ー・番大切なもの────
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『今朝、六十代の安藤美代が黒に覆われた男と思わしき人物三人組みによって殺害されました。』
安いテレビを隔て、アナウンサーが流暢に情報を伝えていく。ニュースの話題となっているのは、この家の付近で起きたアポ電殺害事件だ。
高齢の方に電話で多額のお金を用意するように伝え、用意した所に犯人は侵入してその高齢者を殺害。用意されたお金を奪っていく。…という事件である。
それが家の付近で起きたのだ。嫌な事件だと感じる。あまりにも物騒なことが身近な場所で起きると、心が不安で溜まっていく。
俺はテレビを消した。
テレビ越しのアナウンサーは消えて画面は真っ黒に染まった。
一番大切なものは"生命"だと思う。
その生命を奪ってしてまでお金は大切なのだろうか?俺は、生命に勝るお金など存在しないと思っている。
テレビ越しの事件に関与した三人組の犯人の気持ちは一切分からない。どう生きたらそんなことが出来るのだろうか?俺には分からないし、分かりたくもない。
分身を増やしてから二ヶ月経った。今頃何をしているのだろうか?
俺は窓越しに映る外の景色を眺めた。
雨が降り頻る。六月に入り、梅雨の季節となった。天気は好転することなく曇りか雨の日が続く。
今日は会社を休む日。俺は暇の時間をゆっくりと堪能していた。今日は午後からどうしようか?服でも買いに行こうかな。
最近、何故か知らないが服の値段が大幅に格下げされた。多くの販売者は安く売られる服によって売り上げを大きく減らし、大幅損となっている。しかし、俺には関係ないことだ……
服が安く売られる原因を作ったのはこの付近の会社である。絶対に損となる値段で売り続けたのにも関わらず大きな利益を出している。ただし、その服の素材は謎に包まれていて、製造方法も何もかも謎だ。だが、質は他の服と比べてそんなに違いない。
俺にとって質が同じぐらいな服なら安い方を買う。給料も高い方とはいえない俺にとってはこんなに嬉しいことはない。
ただ、安いのには裏がありそうだ。それがセールや期間限定など今だけのものの可能性がある。なら、後回しにはしていられない。
今日は服を買いに行こう────
俺は傘で雨を守りながら店へと向かった。
◆◆◆
色んな服が安く売られる。お金の無い俺にとってはとても嬉しいことだ。
服も買い終わり、俺は店を出た。
片腕に服の入った紙袋をぶら下げ、もう片方の手に傘を持って雨を避ける。
服を沢山買えたという軽やかな気分を台無しにするように土砂降りの雨が気分を重くする。どんよりとした暗い空気が不穏を醸し出す。
何気ない道を歩く。
水溜りを避けながら進むために俺は俯いて歩いていた。
上を向いて歩くのは努力や希望などを示す良い意味が揶揄されるが、下を向いて歩くのは堕ちる人生などを示す悪い意味で揶揄される。
だけど、水溜りは避けたいから下を向く。
水溜りは靴と靴下を濡らし俺を不快にさせる。だから、嫌いだ。
とりま水溜りが好きな奴は子どもしかいないだろう。と俺は踏んでいる。
その時、道の途中にある家から悲鳴が起きる。
その悲鳴は降り注ぐ雨によって消されてしまった。が、俺はその悲鳴を聞き逃さない。俺は悲鳴がした家の方を眺めた。
その家から出ていくフードを被って顔を隠した三人組。
噂のアポ電強盗殺人の犯人三人で間違いないと感じた。行動も怪しい。
周りを見渡し、何かを抱えて雨の中を駆け抜ける。彼らは傘をささずに雨の中に打たれながら走っていった。
俺は死なない身体を持つ人間として、彼らを追いかけ捕まえる。
────正義のために!!
雨で視界が悪い。
俺は全速力で走った。じゃないと、見失ってしまう。
複雑に絡んだ路地裏で目前の犯人を追いかける。角を曲がり、道無き道を通り、人気のない場所を潜り抜ける。
そして、犯人の足は止まった。
そこは、無人の建物の古びたガレージの下だった。
俺は彼らを追い詰めた。そして、正義のために戦おうと思った。
「俺は死なない!お前らを捕まえる。殺したければ、殺してみていいぜ!後悔しても知らないけどな!!」
俺は殺されないどころか分身する。そうやって、人数が増えれば犯人に勝てる。
ザアザアと鳴り響く中、俺は自信満々に口を開いていた。
犯人は俺に攻撃をしかけない。
俺の言葉を信じているのだろうか?事実ではあるが、非現実的であるために他人では信じられない話であると思うが……
「殺したら分身するだろ?それぐらい知ってるよ!」
犯人の内真ん中の一人が前に出た。
馴染みある声────
俺が産まれてから毎日耳にするこの声は、、、
犯人は三人ともフードを取り去った。三人とも全く同じ顔。そこには、予想通りの人物が見えた。
犯人は分身の俺だった───────
「その正義面が巡り巡って誰かを傷つけたり失ったりする。お前は正しいことをしたと思っているだろ?しかし、それは人殺しに繋がった。分かるか《本物》?」
意味が分からない。
俺が正義を掲げたことが悪いことなのか?
