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す・ごく嬉しくて悲しい

 1年付き合ってきて、太一君への気持ちはより高まった。ただ、後半になると就活活動も本格的になって忙しくなる。そのせいでデートすら出来ない日々が続いていた。一緒に待ち合わせて帰るぐらいしか出来なかった。

 そして、ようやくデートが出来る日を作れた。

 久々の太一とのデート。私はプレゼントを持っていくことに決めた。誰も持ってくるとは思わないだろうから、これはサプライズプレゼントだ!!


 何にしようか……。高い物はやめとこう。それは記念日のものだから。もっと手軽なもので……

 マフラー?いや真冬は過ぎたから貰ってもあんま嬉しくないよね。手袋?いやいや、マフラーと同じで時期過ぎちゃう……

 悩んだ末に"ミサンガ"を作ることにした。


 太一の好きな青色と私の好きなオレンジ色の糸を二つ捻じ合わせる。結ぶ前は私と太一の縁がくっついていることを示す。そのミサンガが解れると、願い事で私と太一が完全に結ばれる。そんな考えがあった。

 私はミサンガを作り終えると、小さな箱に入れてデコレーションをした。

 喜んでくれるかな?喜んでくれたら、私の大勝利だ!!私は太一の喜ぶ姿を想像しながら布団に身をくるめた。




 デート当日。

 曇のないぽかぽかの天気。デート日和。

 私は昼頃太一と会った。元気な様子で何よりだ。


 今日はこの町を二人で巡ることにしていた。何せこの天気だ。気持ちいい。

 そして、時間も経った。プレゼントを渡す時だ!!


「太一君に渡したいものがありまーす!!」

「なになにー?」

「はい!プレゼント!!」

「マジで?めっちゃ嬉しい!!けど、俺の方は持ってきてな……」

「いいの!これはサプライズプレゼントだから!!」


 太一は予想以上に喜んでくれた。もうこれは大勝利じゃなくて大大大勝利だ!!

 心が躍る。

 私は風の妖精シルフになったように太一よりも先に進んだ。そして、風を舞うように回って太一の方を向く。誰から見ても浮かれてるのが分かる。

「それじゃあ、残りのデートも楽しもう!!」

 私の頭の中は嬉しを満たした出来事の描写でいっぱいだった。私は優雅に信号機を渡った。

 その時、太一が何かを言った気がするけど何を言ったか浮かれていた私には届かなかった。


 鳴らされるクラクション。轟音が私を別世界から現実世界へと引き戻した。赤黄青の点灯で赤色が強く光っていた。

 勢いよく私に近づくトラック。多分、止まれない。

 ブレーキの音が周りに響き渡る。──私、死ぬんだ……。目の前が秒単位で見える。身体はそれなのに動かない。私は受け入れ難い現実に目を背けるために目を閉じた。

 浮かれすぎてたな────

 反省したけど、もう遅い。もう私は死んだ……と思ってた。


 私は思いっきり押された。そのせいで、歩行者道路まで飛ばされた。目を開けると私を飛ばすために代わりにトラックの進む進路へと飛び出していた太一の姿。

 私は安全圏にいる。けど、太一はもう助からない。



 私のせいで太一はトラックに轢かれて死んだ。全て私のせいだ。

 私が浮かれてなかったら。赤信号に気付いていれば。信号を赤で渡っていなければ。いや、トラックが走ってなかったら。

 けど、もう過去には戻れない。

 私を助けるために、太一は自分の身を犠牲にした。


 黒く舞う鮮血が辺り一面に降り注いだ。

 トラックは止まり、運転手が飛び出してきた。運転手は太一に近づく。私も太一に近づいた。

 目を閉じている太一を間近で見ると……余計に現実味が増す。


「ごめん────私のせいで……」

 なんて言葉は太一には届かないのは分かってる。だって、太一は死んだのだから。ここにはいない。

 辛かった。好きだった人が死んだことは非常にショックなことだろう。けど、その死が自分の責任だと確り分かると余計にショックだ。辛くて息が出来ない。

 涙が溢れ出す。

 その涙は太一に降り注ぐ。その涙が金の涙で、太一が蘇ればいいのに。そんなこと……ないよね?


 太一に変化が起き始めている。よく分からないけど、何かが起きているのが分かる。いつしか私が抱える太一の他に近くに立っている太一君がいた。

 意味が分からない。状況が整理出来ずに頭が混乱する。

 私はもう死んでいて、これは架空の世界?


「太一君────」


 抱える太一の瞼が少し動いた。思わず何度も連呼した。

 太一は何事も無かったかのように立ち上がる。何が起きているの?

