ト・ンデモ合戦!!本物の俺は誰なのか?
俺は彼女とのデート日に【呪いの本】を手にした。
その本の呪いによって交通事故が偶発させられて、俺はトラックに轢かれて死んでしまった……はずだった。
何故"はずだった"と書いてあるのか──
それは呪いの力で俺は死ななかったからだ。ただし、それと同時に分身もしてしまった。
そして、今俺は病院にいる。
当たり前だが、車で轢いてしまったら病院と警察に連絡するのは常識だ。というか、それで轢かれた人が死んでしまったら轢いた人は罪に課せられる可能性もあるぞ!
俺は勿論病院に運ばれた。
病院までの道のりは滑稽だっだぞ。俺は呪いで怪我すらしていなかった。元気で全く弱っていない俺二人に彼女の葉月と救急員。何か俺らは中で駄弁っていた。緊急性のある救急車の中でここまで軽率でポップな喋りなんか俺らぐらいじゃないかなって思うほどだ。
病院に運ばれた俺は身体に異常がないことに驚かれたと同時に分身が現れたことに驚かれた。こんなことは一大事!ということで、俺は東京にある一番大きな病院へと運ばれた。
そして、病院内では検査、検査、検査。本当にまじで疲れた。
俺は別個体と区別するために認証番号LQ-133と付けられた。検査の結果は後日分かる。今日は何も分からずに帰るだけだ。
夕暮れが沈みかけてきた。俺らは葉月とさよならをし、家へと戻った。トンネルや踏切を越えて歩行者通路の少ない道路を歩き家へと着く。
お母さんは俺が二つに分身したことを病院から知らされていたために、驚きはしたもののそこまで大袈裟となることはなかった。
先に準備されていた二つの食事を食べ始めた。
横ではもう一人の俺が夕食を食べている。夕食は腹の虫を抑えるだけじゃなく、家族と話す場でもあった。
俺と俺とお母さんで夕食を取りながら話をした。
「すまないがねぇ、二人も養えないよ!!」
当たり前ではある。急に二人に増えたのだ。大学費用も二倍に増えたら払えない。そもそも、食事費用を初め様々な費用が二倍となるのだ。
「だからねぇ、どちらか一人には出て行って貰いたいの!ちゃんと百万円は用意するわ!一週間後の検査結果が返ってくるまでには二人で話し合って決めなさい。」
百万円あれば何とかなりそうだ。諭吉が大量にあるのは目が眩む。けれど、居所を失うのはやはり嫌だ。
お金をとるか居場所をとるか、俺は居場所がいい。
「お前は《お金》か《居場所》、どっちがいい?」
俺は横を向いて問いかけた。
「居場所が安定じゃないか?」
「同意見だな……」
居場所と言えば安く聞こえるかもしれない。しかし、居場所だけじゃない。《平穏》と《日常》もくっついている。
お金をとれば大学には通えない。葉月ももう一人の俺に取られる。そして俺は平穏を捨てて新たな日常を得るために波乱の波に身を委ねることとなる。
それは絶対に嫌だ!
一日二日少ない日にちでは百万円の方が多く感じるが、実際には長く居場所に住めば百万円以上の価値を得ることになる。また、安住した利益も得れるだろう。なぜなら、大学を卒業して就職するのだ。百万円をとれば大学にとらなかった方が大学に通い、自身は通えなくなって大卒終わりとなる。そうなると、良い就職先がない。《居場所》を取れば百万円なんて何年か掛ければ手に入るというのに……。
やはり、《居場所》が安定だ。
「なら、一週間後の病院終わりまでは看病してあげるから、そこから先どちらかを取るかは話し合いで決めな!!」
本物でも偽物でも俺は《俺》だ!!
日常で権威的なお母さんに逆らえない俺らは、二人とも威圧に負けて承諾するしかなかった。
──と言っても宛もない。話し合いで解決出来なそうだし、それならジャンケンか?今後の人生を大きく変える出来事をそんなもので決めたくはない。
じゃあ、どうすればいいんだ?
