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リ・セイなしの大喧嘩!?俺の中に潜む悪魔!

 暗いトンネルの中に瓜二つの人間が二人いる。その二人は互いに睨み合う。静寂の闇が彼らを包み込んだ。


 渾身(こんしん)の殴りが俺に直撃する。殴られた俺は足が(もつ)れその場に尻餅をついて倒れた。

 殴ったのは《偽物》で殴られた俺は《本物》だ。

 偽物は"偽物であること"への苦痛から俺に喧嘩をふっかけた。そして、俺は喧嘩を買うことを決めた。


「ああ、その喧嘩……受けて立つ!!」


 静かな闇の中で殴られる音が響く。俺は思いっきり殴り返した。

 だが、偽物は立ち上がる。

 俺も偽物も互いに掴み合い、投げようとする。力は互角なはずなのに、俺は壁へと投げ飛ばされた。壁に衝突した俺は背中にもダメージを負った。


「偽物という痛みはこんなもんじゃねえぞ!」


 スプレーで落書きされたトンネルの壁に背合わししている俺は、偽物の攻撃をもろにくらう。偽物の腕に当たるとすぐに壁に衝突する。

 液体が俺の身体を滴り落ちる。多分、頭から血が出ているのだろう。

 そんなことどうでもいい。まずは、負けっぱなしなのが気に食わない。殴られたら殴り返す。眼には眼を歯には歯を殴りには殴りを返す!


「俺はお前なんかに殺される気はねえからな、ZG-658!!」


 偽物は車道へと飛ばされて背中を地面につかせて倒れていた。俺は口から出ている血を手で拭き取った。


「なあ?どういう気分だ?LQ-133!!本物で余裕かましてるんじゃねぇのか?そんなんじゃ、俺には勝てねぇよ!!」


 偽物は立ち上がる。

 今にでも倒れそうな俺らだが、心は互いにまだ折れていない。喧嘩はまだ続いた。



 俺は勝つのに精一杯で途中から無意識に偽物を攻撃してた。無意識で偽物を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばす。偽物も負けず劣らず殴り、蹴り、投げ飛ばす。

 いつしか俺は地面に背を向けて倒れている偽物の首を両手で握っていた。偽物の首は着実と絞められていく。逆上している俺は無意識で絞めていた。

 偽物は死なないように俺の腕を引き離そうとするが、引き離せずに苦しくしている。



 その時、《悪魔》が現れた。

 そいつが現れたことによって無意識の俺は意識が戻り始めていく。


<さあ殺せ!殺せ!もっと殺せ!早くゲーム(・・・)の定数に至らせてよ!!それが嫌なら死ね!死ね!もっと死ね!!さあ、もっと増やし続けるんだ!!!>


 全身が宇宙のような漆黒な身体?は人間とはかけ離れした姿をしている邪悪な存在だ。身体はどこかスモッグのようなもので覆われている。

 悪魔は漆黒の腕を俺の肩に絡ませ、地獄を表しているような目で俺を見て、極悪を示す口でニタニタとした表情をしている。


<さあ!さあ!もっと、さあ!!>



 そこで俺は完全に目を覚ました。

 何なんだ?この悪魔は───?いや、悪魔なのか?



 あれ?喧嘩はどうなっているのか?

 頭に血が上っていた俺は徐々に冷静さを取り戻していった。そして、周りを見渡して状況を確認する。


 俺は偽物の首を絞めていて偽物は動かない。俺は偽物を殺したのか?そこで殺してしまったという事実を知り、恐怖を覚えた。俺は人を殺めてしまったのだと──


 俺も社会不適合者の仲間入りか……

 俺はトンネルに落書きされた文字を見ながら呟いた。


 さっき見えたのは【呪い】ではなく、俺の中に潜む悪魔なのだろう。そう感じた。誰もが心の中で飼い慣らしている悪魔……。俺はその悪魔を解き放ってしまった。


 冷静さを完全に取り戻して、俺は歩行者通路に腰を下ろした。


 偽物の身体は何故か闇の輝きを放ち出す。一瞬、俺は目を瞑ってしまった。その刹那、新たな佐藤太一が存在していた。


 何より無事に立っている。よく見ると手にはGZと焼かれ書かれている。もう消えることのない印だ。

 倒れていた偽物は傷が回復し始め、いつしか元通りとなる。それに、俺も傷が回復し始めていた。


「俺は──どうなったんだ?」


 偽物は嘆いた。

 俺は偽物が負けたこと。偽物は新たな偽物を作り出したことを伝えた。悪魔については話す必要もないだろうと言わなかった。


「なるほど…。俺は負けたのか。流石、本物だ。俺は無闇にお前に手を出して負けた。俺は駄目な奴だよな……」


 瞳から滴が落ちているように見えた。

 無闇に手を出した偽物が駄目な奴なら、その駄目な奴を殺した俺はもっと駄目な奴だ。


「そうかもな。だが、俺も駄目な奴だ……。すまねぇ──」

「こちらこそ、すまなかった……」


 俺は倒れているGZ-658に手を伸ばす。偽物は俺の手を取り立ち上がった。


「俺はお前らの勝手な行動に生まれた偽物だ。俺はお前らの喧嘩に関わりたくないから、部外者として家に帰る」


 さらに増えた偽物は手をズボンのポケットに突っ込んで家への帰路を歩んで行こうとした。

 それを俺らは止める。


「お前にも謝らないとな……。身勝手な行動で生んで…ごめん!名前がないと不便だから、お前は俺とコイツの番号を合わせたGZ-791を名乗ってくれ。これが今の俺に出来る最低限のことだ。」

