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ョ・ケイなお世話!新たな《俺》

 窓側の席に腰を下ろした。


 家から追い出された俺は、東京から出ることにした。ただ行く宛は実はなく、第二の都市である大阪に行けば何とかなりそうだと思ったのでひとまずそこに行くことにした。

 東京に縛られたくはなかった。

 心機一転するために東京から出たかった。


 取り敢えず、真っ先に思いついた大阪へと向かって、着いたらそこで人生計画を考えよう。



 新幹線の席を購入する。その席はたまたま窓側の席だった。


 窓の隙間に肘を下ろし俺は外に映る風景を眺めていた。

 人工物のビルや建物が都市を感じさせていたが、すぐに田園が広がり豊かな自然を感じさせる。

 田園の中に聳え立つ富士山はまさに轟々としていて逞しい。自然の風景に溶け込むことで俺はこの世界の理不尽でくすんだ心を隠した。

 もう、葉月とは逢えなくなるな───

 だがしかし、どんなに離れていても逢えなくなっても……俺は絶対に忘れはしない。彼女のプレゼントは置いて来たし、大阪にいたら彼女とも逢えない。だけど、俺の心の支えとなっている葉月を忘れるようなことだけはしたくない。そう心に決めているから。



 田舎が過ぎて再び都市に入る。東京や大阪と比較すると劣るが田舎と比べると愛知は圧倒的に都市だと感じる。そして、そこを過ぎて田舎に移る。

 いつしか大阪に着いた。



 部屋も無しで大金を手に持っているのは不安だ。

 まずは部屋を手に入れて必要なお金を使おう。

 俺は大阪に着いてすぐに物件探しのための店に行った。持ち金は五十万もない。新幹線代で軽く減っているからだ。

 そして、俺は二十万の部屋を購入した。アパートで少し小さな住まいとなるが一人暮らしの俺には丁度良い。


 まだその家で暮らすことは出来なかい。手続きがあるようで、それが完了してから暮らせるようになる。その間は、ホテルに泊まるしかない。


 残る三十万……俺の懐に十万を引き下ろしており、その十万で何とか家に住めるようになるまでやりくりしなければならない。



 俺にはやることがあった。

 夜が明けたら、すぐに黒スーツを購入した。何をやるのか?だいぶ察しがつきそうだが、俺は仕事を探しに行かなければならない。


 現在、新緑の映える春だ。新入シーズンは過ぎたが、まだ間に合う時期だった。それも、最近では入社試験も春に限定されなくなったためこの時期でもまだ入社の可能性がある。

 俺はスマホを取り出して仕事を探した。

 良さそうな所が幾つもある。ワガママは言ってられない。出来ればいい所に入社したいが、無理なら無理でどんな条件の会社でも入社するつもりだ。




 日々が過ぎるのは一瞬だ。

 いつの間にか一日は過ぎていく。平等に分け与えられた一日は経ったの二十四時間しかなく、その内、睡眠時間も入れれば自由の時間も減る。

 日にちが経ち、俺は新たな家へと住めることとなった。


 生活に必要な最低限の物を揃えて行く。


 並行して入社試験も行う。初試験は緊張する。俺が選んだのは製造業の仕事だった。家からも近くて歩いて通えるのが理由だった。倍率は少し高め。高卒、大学中退の俺には面接は部が悪い。

 保険として他の入社試験も行う。二回目の試験なので少しは緊張が和らいでいる。その会社は事務仕事で一日中パソコンを触れる仕事だ。倍率は初試験の所よりも高いが、給料はその分良い。


 ────結局、二つとも受からなかった。




 仕方なくアルバイトで給料をやりくりすることになった。バイトなら簡単に入ることが出来た。

 低賃金で何とか日々を生きる。貯金も底をついてきている。早く会社を見つけなきゃ……


 俺は自分自身の人生を歩むだけで精一杯だった。

 分身が増えるとこの生活は破綻する。二人に増えて生活費が増すともうこの生活を続けることは出来ない。


 そのリスクを背負いながら人生を全うした。



◆◆◆



 ついに就職先が決まった。

 製造業で、文房具を作る会社の下請け会社だ。何を作るのかはあまり深くは分からない。俺はただ仕事が必要だからこの会社に入った訳で、趣味のために入った訳ではないために深く知ろうともしなかった。

 やっと運気も好転して来たのか────?

