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が・礫の下の!!死者は──

 黒に靡く車がもう一人の俺達を追いかける。助手席に大樹がいるのが分かる。

 出来るだけ事務所からの距離を離す。

 目的地は設定していない。ひたすら進む。車道の上に描かれる三つの線。それは二つの歩行道と行きの車道と帰りの車道に分ける。その線で囲まれた黒い道を進む。


「よしっ、上手く行きましたね!」

「このまま高速に乗って引き離しますよ!!」


 バックミラーに車が近づく。思っているより速い。

 規則ギリギリを越すか越さないかで飛ばすが、規則を明らかに越して飛ばす黒の車。それに負けずと必然的に規則を破っていく。

 何本かの電柱を通り過ぎていく。

 もっと逃げなければ。その気持ちがアクセルを強く踏ませる。


「くそっっ!!」

 隆志はブレーキを思いっきり踏んだ。

 逆走してくるクリーム色の小さな車。その運転手はシートベルトを外し、窓を開けている。いつでも脱出できる状況にいる。

 逆走する車は反対車線で停り、運転手は外へと飛び出した。中年太りしたふっくりとした身体つき。無表情で隆志らを見る。嗜めるような横目。

 そんな男を気にする暇もない。急ブレーキをかけてもとまれなかった車は眼前の車と衝突した。

 ハンドルに仕掛けられたエアバックが膨らむ。白い空気風船が衝撃を和らげるが、それでも身体への負荷はかかる。大きな怪我にはならずとも身体への負荷から動けずにいた。

 逃げるためにスピードを出しすぎていた。そのせいで、衝突で起きる衝撃は相当強いものとなっていたのだ。


「身体が動かな……い。」

 隆志はハンドルにもたれてぐったりとしている。

 八茂の方は気絶をして動けない。ただ一人、もう一人の俺だけが無事でいた。さっきの負荷を容易く回復したのだ。


 後ろから車が停泊する。そして、助手席から大樹が出てくる。その横を通り過ぎていく反対車線に停った車の運転手。その運転手が横切るのと同時に封筒を渡していた。

「賄賂か。大樹の差金か。」

 隆志は苦渋の顔を浮かべる。

 ついに出て来た大樹。片手には刀を持つ。こちらも応戦しなければ。だが、隆志も八茂も動けない。なら、

「俺が出ますよ!!」

 太一は車のドアを開けようとした。

「待ってくれ!!渡したいものがある。」

 太一は隆志に呼び止められた。そして、隆志は覚束無い手取りで懐から汚れたヨーヨーを渡した。

「これは御守りだ。持ってってくれ!!」

 ヨーヨーを懐へと入れる。スタンガンをポケットにしまいドアを開く。狭い空間で大樹と太一が睨み合った。


「来たか──。って、」

 大樹の表情は少し暗くなった。

「報告では片腕はまだあったと聞いた。それに、雰囲気も違う気がするね。もしかして、僕は出し抜かれたのか……」

 刀が鞘から取り出された。銀に耀く。陽光を反射し、鋭い筋が見える。

「逃げるのか?」

「いや、マトリョーシカ人間は皆殺しだ。見逃す訳ではないよ」

 大樹は刀を振り回す。手練な捌きで刀の車への衝突はない。

 太一は反対車線へと逃げる。それを追いかける大樹。

 太一はスタンガンを握るが片手のない不自由な身体で逃げることしか出来なかった。

 刀が服の袖を付け根から切り落とす。落とされた服が春風に飛ばされ宙で踊る。

「ちっ────」

 落としたのは元々切り落とされていた方だ。太一はできた隙を狙ってスタンガンを大樹に近づけた。

 ──が、大樹は攻撃を躱し、刀をスタンガンに振り落として当てた。スタンガンは地面を転がって車の下で止まってしまった。この状況では取りにはいけない。つまり、武器はもうない。

 大樹はすかさず距離を縮める。太一は後ろへと足を進めるが、思わず転げてしまった。

 太一にはなす術ない。だけど、諦められない。その気持ちから希望を託してヨーヨーを取り出した。

 大樹は刀の先を空高くに上げる。光を反射し、眩く衒う。

 太一は人間の持つ本能からヨーヨーを盾にして目を瞑る。

 ヨーヨーという御守り。神の加護を信じて目を閉じた。


ヨーヨー(そんなもの)、僕が断ち切る。僕はもう昔の僕じゃないんだ!!」


 刀は縦に振り落とされた。

 太一の持つヨーヨーは真っ二つに分かれてしまった。

 二つに避けたヨーヨーがコンクリートに落ちた。そのヨーヨーを踏みつけ、太一との間をつめる。

 黒い鮮血が車道に飛び散った。黒のコンクリートがその黒い血を隠した。

「僕は僕を越していく。全ては─正義─のために!」

 太一は燃えた。燃えゆく太一を背に大樹は車へと戻った。

 そして、大樹は車に乗り込む。車はバックしたり斜めに進んだりしながら切り返し、反対車線へと出た。そして、帰路を辿るように車を走らせた。


 燃える太一。

 その炎はミサンガを断ち切った。


 心の中で叫ぶ太一。

《ミサンガが意図せず切れる時、一つだけ願いが叶う。》

 朦朧する意識の中、太一に襲う過去の記憶。

 太一は悔いのないように笑った。



  《──來愛が一番幸せな選択を進めますように。》



 天へと続くその願いは空に響いた。



◆◆◆



 大樹は闇ルートと思しき方法で危険な行為をさせた。そして、佐藤太一以外に二人の人がいたのにも関わらず車を衝突事故させる危険な行為に出た。

 相当ショックだった。

 だけど、それ以上に親子の絆を象徴する宝物……御守りを二つに切ったこと。それは決別の証である。それ以上にショックだった。

 過去を断ち切り完全なる自我独走で物事を進めようとしている。ただひたすらに真っ直ぐ貫く大樹の正義。それは周りを見落とすことになる。

 このままでは手遅れだ。けど、身体が動かない。大樹を止めなければ……


 手を汚す前に親である自分が差し止めなければ、、、ならないのに。何もできずただ小さくなっていく黒い車を眺めていることしか出来なかった。

 横では燃えて消えていく太一の姿。

 炎とともに記憶の欠片が放たれては消えていく。


 パズルの欠片は徐々に崩されて、いつしか白紙に戻っていた。

 もうピースのないパズルでは元の絵柄を作れない。その白紙のパズルを眺めていた。

 欠片の瓦礫に埋もれた彼は二度と日の目を見ることはない。

 そして、木枯らしがそのことを伝えるように吹いている。


 木枯らしが彼の灯火を消し去った────

次回予告


 GZ-791の過去が明らかに!?

 東京では何が起きていたのか?もう一つのストーリー。


 來愛との関係は?

 大樹との関係は?



 次回書くのめんどくさいけど書く!!

to be continued

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