の・原に咲いた紫の花
音信不通の人物:隆志。
ある日、俺の元へと届いた手紙。そこには送り返すから手紙を目的の家へと送って欲しいというものだった。のだが、送ったのにも関わらず返事はなかった。
そして、そのことをとっくに忘れている頃に送り返された手紙。そして、やって来た隆志という本人。
「失礼します。わざわざすみません。」
丁寧に挨拶してくる隆志。俺も負けずと丁寧に挨拶を返した。
俺は太一の正しい選択によって生まれた偽物だ。俺は自分なりの生き方で生きてきた。分身する特性を活かして服を増産させて安い服を作る。それを売ることで大量の儲けを出していた。
生活に支障もない。高いお金を稼いでいる。そんな俺に仕事をやめて隆志の元へと来て欲しいと言ってきた。何を考えているのだろうか?普通断る。
「どうして?そんなことを?」
「実は……」
隆志は《本物》に起きた出来事と畔川氏に代々伝わる使命を述べていった。
「本物にそんなことが……」
「そうです。」
「それで、俺にはどんなことを……して貰いたいのですか?」
「貴方には私の使命を受け継いで貰いたいのです!!」
変わらぬ日常に現れた唐突な現実。普通じゃないその現実を飲み干した。
胸に騒めく不安や恐怖。それを押し殺して俺は隆志に着いていこうと思った。《本物》の意志を継ぐのは俺しかいないと感じた。
「分かりました。俺に──その使命を受け継がせて下さい!!」
桜の満潮も終わり次は緑黄になっていく。
桜のように興味がられるものじゃない。緑の葉は変哲のないただの葉っぱ。俺は桃色の激動を受け継ぎ波間を緩やかに揺らぐような緑の中に身を投じた。
佐藤太一……
葉月來愛……
畔川大樹……
彼らは負けて最後に勝ち残ったのは畔川隆志だった。
だけど、
「私はもう未来を変えることの出来ない……」
あまりにも歳を取りすぎている。悲しいけど、若い頃の力は残っていない。今出来るのは……未来に託すこと。
未来に託した希望が摘まれた今、新たな希望の胤を植えるしかなかった。そして、その種は今──撒かれた。
「いつか戻る四つ葉のクローバー。その時は上手く彼を誘導して貰いたい……」
摘まれた四つ葉のクローバーは道端に捨てられていた。風がそのクローバーを飛ばして舞わせた。宙を舞うクローバーはどこか遠くへと飛ばされていた。
◆◆◆
周りが純白で包まれた世界。ここは天国のような世界。
目の前には何処かへと繋がる道がある。そこを絶えず進んでいく人の波。どこへ向かうかは分からない。天国に行くのか?地獄へと向かうのか?それとも輪廻転生するための場所へと進むのか?その道に行けばもう戻れない。
ここはその道に行く前にある花畑。赤や青、黄色、様々な色が綺麗に咲き誇る。
この花畑では誰かを待つ場所である。この死者の世界で唯一待ち人を待てる場所。私は太一が来るまで待とうと意志を固めていた。
その時現れる大樹。
「誰か……を待ってるのか?」
そして、彼の第一声はそれだった。
「そう……だよ。太一君を待ってるんだ。ここに来てないことはまだ生きてるってことだよね?」
「太一だと?まだ生きてるのか……。そうか。なるほどな」
「どういうこと?」
「僕は見事にやられたよ。生き埋めにしたっていうことだね。まんまとはめられた。」
くすくすと笑う大樹。優しく微笑んでいた。大樹の素性を見た気がする。彼は使命に縛られていただけで、実際はいい人だったのかも知れない。
「待つのやめたら?何年後って単位じゃなくて何十年後、下手したら何百年もここで待つ羽目になるよ?多分、それまで太一は生きているはずだから……」
「それでも待つ!!だって……約束したから」
「なるほどね。頑張ってね。」
大樹は花を足で掻き分けて進む。道を歩んでいきすぐに見えなくなった。
「「私は絶対に待つ!!何年、何十年、何百年でも……」」
強く心に響かせた。
私はその時、花畑の中で煌めく二輪の花を見つけた。
桃色に輝く花が凛とある。その花と私が重なった。
そのすぐ近くに青色に輝く花を見つけた。その花と太一が重なって見えた。
それだけなら隣同士でカップル……いや、夫婦同士に感じられたのに、桃色と青色の花の間に一輪の花があることに気付いた。
二輪の花には眩さでは勝てないけどそれなりの存在感を示していた。二つの色に隠れていたけどあったんだ……紫の花が。
紫の花は負けじと凛と咲いている。
「もし──私と太一君の間に子どもがいたら紫色の花のような子が産まれてたのかな?」
優しくそっと紫の花に触れた。
その色が放つものとは違う何かが花の中にある。触っただけで感じれたのはそれだけだった。
爽やかな風にうたれて花は緩やかなにさざめいた。葉月はその風を浴びながら下に広がる世界を眺めていた。
次回予告:最終回
落とされた地獄で足掻く藻掻く佐藤太一。
飛ばされた天国で太一を待つ葉月來愛。
最後の誓い──
次回、物語の最終回
to be continued