 やっていたバイトを辞めた。その会社だけで生活は出来る。




 朝起きて朝ご飯を軽く食べ終え、軽く家事を終わらす。そして、家を出る。

 熱気漂う満員電車で四方から押されながら立っている。目的地の駅に着くと人の波に揉まれながら電車を出る。そこから、会社まで徒歩で向かう。

 会社でひたすら製造の仕事をこなしていく。

 仕事も終わり帰宅する頃には夕焼け空が広がっている。「今日も一日頑張った」と息を吐く。また満員電車で揉まれながら家へと帰っていく。

 家に着く頃には月が出始め、周りは暗くなっていく。

 帰宅後すぐにカップラーメンを作って食す。腹の虫を抑え終わったら、疲弊した身体をシャワーで洗い流す。やるべき事をこなして、ベッドに入る。


 陽射しが朝を告げる。俺は家に鳴り響く目覚まし時計を止めて身体を無理やり起こす。

 また同じ朝が始まる。いつも通りの朝だ───





 そんな生活を行って日は幾つか過ぎて行った。

 今日は、会社は休みだ。ゆっくりと寝て起きたのは針が反対側に一つ進んだ時刻だった。

 青紫の雲が空を覆い、どんよりとした空気が漂う。


「十一時か……。今日はもっと早くから買い物に出掛けようと思っていたのにな……」


 予定では九時に家を出るつもりだったが、二時間も遅れている。誰にも迷惑はかけないし、とりまどうでもいい。俺は堕落した動きで家事を終わらし、家を出る。



 曇りが気分を抑えていく。

 折りたたみ傘を鞄に入れて雨に備える。それでも、雨は降って欲しくはなかった。傘があっても完全に守れる訳ではないからだ。


 こんな天気の悪い日は人通りも悪い。

 人影は俺を含めても片手で数える程しか見当たらない。その何倍もの車が横を通り過ぎていく。



 冷たいアスファルトを踏みしめて歩いていく。こんな天気だと気分も優れない。

 車通りも悪くなった……というより、車も全く通らない道に俺が来ていた。


 白いガードレールもなく、地面に書かれた白い線もない。車道も歩行も区別はなく道がある。

 こんな静寂の中、対象的に騒がしい音がする。

 全力で走る二人の男女。恐怖で顔が強ばっている女性を追いかける男性の手には包丁を持っている。走るスピードは男性の方が断然速くすぐに追いつくだろう。追いつかれれば女性は包丁で刺されて殺される。



 俺は二つの選択肢によって板挟みとなった。

 俺は"死なない"。だからこそ、女性を無事に助けれる。死なない身体を活かして敵を離さなければ女性は助かる。

 しかし、もし俺が包丁で刺されたら"分身"が増える。これ以上増えたら俺の人生は終わる。一人で生き抜くのでもギリギリなのに、金が半分となればひとたまりもない。



 女性を助けて俺を窮地に立たせるか────

 女性を見殺しにして俺の人生を全うするか────



 早く選ばなければ上の選択肢は消える。

 刻刻とタイムリミットが迫ってくる。



  俺は……



「逃げて下さい!!ここは俺に任せて───!!!」



 俺は包丁を持った男に立ち塞がり、男の身体を抑える。恐怖に怯える女性をここから立ち退かせた。

 人通りのないお陰でここには男と俺だけとなった。

 男は俺の胸に包丁を突き刺す。チクっとした痛みだ。死なないと分かっている俺には怖くない。俺は男を掴んで離さない。


 包丁を抜いく男。男は"やっちまった"という顔をしていた。

「テメェが悪いんや。あんな罪深い女のことを何も知らんで助けようとしはるから……」

 声が震えている。俺を殺したと思っているようだ。


 絶対にこいつだけは離さない────

 突然襲う痛み。身体が二つに分断されていく痛み。しかし、その痛みはとうに経験済みだ。こんな痛みでこいつを手離す気はない。

 いつしか身体から出ていく血は止まった。


「な…何者なんや────!!?」


 男は尻餅を着いた。血が急に止まり、分身したことに驚いたのだろう。

 俺はその時に勢い良く倒れる男を手放してしまった。


 恐怖に駆られた男は包丁を投げ捨てて逃げ出そうとする。だが、それをもう一人の俺が食い止める。



「俺は────《怪物(・・)》────だ!!!」



 二人の俺が男を殴っていく。

 二対一では勝てず、ノックダウンした男はレンガの壁にもたれ倒れた。


 警察に届けるべきだ。

 俺はスマホから警察に電話をかけた。もうじきここに警察がやって来る。




 俺が二人いる所はあまり他人に見せられない。

 俺は先に帰っておくべきだろうか────?


 そんなことを考えていたら、もう一人の俺が口を開いた。


「俺は偽物だ。本物なら(あいつ)と組み合っているはずだからだ。」


 そうか──

 本物である俺はずっと男を掴んでいた。本物ならずっと掴んでいるはずだった。


 だが、偽物だからと言って俺の抱える不安が解消される訳ではない。

 二人も同一人物がいるけど会社はどうするのか?生活費は二倍か?

 様々な問題点が浮かんでいく。それが俺を悩ませていく。


 しかし、、

「俺は俺なりに生きる。お前は今までの生活を続ければいい。またいつか会える時があれば……。じゃあな────」


 そんな不安を取り払うもう一人の俺。彼は無一文で新たな生活を築こうとしていた。

 大丈夫────なのか?

 新たに増えた不安が湧いていく。


 もう一人の俺は振り向かず、背後にいる俺に向かって軽く手を降った。

「俺はお前の選んだ選択は正しかったと思うぜ──」

 もう一人の俺はその一言を呟く。段々とその背中が遠ざかる。

 いつしかもう一人の俺の姿は見えなくなった。




 不吉な予感を感じさせるようにポツポツと雨が振り始める。俺は折りたたみ傘を広げて雨から身を守る。

「傘を持っていかなかったけど、大丈夫なのか──?」


 雨は土砂降りへと変わる。

 嫌な予感を感じさせる強い雨に打たれながら進んでいくもう一人の俺を思いながら、一人空を見上げる。


 雲は陽射しを完全に遮り、空一面に薄暗い曇りとなっていた。



 赤く点灯しサイレンを鳴らすパトカー。

 赤い光は雨によって見えずらくなり、パトカーの音は強い雨によって消されていた。



 男は逮捕され、俺は事情聴取された後、家に戻る。勿論、本当と嘘を交えて。普通じゃ非現実的なことを警察は信じないだろう。

 買い物は出来なかった。が、今日はもう買い物の気分ではない。



 窓の向こうに見える暗雲を眺めているだけで、今日一日は過ぎ去っていった────

次回予告


 不吉な予感は当たった──


 大阪を揺るがすアポ電強盗殺人が起きた。その犯人グループは捕まっていない。

 犯人は三人だと聞いた。


 そして、俺は知る。

 その三人が……俺だと言うことに────



 突如巻き起こる俺との対決。



次回もある

to be continued

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