「驚かなくていいよ。奇跡的に助かったんだ……」

 そう、私は驚くを通り越して動揺している。何故死んだはずの太一が生きているの?そしてもう一つ動揺させることがあった。

「まあそれもだけど、違うの……何で太一君が二人もいるの?」


 意味が分からなかった。

 目の前で何が起きてるか分からない。


 近くにいた運転手が近づいた。

「なんか無事そうだが、警察と病院には連絡した!くれぐれも信号で飛び出すんじゃねぇぞ!!」


 その後、パトカーと救急車が来た。

 急遽、二人の太一が救急車に乗せられた。私は同伴者として救急車に乗った。

 二人の太一と私で話し合った。

 無事でいてくれた。それだけで安心感が出てきた。死んでいなかった。それだけで嬉しかった。

 私は楽しく話し合った。



 そして、数日後私はその病院の人から太一に起きた事実について知った。

「彼は分身が現れた代わりに死ぬのを免れている。」

「そうですか……」

 何のため、分身が現れたのか分からない。ただ、こんなよく分からない状況に巻き込んだのは"自分のせい"である事だけはよく分かっていた。


 私を守ってこんな目にあった太一を今度は私が助けたいと思ってた。

 ただ、増える分身。

 私は誰を助ければ……。誰を愛せばいいのか分からなくなっていた……。

 分身した太一は様々な所へと分散した。唯一私と一緒にいた太一は「俺は《偽物》だから……」と私から遠ざかろうとしていた。

 それを見ると悲しくなる。全ては私のせいだというのに。何も出来てない。


 その太一は私を傷つけまいと会ってはくれるものの、会う回数はめっきり減った。それを見て罪悪感が襲う。

 私は何度も涙を流す夜を迎えた。辛くて苦しい。けど、その度に心に言い聞かせる。


「私は太一君に起きた謎を解明しなきゃ……だよね」


 私に出来ることを考えたら、それしか浮かばなかった。

 ある日を持って、やって来た就活の活動を辞めた。太一がいなければ私は今ここに存在しない。

 そんな太一を助ける方が未来の私を作る就活よりも大切だと思ったからだ。


 私と一人の太一は大樹という若い男性に出会った。その人は太一に起きたことを知っていた。

 太一は大樹のお陰で自身の謎を解明させていった。


 だけど、大阪にいた太一が脱獄事件を起こしたのを機に大樹は豹変した。

 私は大樹の罠に引っかかった。私は大樹によって太一を誘い込むトラップにさせられていた。大樹は刀を持ち、太一の腕を切り落とす。

 私は恐怖で身が竦む。

 目の前で太一を失いたくない。また自分のせいで好きな人を傷つける。いや、今度こそ目の前からこの世からいなくなる。

 そんなん嫌だ────

 私はずっと苦しんできた。ずっと、罪悪感を押し殺してきた。また同じことを繰り返したくない。


 私は自分を囮にそこにいた太一を見逃させた。

 そして、私は大樹の事務所で匿われた。が、《本物》の太一が助けに来た。私の選択は不正解だった。私が囚われたせいで被害を増やしたんだ。また私のせいで太一が誘き寄せられて殺される。

 そんなん絶対に嫌!!

 例え、犯罪者となっても、2度と平穏な生活を送れなくなっても私は目の前の太一を助けたい。

 その気持ちで私は大樹を2階から突き落とした。お陰で太一は九死に一生を得た。


 私と太一は何とかこの東京から抜け出した。

 長くいてくれた太一がこの世にいなかったことに衝撃を受けた。辛かったけど、隣にいる太一がその辛さを和らげてくれた。



 私は無事に太一と安全とされる隠れ家へと辿り着いた。そこで、不思議な石で出来た様々な物が並ぶ部屋にきた。様々な種類があって見ているだけで楽しい。

 私は何となく指輪を見つけた。


 もう私と太一は前のような大学生活には戻れない。普通の生活には戻れない。今までの友達ともう普通には会えない。私はもう犯罪者だ。

 ならいっそ、ここで太一と結婚してもいいよね?

 もうこの社会から追い出されたんだ。私はここで太一と結ばれる。誰が反対しようが……いや、もう誰も反対しないか。


 だから、いいんだ。私達は結婚して──

 ルールには囚われない。例え式を挙げなくても、婚姻届を市役所に届けなくても、勝手に結婚したことにしとけばいっか。



 私は自分勝手に私の好きな太一の指に指輪を差し込んだ。



 幸せだ。ドラマや漫画ならここまでで終わって、ハッピーエンドになりそう。けど、人間の私は死ぬまでこの人生(ストーリー)を終われない。

 私の逃亡は始まったばかり。バッドエンドにならないように……。いや、そんなことを考えるのは疲れるだけだしやめよう。


 私は太一と一緒に喜びを分かち合えるこの幸せを噛み締めたかった。それ以外は何も考えたくなかった。

 この幸せな瞬間で心が満たされた。何も考えられなくなっていく。私は心の中で呟いた。



  今この時が止まればいいのに────

次回予告


 裕翔の逮捕。

 それが、火種となって絶望の連鎖となっていく。


 悲劇へのカウントダウンが鳴らされた。


 3────



  次はあるのかな?

to be continued

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