「俺らの身勝手な喧嘩で増えたお前も辛いよな……。本当にすまない。GZ-791──」


 俺らは謝った。

 GZ-791は「どういたしまして」と返して再び帰路を歩んで行った。


 俺とGZ-658はトンネル内に取り残された。

 上弦の月が輝かしく俺らを照らす。俺とGZ-658は家へと帰らず寄り道して行った。

 悲劇へと続く道路に鎮魂歌(レクイエム)が今宵の闇夜に響いていた。俺らはそれに耳もくれずに進んでいった。



◆◆◆



 太陽の陽射しが闇夜を照らしていく。

 朝焼けは橙色に燃ゆり、新たな一日を告げる。


 俺とGZ-658は家へとは帰らずに道草を食っていた。あの喧嘩からは立ち上がることは出来なかった。そこで感じた罪悪感は家へと続く帰路に壁として立ち塞がっていたのだ。


 朝日が登り始め、俺はGZ-658よりも先に家へと着いた。俺はチャイムを鳴らし玄関を開けて貰った。


「何してたの?」


 お母さんは玄関を開けて俺の顔を確認するや否や強い口調で聞いてきた。


「寄り道してた───」

「ふん、勝手にあんたらが勝負を行って昨日にあたしに審判をさせた癖に来なかったんだねぇー!!」

「ごめんなさい!!」


 そうだ。俺ら二人で勝手に勝負を行って、お母さんに審判をお願いした。そのお願いされた仕事をする時に俺はいなかったのだ。もちろん、、

「いなかったあんたは当たり前だけど、負けだからね!出ていきな!!」

 俺はこの家から出されることになった。

 勝者はGZ-791だった。


「荷物(まと)めたらさっさと出ていきな!これはやるから!!」


 俺は銀行手帳を渡された。

 その手帳には百万円振り込まれている。この日のためにお母さんが振り込んだのだろう。

 百万円と聞くととてつもない額である。一夜二夜で集めることなど難しい。やはり、一年単位で徐々に集めていってやっと手に入る額だろう。多分、借金までして俺の為にお金を得たのだろう。

 この気持ちは踏みにじることは出来ない。潔く家を出ていくしかないな──と俺は感じた。



 この勝負は実は俺対俺対《俺》だったのだ。

 勝負は一発勝負。どんな結果でも過去に戻ることは出来ない。そんなに世の中は甘くなかった。

 たった一つの誤った選択。それが人生にとんでもなく大きな影響を与えることがある。俺はそのことを知ることが出来た。


 もう戻れない。過去を悔やんでも"なんにもならない"。目の前にはまだまだ沢山の選択肢が待ち構える。その道は死ぬまで続く。

 なら、俺は今後道を間違えないように歩んで行くだけだ。

 家を追い出される結果も受け入れよう。



 俺は一人で生きるための荷物を二つ持って家を出た。

 俺が家を出て数分後、GZ-658が家へと向かっていた。俺はそいつを呼び止める。

「無駄だよ。勝負の時間を厳守出来なかった俺らは負けだ。潔く家を出るしかない。お前の分の荷物は持った。ちょっと、着いてきてくれ!」

 俺はGZ-658を銀行へと連れて行った。

 俺は中帳から五十万円を取り出してもう一人の俺に渡した。

「これはお前の分だ。」

「ありがとな!こんな偽物に優しくしてくれて……」

 もう一人の俺は俺の準備した荷物とお金を持つ。



「俺らは負けたんだな。だが、それも受け止めないとな……。俺はここ東京で生きていくけど、お前はどうするんだ?」


 もう一人の俺は悲しく青空を見上げた。


「俺は東京から出て、生きていこうと思う。新たな旅立ちをしよう…みたいな」


 俺もつられて青空を見上げた。

 俺は鉄道へと向かった。もう一人の俺は俺と逆の方向へと進んだ。

「「さよなら──。元気でな……」」

 俺ともう一人の俺は背中を向き合い己が道に向かって足を前に出していった。



 新たな人生への道を一歩一歩力強く踏みしめていく──

 新たな俺の生活

 新たな地、新たな一人暮らし。


 その新しさを超えていく俺と無知な俺へ襲う悲劇。



 不死身で分身する身体の時……目の前の人を救うために自分の生命を捨てれますか?

 分身を恐れるか?目の前の他人の生命が消えるのを恐れるか?


────あなたはどちらを取りますか?


次回は必ず来るはず!

  to be continued

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