「そうだな、LQ-133。どっちがこの家に残って欲しいかお母さんに聞くっていうのはどうだ?勿論、一週間後の病院終わりで帰った時が判断の時でな……」
同じ佐藤太一としてお互いに名付けられた暗号で呼び合う。もう一人の俺はZG-658だ。
彼は俺に話しかけながらお母さんにも話をふる。
「あたしはどっちでもいいから、もう一人の太一に聞きな!!」
その案の結果は全て俺任せということか。
一週間の間がパフォーマンスタイム。その間にどうお母さんに選ばれるようにするのか?俺対俺の心理戦ということか……
人生を賭けた《戦略的勝負》───
この方法以外、俺の思い浮かぶ中では手段がない。この勝負は受けて立ち、正々堂々と《居場所》を勝ち取るだけだ。
「いいよ、ZG-658。その勝負、受けて立つ!!」
「分かった。負けたらお金は渡すから出てってくれよ!」
俺と俺の勝負が始まった。
敵のことは全て知り尽くしている。しかし、向こうも俺のことを知り尽くしている。実力は同等で勝てる見込みはある。
負けられないな────
◆◆◆
俺対俺の勝負が幕を開けた。
俺の作戦は家事手伝いをやって認められるという単純なものだ。ただ、そういう方が絶対に勝てる気がする。
もう一人の俺は何も動かない。多分、いつもの俺を出すために動かないのだろう。日常的なことを行うことで認められる。そういう作戦だろう。
本当にこういう作戦でいいのだろうか?
一度選んだ選択肢の正解不正解を考えると不安になる。本当に家事手伝いで勝てるのだろうか?だからといって、選んだ選択肢を変えるのは逆に中途半端となって負ける。
俺は不安を押し殺し自分の選んだ方法を信じる。
俺なりの方法でもう一人の俺に勝つんだ!!
今週は大学にはいかない、無駄な行動はしない、彼女とデートしないというルールを幾つか設けている。だからこそ、二人の太一は家に佇む。
俺はお母さんのお願い事を聞き、お使いや家事手伝いに徹した。一方で、もう一人の俺は部屋でゴロゴロと延びているのだろう。
皿洗い、洗濯、お使い、色んなことをやって得点を稼ぐ。そんな毎日はいつしか過ぎて、いつの間にか約束の日になっていた。
毎日何もしていないもう一人の俺には負ける気がしない。
俺はそう心に響かせ落ち着かせた。勝てる見込みはある。俺らは病院へと向かった。
病院内では院長に呼ばれ、二人椅子に座らせられた。研究用のパソコンを向いていた院長は回転式丸椅子を回して俺らの方を向いた。
「こんにちは。どちらがZG-658で、どちらがLQ-133かな?」
「俺がZG-658です!」
隣の俺が手を挙げて言葉を発する。俺も続いて名付けられた番号を言った。
「やはり、名付けだけでは未だ分かりにくいから、少し体に印を焼かせて貰おうか。いいかい?」
俺らは「はい!」と返事した。
そして、俺らは別々の場所へと連れて行かれた。連れて行かれた場所で俺は "何もされなかった" 。
静けさの漂う室内に取り残された。俺は一人でそこに待つ。何故"何もされなかった"のだろうか?
数時間後には俺の元に役員が来た。役員は俺を再び病院の一室に連れてきた。そこにはもう一人の俺が先に椅子に座ってた。
「お前も焼印を押されたのか?」
そう言って、左手の甲を魅せてきた。そこにはZGと黒く付けられた印があった。
「すげぇ痛かったよなぁ?あんな高温で今にも溶けそうな鉄で左手を押されたんだからな……」
想像するとゾッとする。
鍛治場で千度は軽くありそうな高温の中に突っ込んだ鉄を手の甲に押し付けられたのだ。痛いに決まっている。その印は焼印で、もう二度と消されることはないだろう。
だがしかし、、何故俺はそんな焼印を押されなかったのだろうか?
