に・太が紡いだ軌跡の終着点──
「これは我々に与えられた使命──それは、悪と紙一重の使命なんだ。だからこそ、我々は善の心が必要なのだよ」
皺のある大きな手が髪の毛をくしゃくしゃにする。小さな身体で目の前の尊大な人を見上げた。白髪でシワシワな顔、老けた身体で優しく包み込む。
受け継がれた意志。
強く心に決めたあの時が懐かしい。
頭に浮かぶ懐かしい記憶。私は凶悪な大妖怪"こけし"に対抗する力を持つ唯一の勢力。私はそれに対抗する使命と次に繋ぐ使命を全うするために生きた。
自分にしか出来ない使命は心を高揚させる。頑張れる意欲になる。
刀を扱えるようになるための修行も終え、一人前に刀を扱えるようにもなった。
"こけし"の能力で増えることのない石を様々な形に加工する。そして、それを売りさばき金を手にする。勿論、売るのがメインではなくて石を託すことがメインだ。
私は日々を使命を一生懸命全うした。
そんな姿に恋焦がれた人が現れた。私はその人と付き合い結ばれた。そして、一人の子を授けた。
名前は……そうだな、大きい樹と書いて大樹にしようか。私はその子にこの使命を継がせることを決めていた。
畔川氏に代々伝わる伝統──記録、石作り、刀使い、そして、善の心。
大樹は物心つく頃に、畔川一族の背負う役目に必要な力を身につけるための修行を始めた。まあ、修行というか興味を出させるような楽しいものだが。
最初は石加工から始めた。
少しでも使命に興味を持つようにと一緒に楽しめる石加工から始めた。
「僕ね、コレ作りたい!!」とヨーヨーを渡してきた。
ヨーヨー型に作りたいのだろう。少し、いや結構難しいが私の手伝いで完成させれるようにしよう。
私は難しい箇所をやり、子どもでも出来る箇所を大樹にやらせた。ヨーヨーの側面を滑らかなにしたり、二つの石を繋げる棒を作ったり……「慎重にな」と声をかけながら大樹の動く手を見る。二つの石は棒によって一つに繋がった。そこに糸をかけてヨーヨーの出来上がりだ。
「やった!!作れたよーー!」
「すごいなー!大樹は!!父さんでも作るのに骨が折れるのに」
そのヨーヨーは大切に飾った。初めての制作……、それを見る度に大樹の喜ぶ姿が思い出される。
それから、大樹は学校に通う歳となった。
剣道部に入らせ剣の使いと日本の礼儀、善の心を学ばせた。そして、使命の重さを重くしていく。
「恥ずかしいから飾るのはやめてよ」とヨーヨーを飾るのをやめさせられた。
私は飾ることは出来ないのなら、自身のお守りにしようと大切に保管した。どう言われようと私の御守りだった。
大樹は与えた使命感に強く憧れていた。真っ直ぐ使命を全うしようとする姿がカッコイイと思ってたのだろう。大樹は望んでその使命を受けようと努力していた。まさに─職人である。
石の加工は職人レベル。刀の修行も積み重ね相当扱いが上手くなっている。"こけし"についての知識も豊富で、私に見せる笑顔は優しく心温めた。
大樹は成人し、少し歳も重ねた。
私ももう50代(歳)になる。引退を覚悟した。使命は果たした。私は大樹に教えれることは教えられたつもりだ……………った。
「ついに、現れたかもしれない。"こけし"が!!」
大樹は私にスマホを見せた。そこには、『瓜二つの双子か?』という題名でかかれた呟きが見えた。Twitterのコメントも見せてくれた。
本当かどうかは分からない。だから、
「もう少し様子見をしよう」
その言葉で大樹を少し制した。
いつしか新聞にまで報道されたらしい。その報道した新聞社が私の取っている新聞社とは違うので知らなかったが、スマホを操って大樹が見せてくれた。
「少し観察してくる!!」
そう言って、大樹は家の門を開けていった。行って帰らない。一人暮らしでもしてるのだろう。
ある日──大樹はテレビのニュースに出演した。
私はそれを見て大樹のやろうとしている事を悟った。
大樹は"こけし"が取り憑いた人間を全滅させてこけしを表せるということを実行しようとしていると……そのために警察と同等の地位を身につけて刀を持ち出す許可を得ていると。
それは一個人を殺すことを許可して貰うということ。そんなことが許されるはずがないはずなのに。そもそも、そんな考えに至るとは……私は善の心を教えきれてなかったのかと後悔の念が襲う。
警察の上位には畔川氏の事情を知るものがいた。畔川の一族で、使命を受け継ぐことがなく家を出た者の子孫だ。認められるとしたら彼を説得させるだけでいい。それで認められたのか。
例え警察が認めても、私は認めたくはなかった。
そして、すぐに私は大樹のいる所へと向かった。
人と人が密集して絶えず動いていて、張り詰める空気。そんな場所から人の通りもなだらかになった道へと出た。そして、事務所のような建物に入る。そこで大樹は待っていた。
私は大樹と対面して話した。いきなり本題から入った。
「大樹、、"こけし"に取り憑かれた少年を殺そうとしてるのか?」
「勿論!僕達の使命だから──」
「父さんは反対だ!!それが使命だとしても人を殺すことは駄目だ!!手を汚さないでくれ!!!」
「無理だよ!僕は使命を背負っている。父さんから受け継いだ使命だ。分かってるんじゃないの?これはやらないといけないこと!僕がやろうとしてるのは正義だ!!!」
「それでも殺すことまではしなくていいだろ!!!」
「いや、やるべきだ!!!」
話し合いは加熱した。
お互いに自身の芯を曲げない。折れるのを待つ持久戦となっていた。
「僕は僕のやり方でいく!!」
「そうか、なら父さんは父さんのやり方で大樹を止めてやるからな!!」
白熱した言い争いはそれで幕を閉じた。もう大樹が実家に戻ることもないし、私が事務所へと行くことはない。そういう風に終わった。
私はその事務所を後にした。
それから、大樹とは会えずにいた。
私は何としても大樹を止めたかった。大樹が手を汚して欲しくはなかった。どうにかして、止めよう。そのために、例の"こけし"に取り憑かれた人に事情を話そう。
大樹の仕事の前に私が手を回して保護する。
私はその人物の本物を探そうとした。本物ならば選ぶ価値があると考えた。私は様々な場所に手紙を書いて送った。
そして、本当にきたのは一人だけだった……それもその一人は《本物》だ。
さらにそして、彼から大樹が無実の者に手を下そうとしていることを知った。そんなことはしては行けない。私はショックだった。まさか、"悪"という液体に浸かろうとしている状況だったとは。
そこで私は大樹の場所へと向かった。
昔一緒に作ったヨーヨーは大樹によって壊された。大切な記憶の詰まった温かいあのヨーヨーはもうない。目には無残にも作った本人に壊されたヨーヨーが映る。悲しいでは言いきれない。もっといい言葉がありそうなのに思い浮かばない。
私は本物の太一を匿った。
その太一を殺そうと大樹がやって来た。
私は太一を止める最後のチャンスでそのチャンスを無駄にした。私には止められなかった。
裏口が開く音が聞こえた──
私は虚しく天井を見つめることしか出来なかった。
次回予告
桜舞い散る小山の中で太一達VS黒服の争いが始まる。
そして、追いつく大樹。
衝撃の展開が目の前に広がる────
次回はあるかもしれないし、ないかもしれない
to be continued