な・らされる警告!
畔川氏は悪魔と切っても切れない関係にある。
隆志の伝える過去で悪魔を示すピースが埋められていく。
「これが伝えるべき事実。そして、最後に……畔川の一族が紡いてきた鉱石を渡したいのです。そのために、家へと来てくれませんか?そこで匿ってもいいですしね。」
事実が話された。隆志の残る役目は②特殊な道具を渡すこと。
そもそも本物を示す紫色の石なら隆志が目の前に出してくれた。それを貰えばいいんじゃないのか?そう言うと隆志は「それとは違ったもので、例えあなたが分身してもその道具は分身することのないもの」だと言った。
つまり、隆志はその道具を持ってきていないため、それを得るにはやはり敵陣へと潜るしかないのか。
だが、それには危険も伴っている。
「その道具を持つ必要性は?」
「《本物》だということが常に分かる。今私が持つ石は素人には到底扱いきれないものだが、それなら持ってるだけでいいんです」
これ以上の分身をしたらまた自分が本物かどうか分かりづらくなる。だけど、それを持てばそれを防げる。俺ならその道具が必要だ。隆志の持つ石では俺には扱えないようだ。
「ただ、《本物》だと認知できるだけだろ?今はそんなもの必要じゃないんだよ!!」
本音が飛び出る。例え、《本物》だと誇ることが出来ても─大樹には勝てない。
「今はそこまで必要がないな。」
「何故です?」
「「俺はお前のお子さんを倒す!!そして、大切な人を守り抜く!!」」
強く前に出た。隆志は物怖じせず俺の話に耳を傾けた。
「どういうことだ?何故、大樹を倒そうとするのか?そして、大切な人を守り抜くって何のことです!?」
俺のヒートアップが隆志にも移る。お互いに胸を張った。生きるか死ぬか、そして大切なものを守り抜くためにここは譲れない。
「大樹は俺を全滅するために俺の大切な來愛に手を出そうとしているんだ!そんなことさせない。早く助けたいんだ!!俺は……」
言葉が詰まる。俺は唾を呑みこみ喉の気孔を綺麗にしてから再び声を通した。
「お前に会って大樹から何もかも奪われないものが手に入るかもしれないと交渉を行った。急がば回れと思って交渉したんだ!早くしないと……大切な人を奪われるかも知れないんだ!!」
葉月に危機が及んでいることは悪魔の警告で知らされている。今葉月がどうなっているかは分からない。東京にいる俺達も何とかしようと頑張っていると思うが、彼らでは大樹には勝てない。
大樹に勝つために交渉したんだ!焦燥が汗を塞き止め溢れ出した汗は瞳の底から体外へと流れ出ていった。
「待って欲しい。どうして大樹が"こけし"に関係のない民を傷つけることになっているんですか?私達は妖怪とされる"こけし"及びあなたを傷つけることは出来ても、他の民を傷つけることは一切許さないんですよ。どうして大樹が関係のない人々を傷つけると?どこでそう思ったんです?」
だから、大樹は自分の手を汚さずに傷つけようとしているんだ。その情報は悪魔から貰った。
「────悪魔がそう言っていた。自分の手を汚さずに俺の大切な來愛を人質にして呼び出そうとしているってな」
一軒家に響く心のこもった冷たい声。その声が紅い水面を揺らした。紅茶の熱さは冷えた大気によって常温となっていた。
俺はその紅茶を啜った。
独特な香りも味も冷たさで台無しだ。俺はすぐに台へと置いた。
「悪魔……"こけし"が?」
「ああ、俺が封筒を送り返すために悪魔のいる世界へと行った。その時に聴いたんだ!!」
隆志は辛辣な表情で空を眺める。両手を組んで、その合わさった手の上に顎を乗せる。
「なるほどな。それなら信憑性が高い。あいつは真面目で真っ直ぐだが、時に周りが見えなくなることがあった。一つのことに目が眩み、他のことが見えていない。そうあって欲しくない……」
隆志は独り言を呟いた。その言葉はとても重かった。
八茂が差し入れのお菓子を持ってきたが、そんなものに目をやる暇さえなかった。
「いや、今からでも止める。親として人としての間違いを起こさせない!!」
隆志の目は真っ直ぐしていた。
「太一君。私の仕事は後回しにします。あなたの大切な人を助けるのに協力しましょう。私は大樹の手が汚れる前に正したい。大樹の居場所は分かりますか?」
「テレビで東京の福伝寺で待つと言っていた。」
「それは明らかな罠だ!ですが、東京を拠点にしていることは確かですね。でなければ、直接手を下すことは出来ない。」
隆志は突然立ち上がった。
「私の車に乗りなさい。見られないように後ろの席にはカーテンが敷けますから。」
「どういうことだ?」
「今すぐにでも行きたいんでしょう?東京に──」
隆志は俺を東京にまで乗せてくれるようだ。
まだ味方であることは確定していない。だけど、俺は隆志に懸けたい思いが湧いてくる。
「勿論です!乗せて下さい!!」
俺も立ち上がった。
それを見て八茂も慌てて立ち上がる。
「八茂はどうする?」
そう聞くと、八茂は困ったように口をモジモジと動かす。
「一応行ってやるかー。太一だけじゃ心配だからねぇ!!」
「ありがと────」
一軒家のドアは用心深く鍵が閉められた。
俺らは隆志の車へと乗る。ミニバンで大きくもなく小さくもない。後ろの席はカーテンで隠されている。その席は二、三名ぐらい余裕に入りそうなぐらいだった。
そして、東京に向かって車のアクセルが踏まれた。
一か八か……
今度こそ俺は──怖気ついて逃げない!!
「大切なものを守って、逃げてやる────」
俺は外の景色を閉ざすカーテンの向こう側にある夕焼け空に薄く見える星空に向かって嘆いていた。
次回予告
物語は再び大阪(京都)から東京へ!
太一 ────
來愛 ────
大樹 ────
隆志 ────
最後に笑うのは誰なのか?ついに戦局が動き出す!?
(そういや、太一や脱獄勢の隠れた場所が京都であるという設定を作っていたのを忘れてました)