「すまねぇ。何故か知らないけど、何もされなかった」
「はあっ?どういうことだよ!?」
そこで登場、院長さん。
院長はその部屋に入るといなや、すぐに丸椅子に座る。そして、口を開けた。
「それは私から説明しよう。ZG-658は──」
室内は静寂に包まれた。その状況に俺らは息を呑む。
「──《偽物》だよ────」
隣の俺は目を丸くする。身体が細かく刻まれるように震えていて今にも恐怖で押し潰されそうな感じだった。
「普通に検査したら二人は分裂した《本物と本物》だとされていただろう。だが、最先端の技術による検査によって極めて小さな単位で違いを見ることが出来た。LQ-133よりもZG-658は様々な部分で極小単位で小さい。」
「そんなんで偽物って決められたのかよ!!?」
隣の俺は急に立ち上がると座っていた丸椅子を蹴り上げた。椅子は乱雑に転がっていった。
「落ち着き給え、警察を呼ぶよ。それに、それだけじゃなく一番決定的な証拠があった。」
「なんなんだよ!言ってみろよ!!」
怒鳴り散らし、院長を睨む。怒りで支配されているように見えたが、奥底で怖がっているようにも感じられた。
「"服装"だよ!ZG-658は何にせよ、服装が偽物だった。本体は全く違いはなかったにせよ、"服装については全くの代物"だったのだよ。素晴らしい技術ではある。装飾品や服が未知の現象で見た目と効能を同じようにして作られるのだから。しかし、オリジナルにはならなかったけどね。取り敢えず、偽物と区別するために《焼印》を付けさせて貰ったよ。一生消えない印だから、どう足掻いてもどうにもならないよ。」
だから、偽物にだけ印を押したのか。その印が偽物の証拠。
だからこそ、俺は何もされなかった。
泣き叫ぶ声が響く。それを聞くと俺も心が痛くなる。しかし、ここで蹴落とさないと俺が蹴落とされる。
隣で両膝を地面に落とし両手を目に当てながら空を見て泣き叫ぶもう一人の俺はあまりにも悲しそうで、だけど、俺はそれを有難く思わなければならない。
世の中の理不尽に目を逸らす。
「さて、歩いて帰るのなら夜遅くになってしまう。もう帰りなさい!」
俺は苦痛を外に響かせる存在に背を向いて部屋を出て、病院を出た。そして、一人で家への帰路を辿る。
誰もいない殺風景のトンネルに差し掛かった。歩行者と車道を分ける白い線の上を歩きながら、トンネルの側面にスプレーで汚された落書きを見ていた。
落書きは悪ふざけでやる人だけではなく、居場所を失った人が生きるために死へと導く苦痛から解放されるために落書きをするのだろう。反社会的な行動も理不尽な世の中に蹴落とされた人々の果てなのだろう。
「おい、待てよ!本物!!」
トンネル内に響く太一の声。しかし、俺の声ではない。ZG-658と名付けられた偽物の声だ。
ここまで全速力で走ってきたのだろうか。ハァハァと息を切らしている。
ツカツカと力強く歩き俺の目の前にやって来た。
トンネル内を照らすライトが俺ら二人を照らす。夜になって暗くなった外の凍てつく風が俺らを煽る。
「勝負しようぜ!お前をこの手で殺してやるよ。俺は偽物だよ。だけど、俺は太一だ!!お前を殺して本物になってやる!!!」
と言われても、俺にはメリットがない。
「逃がさないぜ!本物なら尚更俺と戦えよ!!嫌いだろ!?痛いのは!!!」
握り拳を握りしめ、俺目掛けて進んでいく。
俺は頬を殴られた。足は縺れて倒れ尻餅をつく。両手を背中より後ろに置いて体制を維持した。
多分、こいつからは逃げられない。絶対に殺る気だ。逃げても殺られるだけなら、、、
「いいよ!やってやるよ!!!」
真っ暗になっていく冷たい闇風が俺らを包み、俺ら以外誰もいない静寂が勝負を際立たせた。
「本物と偽物」のプライドを懸けた対決。
その勝負の行方とは?
そして、誰が今後も家で暮らせるようになるのか?
次回はいつか来る
───to be continued