその考えは保留にしておこう。
そんなことを考える暇はなかった。
まずは、失敗すれば二度と出られないこの囚獄から脱獄しなければ……
俺は必ず脱獄してやる────
次回予告
ついに脱獄計画を始める。
地の果てに閉じ込められた太一はそこから脱獄出来るのか?
そして、その先に見える運命とは?