俺・に代わる俺とは?新たな希望──
欅志帆はネットで得た情報を元に復讐の相手を殺そうと考えていた。その日のために取り寄せた銃。けど、素人には使いこなせず0距離でないと殺せないことに気付いた。一応、銃を鞄の中に入れながら凶器として包丁も入れた。
人生最後の日。持っている服の中で一番お気に入りの服を着る。高級のネックレスをかけた。高めのネイル。初めて履いたヒール。化粧もし終わった。後は……殺すだけ。
スマホを開き憎しむ敵の位置を確認する。
そして、スマホをしまい歩き出した。コツコツと響く音だけが耳に入っていく。
目の前にいる敵への声援を消すように強く響かせる。
鞄の中から包丁を取り出して敵の胸元に刺した。彼の空いた胸から血液が滴り落ちる。
「どうして?」
敵である畔川大樹は驚く。
急に包丁で胸を刺されたのだ仕方ない。それに、彼は志帆のことを知らない。志帆なんて蟻屑にしか過ぎない存在に見られてるに違いない。
「知らないでしょ?志帆はね。あんたのせいで何もかも失ったの。」
「僕は君のこと、何も知らない。誰なんだ?」
脳裏に映る炎。
あの時は雪がしんしんと降り頻る静かな夜だった。
「志帆の故郷はあんたによって燃やされた。火事が家族を住処を、友達を、ご近所を何もかも奪った。全てあんたのせいで!!なのに、身寄りのない貧乏なあたしがあんたを訴えても誰も信じて貰えない。それどころか、あんたは皆から"正義"扱い?もう我慢の限界」
「あの時の──被害者か、思い返せば、僕はもう取り返しのつかないことをしていたんだね……」
《本物》の太一が刑務所から脱獄した。その日、車が盗まれて遠くへと逃げられた。
その車に衝突して大樹は目の前に立ちはだかった。
偽物の太一の四肢を切り動けなくした。その後、火をつけて消した。
その火が木材の家へと移り炎となる。炎が次の家へ家へと移り大火事となる。その火事が逃げる車を照らした。
炎によって逃げ惑う人々。
黒い煙を吸って倒れる人や炎にうたれて死ぬ人。多くの死人が出た。
志帆は雪を掻き分けて路頭を走った。ひたすら走った。我に返る時には家族も……友達も……屍や墨となっていた。家は無惨にも消し炭しか見えない。
犯人は捉えた。ライターを持っていたし、逃げ惑うこともない冷静さを見ても間違いない。
こんな田舎に防犯カメラもないし、ケータイを使う暇がなかったし証拠を握ることは出来なかったが、頭の中では確信した。
志帆はもう身寄りがなかった。
保険のお陰で最初の方は何とか生活出来たが、今までの支えのない志帆は"死にたい"と何度も感じた。自暴自棄となり生活はままならなくなってしまった。
いつしか風俗で何とかやりくりして命を繋いでいった。
大樹は何もかもを奪った。
ニュースで"マトリョーシカ人間を殺すためには火を使うこと"と言っていた。だから、放火をしたのか……理解した。
志帆は訴えようとしたが、あたしのことなんか取り合ってはくれなかった。
何故か悪だと思ってた大樹は正義だと持て囃されるようになっていた。
そんなこと許せない。
いつしか……復讐心だけが生きる糧となった。
毎日の屈辱と疲弊は復讐への力へと変わった。
その復讐心はある事をきっかけに我慢が解かれた。
───"大樹による二人の脱獄犯逮捕。国民的英雄畔川大樹。"
そんなニュースを見て苛立ちが抑えられない。ついに、殺すことを決意した。
復讐のために……風俗という闇の世界で手を回して手に入れた銃。これで、殺そうと考えたが技術力のない志帆には完全に殺せるか怪しい。なら、包丁の方が確実ではないか?いや、もう両方持っていこう。
志帆はついに復讐を決意した。大樹が警察から感謝を述べられて署から出ていく帰り道がチャンスだ。
そして、目の前に現れた復讐したい敵に包丁を刺した。
志帆は包丁から手を離した。
足を三歩下げた。ただ刺すだけでも疲弊がすごく溜まる。
大樹が死んでも、あたしは生きている。そうすると、罪を償うために刑務所で一生を過ごさなければならない。大樹のために罪を償いたくはない。
志帆は鞄から銃を取り出して自分の頭に当てた。
カチッと鳴らす。そして、引金に手をかけた。
「さよなら。最後に故郷の…皆の仇を取れて良かった」
銃声音が響いた。
志帆はこの世から消えてしまった。
鳴り響く銃声音を聞いた。倒れる女性。
僕は胸に刺さる包丁に手をかけた。自分はもう長くは生きられない。そう感じた。
今の女性の言葉を聞いた観衆が冷たい視線を送る。真っ黒に染まる簡易的に書かれただけの存在は目だけが赤く、もしくは青く睨む。
さっきまで積み上げていた正義が一瞬にして崩れ落ちる。
多くの観衆がざわざわと騒ぎ出す。冷たい視線が僕の正義を覆していく。
もう僕は正義を持つことは許されない。目の前の女性が引き起こす引金が僕の人生を狂わせる。僕は……もう今までのようには生きられない。
「僕はワガママなんだよね。だから、、、潰れた正義、そして悪としては生きたくはない。」
胸に刺さった包丁を抜いた。鮮血が飛び散る。
大樹は倒れている志帆の前に立った。そして、手に持つ銃を奪い取る。レバーを引いて、引金に手をかける。そして、頭に当てると引金を引いた。
その場に倒れる二人の男女。その二人はもうとっくに息を引き取っていた。
太陽が悲劇の二人を嘲嗤った────
◆◆◆
隆志は大樹の死を告げられた。
すぐに直行して、大樹の遺体を引き取り墓へと……。そして、何日か経って儀礼を終えた。
隆志は筆を手に取る。
そして、ある所へと手紙を書いていた。
「もう私に子どもはいない。畔川の血は途絶えた。だけど、伝統は終わらせない。」
「太一さんに代わる太一さん。次は彼が新たな希望────」
次回予告
最後に笑うのは──隆志だった。
そんな隆志が笑うためにかけた新たな希望とは?
後二つで終わる
to be continued