う・なる大海の剣技
「「逃げろぉ!!!」」
静寂の時間はすぐに遽しい時間へと変わった。
現在の太一の隠れ家に敵である大樹が急に侵入してきた。それを見つけた隆志は叫ぶ。それを機に、俺らは裏口へと逃げた。
"大樹が襲ってきた時の対処法"はもう考えられている。俺は裏口から逃げて少し移動する。そして、工事現場の中で一時隠れるというものだ。
俺は葉月を連れて一目散に逃げた。それに連なる冬秀と瀧。隆志はこの家で大樹を足止めするために留まった。
大きな居間に大樹と隆志が向かい合った。
「何故、彼を殺そうとする?殺すまでする必要はあるのか?全滅してもまた"こけし"は誰かに取り憑く……」
「そうだね。だからいいんじゃないの?その取り憑かれた奴が分身される前に僕達畔川の一族が殺せばいい!!何せ、もうこの世界にマトリョーシカ人間のことは知り渡っている。今の時代、ネットですぐに情報が手に入る。分身が増える前に処分することも可能だ。」
「そうかも知れないな……」
「だがな──"こけし"を殺すことに目を眩ませすぎだ。それはやりすぎじゃないか」
隆志は苦言を呈した。
優しさの中に厳しさが見える。
ただ、大樹も負けておらず力強く隆志を睨んだ。
「甘いよ──父さん!!マトリョーシカ人間はここで断つべきなんだ。そうやって何代にも渡って倒し損ねてきた。僕はもうこの長い争いに決着をつける!!」
「駄目だ。お前は周りが見えてない。父さんは反対だ!!!」
「なら、僕はお父さんを越えていく。全ては正義のために。僕は越えてみせる」
隆志は諦めたかのように下を向いた。そして、すぐに近くにある刀を手に取る。
「越すんだろ?じゃあ、勝って進んでいけ!!」
鋭い眼光が大樹を見つめる。大樹も負けず劣らず見つめ返す。
そして、大樹も隆志も刀を鞘から抜いた。目の前の敵に向かって先端を向けた。
「「ここで勝って大樹の目を覚まさせる!!!」」
呼吸が整う。
「──大樹が知らず知らずのうちに絶望の道を歩まないように……」
隆志は型を持ってして相手の動きを見定めた。
「「僕は勝つ!!僕がやるしかないんだ!!そのためなら何でも障害物は越してやる!!!」」
大樹は刀をゆっくりと動かした。
そして、違法な争いが始まった。だが、家の中の孤独がその違法を隠していた。
大樹は隆志に近づく。
空気抵抗を感じさせない滑らかな捌き。刃は隆志目掛けて進んでいく。
進む刀に刀が触れる。進む刀は刀に沿いながら落ちて隆志には当たらない。
「そんなものでは勝てないぞ!」
「僕はまだ本気を出してない!!」
大樹は隆志との距離を取った。
刀の先端を下に、刃を隆志側に向ける。水の中に滴り落ちる雫のような静寂の中に響く音。それぐらい静かに刀を動かす。重心は低く落とされている。
「父さんから教わったこの技で僕の覚悟を示す。
「『新闘龍切り────』」」
真っ直ぐ隆志に向かって勢いよく進む。刀は力強く上に向かって振り上げられた。
「守備奥義『紅蓮の桜』」
隆志は手に持つ刀を振り回す。その途中で大樹の刀と接触した。
隆志は体重を後ろに移動しながら背を少し低くする。手の刀を斜め上に振り上げた。衝突した刀は空虚に向けて進んだ。
大樹の技は隆志には当たらなかった……
「大樹には父さんを倒せない。何しろ互いに怪我させないように手加減を加えてる。そして、父さんの方が護衛術の技は上だ!!」
「そうだね──少しでも傷つければ罪になるからね。これは違法と知りながらやってるギャンブルのようなもの。けどさ……その中の制約の中で勝つのは僕だよ!!」
今度は隆志が距離を取った。
刀を両手で強く握る。刀の刃が大樹を狙う。
大樹は体制を整えて深呼吸をした。
部屋を照らす外から射し込む光が二人を照らす。張り詰めた大樹が家を包み込む。
「かかってきてよ!今度は僕が受けて立つ。」
「分かった。攻撃するとしよう。」
隆志は刀の先端を下にする。強く深呼吸をするがその息遣いは聞こえない。型を構えて腰を下ろす。
足を引く。
力を引いた足に全てかけて、強力な瞬発力を生んだ。
「唸る大海の剣技─『闘龍門切り』!!」
勢いよく大樹に向かって進んでいく。
「今度は僕が守備剣技を使う番だね。」
大樹は刀を振り始めた。
そのスピードは速すぎて目には見えない程だ。
「畔川流守備奥義『紅蓮桜』……いや、そこから僕が編み出した新たな剣技────」
「『紅蓮に燃ゆる桜吹雪』」
動き回る刀が直線に進む刀を捉える。そして、受け流すことなく衝突しにいった。刀と刀の衝突する音が部屋に響く。
隆志の持つ刀は二つに分断された。破壊された刀が地面を転げる。
「僕の勝ちだね──。……ということで、僕の好きにさせてもらうよ!」
隆志は膝をつく。
大樹を目あげると悲しい表情を浮かべていた。
「もう昔のお前じゃないんだな……」
「そうだよ。僕は成長してるんだ。今は誰よりも使命感を持ってると思ってる。父さんよりもね。だから、僕はその使命のために越した──」
「使命感か……。父さんはそんな重荷を背負わせてしまったのか。それで周りが見えなくなっ…………」
「違うよ。僕は重荷を背負わされたとは思ってない。これは僕達しか背負えない重荷。僕はそれに誇りを持っている。だから、僕は自ら背負うんだよ」
大樹は隆志を置いて太一の所へと向かっていった。
隆志は折れた刀を見ながら天井を眺めていた。それしか今は出来なかった。
徐々に動くプレート。大樹が畔川に与えられた使命……それを全うすることだけに目を当ててその周りに気付いていない。私が止めるべきなのに、止められなかった。
小さく破れた地面。
地面のひびは一直線に伸びる。それを挟んで大樹と隆志が目を合わす。
ヨーヨーの切断によって明らかになった。
そして、そのひびは大きく開く。
大地に生じる地震。ひびの底が長く続く。地割れを挟んで立つ二人はもう仲良く交わることはない。向こうの対岸で真っ向からぶつかるしかない。
涸れた大地に咲く一輪の花。
隆志はその花をそっと触ることしか出来なかった。
次回予告
大樹と隆志の過去が明らかに?
畔川に託された使命と……それによって起きる亀裂。そして……
何か書かないといけなそうなので書いてみた
to be continued