もしかして、約二ヶ月前のあの事件の後で何かあったのか?あの時の不安は正解だった。
だけど、、
「人を殺していい理由にはならない!この世で一番大切なものは"生命"だ!!何で人を殺してまでしたんだ!!?」
どうして生命を奪うことまでしたのか?俺はがっかりしたのと同時に、憤慨した。それは子どもを想う親心のように……
「それはお金がある奴の言葉だ。何も無い奴にとって一番大切なものは"金"だ!!金がなきゃ何も始まらない。」
「あの時、金はいらないと言ったのはお前の方じゃないか!?それでも生命を奪う理由にはならない!!」
例え、一番大切なものが金だという価値観であっても生命を奪っていいわけがない。
「ああ、あいつはそう言ったし、奴は金には困っていない。それが、俺らを苦しめた。」
「どういうことだよ?」
「教えてやんよ!!《本物》の増やした分身が何をしたか…」
彼らに何が起きたんだ──?
「二ヶ月前、お前は人を助けるために分身を増やしてまで犯人逮捕を行った。そして、現れた分身は金を貰わずにお前と別れた。その分身をLQ-449としよう。
LQ-449はお前と別れた後、向かったのは服屋だった。
分身する自身の特性を明かし、それを利用することで利益に繋ぐことが出来るから代わりに住む場所と職を欲しいと頼んだ。
その服屋の店長は変人だと思いながらも慈悲で仕方なく雇った。当たり前だが、彼の言うことを信じてはいなかった。
だが、LQ-449は非現実的な事をやってのけた。彼の言ったことは本当だったことを分からせた。
LQ-449は分身を作ることで服をただで増やした。ノーコストで服を生み出す。服を増産させたければLQ-449に服を着させて殺せばいい。
そしたら、服も増えている。
最近、服の値段が安くなったのはこのためだ。
で、LQ-449は出た利益を独り占め。
生み出された俺らはどうなったと思う────?」
そうか分身を作ることで服を作ることをしていたのか。
LQ-449は東京にいた病院の院長の案を取り入れたのだ。だが、それは生み出される分身のことなど一切考えていない。
「分からない──」
「答えは、"棄てられた"────
俺ら分身はゴミ扱い。何も抵抗出来ずにゴミ箱へ。
そして、俺ら三人のようにここへと戻れたのは一握りだ。ただ、戻れたのはいいが俺らには何も残ってはいなかった。
無一文で住む場所も信頼もない。LQ-449のようになるのもごめんだ。
餓えの中で何のために生きるのか分からなくなった。
死にたくても死ねない辛さがお前には分かるか?いや、分かる訳がねぇ!
辛くて辛くて、ここから抜け出すため金が必要だった。だから、俺らは殺人を起こしたんだ!!!」
雨の音が俺らの音を消し去った。
俺は分身まで増やして正義を実行した。その分身がさらに、分身を増やし続け彼らのような悲劇を生み出した。
彼らはその悲劇から抜け出すために殺しを起こした。
それでも俺にとっては"殺人を起こすまでする必要はない"と感じる。
状況や環境、歩んだ道が少しでも違えば例え同一人物だとしても考え方は変わっていく。俺には同一人物の俺の考えが分からない。
しかし、同調はした。
今の俺では彼らを捕まえることは出来ない。
理由は犯人が俺であることと、そして同調してしまったこと。
「──今回は見逃す。だけど、もう二度と誰かを傷つけることはしないでくれ」
そう言うのが精一杯だった。
捕まえはしない。だが、これ以上の被害は食い止めたい。この正義だけは貫きたい────
「それと、俺を家まで連れてってくれ!」
必死に追ってきたから来た道を覚えていなかった。
正義のために必死に着いていって、その正義とは何かを問われた。問われた俺は迷走へと走っていく。
何が正義なのだろうか?
正義が時に誰かを傷つける?
俺と案内をしてくれる俺は互いに無言で帰路を辿る。
いつしか俺は彼と別れ、家へと辿り着く。
家へと帰ると早速身体を洗い、家着に着替える。
そこからベッドに転がり込み天井を眺めた。
「正解はなんだろうか……。そもそも、正解はあるのだろうか…」
分からない……
犯罪を犯したあいつに対して、どう接すれば正しかったのか?
あそこで捕まえた方が良かったのか?それとも、彼らを助ける方が良かったのか?
俺は何も分からず、見なかったことにした。それは本当に正しかったことなのだろうか?
俺は変哲もない天井をただただ眺めるだけだった。
次回予告
悪に手を染めた太一に関わったことで俺の人生はさらに狂う。
再び悪に染まる太一を前に俺は何をすればいいか。
正義により捕まえるか────?
それとも、何も見なかったことにして必然的に認めるか────?
衝撃の展開へ!
次回は考えてはある
to be continued