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に・太の紡いだ軌跡

 燃え盛る炎は森や木材の家々に移りゆく。

 風下へと向かう炎。その炎から逃げきれなかった者どもは火の餌食となり死の世界へと堕ちていった。


 ついに、本物となる二太も死んだ。──が、争いは止むことはなかった。

 今度は誰が本物になるかを決めるために殺し合いが始まる。いつしか、多大な争いの跡を遺して一人の二太だけがその土を踏みしめた。


「本物となったけど……それ以上に失ったもんが多すぎや」


 こけ焼けた土を眺める。

 偽物を殺しただけでなく何の罪もない人も巻き込み殺してしまった。罪悪感が心を支配する。

 どんなに真面目な二太でも、人間であれば悪魔に心を支配される可能性がある。長いこと妖怪"こけし"という悪魔と共に過ごした二太の心は徐々に黄ばんでいたのだ。


「人間の心は脆い。人間であれば、誰しも闇に支配されちょる。やるべき事は──」


 手遅れになって気付く間違い。

 それは冷静になれば簡単に"間違い"で有り得ないと思うことでも、間違いを犯している最中は気付かない。

 そしてらもう取り返しがつかない。この事実を黄ばんだ心で受け止めなければならない。

 何をしても間違いを犯しても……何も感じなくなったら、その心は真っ黒にくすんでしまっている。二太はまだその段階には入っていなかった。


 目の前に広がる未来に向け、罪償いをしたかった。

 その時、悪魔が話しかけてきた。その悪魔は現し世にいる。目の前に佇んでいる。


<面白かったよ。楽しかったからお礼に、一つだけ願いを何でも叶えてあげるよ!!>


 願いを叶える────?

 願うなら……


「今までの"こけし"の情報や痕跡を情報、そしてこっちのやった罪について────を全てこちらへ持ってきて、それ以外に散らばる情報や痕跡は一切の跡を無くして消して欲しい!」


 違う!!

 願いたいことと言っていることが違う。「"こけし"によって奪われた人達を蘇らせてくれ!」と願おうと思ったのに……

 心の奥底に住み着くもう一つの自分が、自分のやったことを無かったことにしたいと……やってしまった罪について全てのことを消して欲しい。それも根っこから。そう願ったのだ。私利私欲なことを願うとは自分の心は思っていたよりも黒ずんでいたのかもしれないな。


 それでも良心が対立した。

 それと恐怖に支配された自分の心を融合し今発した願いとなったのだ。


<楽しかった。ありがとう。今度は誰に取り憑けるかなー!!>

 そして、目の前に現れた"こけし"は再び消えてしまった。


「何をやってんだ──。自分。」


 また、後悔した。

 けど、一つの信念が芽生えた。


 "こけし"は自分のように誰かに取り憑こうとしている。それを食い止める力はない。そんな力があったらこんな悲劇は起きなかった。

 人は脆い。必ず心は支配される。


 いつしか"こけし"の悪さを止めるために、着々と準備を進める。次の世代へ次の世代へと自身の元へと集まった情報を伝達していき、"こけし"を打倒する方法を見つけて貰う。

 一人ではその方法が浮かばなくても、未来、いつしかその方法を浮かぶ者が現れるはずだ。


「二太は、いや畔川は"こけし"を打倒するためにその意志を引き継いでいく!!」


 二太はその思いを娘へと伝えた。

 娘はこの争いに巻き込まれなかった。というか、安全な場所へと隠されていた。皆、家族は傷つけまいとしていたお陰で無事で済んだのだ。

 二太は全ての事情を家族へと話し、理解して貰った。そして、その意志は娘へと引き継かれた。


 もう不思議な身体ではない。普通の人間だ。その人間が怪物に勝つために知恵で戦う。何代にも続く知恵を使って、"こけし"を終わらせる。



◆◆◆



 二太の記録は後世へと継がれていった。

 次の世代、さらに次の世代と受け継がれていく記録は時代を経て新たな知識が増えていく。

 それに気付く"こけし"は彼らに危惧し、監視をしながら遊ぶ(取り憑く)ことを行い始めた。それはまた、受け継がれた彼らも気付き新たなページを書き加えた。



 ある日、"こけし"は畔川の一族の目を掻い潜り人間へと取り憑いた。

 ぶかぶかの服は薄汚れていてボロい。足取りは覚束無い。あまりに貧相で今にでも倒れそうだ。取り憑いたのは失敗だったか?と感じるがこれこそ正解だった。


 取り憑いた少女はすぐさまバタンッと地に落ちた。餓死だ。だが、その腹は満たされないまま目を覚ます。少女は二人へと増えていた。


<軽々と分身出来るじゃんっ!いいねー!>

「あたしを助けたのはあなた?」

<はあ?>


 少女は長く死にかけとなったので"こけし"のいる現し世とあの世の中間にある世界に着いた。そこで少女はお礼を言ったのだ。

 ────今まで"こけし"を嫌う奴は多かったが、有難く思う奴なんかいなかったのに……


「あたし、三枝(さえぐさ)夜鳥子(ぬえこ)。よろしく。」


 三枝は分身など気にしなかった。分身してもどうでもいい。ただ、生きられたことに感謝。そして、分身はあろうことか一致団結していた。

 社会は分身を許さない。

 分身による反乱を企てる三枝に、それを止めようとする社会。


 軍服を纏う男が銃を構え胸を貫く。

 傷は埋まり分身が現れるや否や蘇る。そして、その男になす術はなくなった。


 "こけし"は嬉しかった。けれども、その楽しみは一瞬にして去ってしまった。こんなにも早く関係が途切れるとは……



 雑音が混じるサイレンの音が辺り一面に広がった。木が組み合わさって作られた櫓から強く響く鐘の音。「きたぞ!逃げろ!!」という声が何処からともなく聞こえていく。

 土を掘った避難地(防空壕)へと向かう人々。


 空は雲一つない晴天だった。

 敵によっては晴天は追風だ。爽やかな風が荷物を背負い鮮やかに舞う。が、あたいらにとっては…向かい風(・・・・)だ!

 戦闘機が頭上を通り抜ける。──荷物を落として。

 荷物から現れる火が辺りを炎で包み込んだ。黒煙が上がり晴天の空は暗黒の空へと移り変わってしまった。


 次々に落ちていく火が三枝を消していく。

 動乱の騒ぎの中、無限の灯火が一瞬にして消されてしまったのだった。



 "こけし"は死んではいないが、取り憑くためには療養が必要だった。



 "こけし"を殺すにはこの世とあの世の真ん中の世界まできて火で炙るか、取り憑く前の道具に軽く化けているところに火を焙るか、取り憑き終わって離れたときで現世に現れた時に火で烤るしかない。

 "こけし"はまだ死んでいなかった。



 やっと回復した頃には平和な世界となっていた。

 次に取り憑いたのは……変哲もないただの男だった。名を佐藤太一と言った。

次回予告



 過去について聞かされた太一は最後の交渉となる。

 隆志との会談で、家へと向かうことになるのか?それとも……


 思わぬ展開が目を奪う。

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