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死・か有益な情報か────

「気をつけるんだぞ!─お前は誰にも見つかっては駄目な存在なんだからな!!」

「わーってるよ!」


 俺はボロい軽の車の中に入り込み椅子の下に隠れる。この地元に住む冬秀の知り合いが運転席についた。鳴り響くエンジン音、揺れる車内、その度に小刻みに跳ねる。真っ暗な椅子の下でひたすらと目的地に着くのを待っていた。

 赤信号で幾度か急ブレーキがかかる。乱雑な運転で俺は度々痛みを感じては痛みを消していった。

 そして、ついに最初の目的地に着いた。そこは誰一人として気配のないような小さな道だった。入り組んだ道の果てにあるこの場所は見つからない場所として都合が良い。


 俺は車から降りると待ちぼうけていた友人が近づいてきた。


「た~いちっ、久し~!!」


 例え俺が脱獄犯だとしても気兼ねなく話してくるふわふわとした男性。家着なのか外着なのか分からない服装。笑顔で俺の肩に触れる。

「助かったよ、八茂──」

「やっぱ無実の罪で濡れ衣を着せられただけなんだな!犯人のクローンはまだ捕まってないんでしょ?怖いねぇ。それとも、もうとっくに炎で焼かれているかな?」

「知らない。それよりも俺を匿ってくれないか?」

「勿論だよ!ヤモスキルで誰にもバレないように隠してあげるから!!」


 八茂大輔は俺が一時期働いていた会社の同僚で同期。ただし、八茂の方が一つ歳が上なのだが、その性格から対等な関係である。

 八茂なら俺を裏切らない。そういう性格なのは知っている。会社に勤めている時は随分と長く接していたからな。


 俺は送ってくれた地域の人に感謝を伝え、そして、俺は八茂の車に身を隠した。八茂の家へと到着した頃には深夜だった。彼の家は実は一軒家。実は八茂には結婚したお相手がいたのだが現在では別れている。その時に購入した家は残され、仕方なく八茂が住んでいる。あまりにも唐突でアパートに住み直すのは厳しかったと言っていた。

 彼の悲劇は俺にとって助かる状況を作ってくれた。


 俺は小さな一軒家の中に入る。そして、八茂の世話になった。ここで匿われながら隆志を待つ。



◆◆◆



 平日だが有給休暇で家で広がる八茂。

 カップに紅茶を注ぐ。透き通る赤。湧き出る湯気が軽く鼻に入っていく。息を吹きかけてその液体を身体の中へと注いでいく。

 その時、家全体に響くチャイム音が鳴り響く。

「すみませーん。隆志と言う者ですが……」

 ついに、隆志が来た。八茂は玄関へと向かい戸を開けた。軽く話した後、リビングへと連れてきた。


 隆志は老け始めた大人の男性という感じだった。軽くだけ蓄えた髭に、所々見える白髪。よく見ると小さく皺があることが分かる。50代~という所だろうか。

 隆志は背中に背負うリュックサックを下ろすと、足元の脇へと置いた。


「こんにちは。隆志と言います。この度は佐藤氏に伝えたいことがありまして、伺いに来ました。」


 丁寧にお辞儀をする。俺も思わずお辞儀をしてしまった。


「俺を殲滅するために殺すことはないよな?なあ、畔川(・・)さん。火事でも起こせばこの家どころか一般的である八茂(こいつ)も巻き込むことになるぜ。」

 予め脅す。ここで待ち合わせたのは俺を殺そうとすれば、自身も罪を犯すこととなる。そのため、俺は殺せない。そういう参段だ。

「勿論ですとも。殲滅をしても妖怪を退治することは出来ず、また現れます。わざわざ殲滅してまでして得られるものとそのために払った犠牲とでは犠牲の方が多くなりますのでね……」

 そうなのか?俺を殲滅しても悪魔は再び誰かに取り憑いて、また俺と同じような悲劇を味わさせるのか?悪魔に二度と俺と同じ悲劇を起こさないで欲しい。そう思う。それと、大樹は犠牲を払ってまで殲滅に走るのか……。俺は彼の方が悪であるように感じた。


「実は私の家へとお連れしたいと思って来ました。畔川の血筋は対妖怪"こけし"の一族。そのために①事実と過去を後世に伝え、②所有すれば本物だと証明させる特殊な道具を渡し、それ以外の③有害な"こけしのマリオット"を鍛錬された刀捌きで動きを封じる。その使命を背負っているのです。」


 その言葉で気になる部分が幾つもあった。俺の事例より前に起きた過去の事例がある。その過去とは何か。本物だと証明させる道具とは何か。鍛錬された刀捌き…大樹はそれで刀を自在に操ることが出来ていたのか。


「私の家には特殊な道具があり、その道具の一つに分身することのない道具があるのです。これを付けれるのは本物のみ。それと、あなたは《本物》ですよね?あなたの容量を計るこの石が示していますので……」

 隆志は硝子でできた石を取り出した。その硝子の中は全面紫色に輝いていた。

「何ですか?その石は────」

「特殊な道具の一つで、妖怪"こけし"に取り憑かれた容量を見ることができるのです。本物ならこの石は紫色で覆われますが、偽物になっていけばなる程、紫はより薄くなっていき覆う量は少なくなっていくのです。あなたは容量の最大を示す。そう《本物》なのです。」

 分身が増えれば増える程、本物なのかどうかが疑心暗鬼になる。しかし、隆志のお陰で確信に変わった。俺は《本物》だ。


「ああ、俺が《本物》だ────」

「なら尚更特殊な道具を渡さないといけませんね。私の技術でピアス、髪飾り、指輪、リングなどなど様々な種類に加工されています。種類が多すぎてあなたの選ぶものは分かりませんので、私の家に来てもらわないといけないのです。」

 いや、種類多すぎだろ……。マトリョーシカ人間って一人しか選ばれない。その一人は分身していくが、その間それ以外の人は選ばれない。そんなに必要なものでもない気がするが。


「取り敢えず、私の家へと来てもらうことでよろしいでしょうか?」


 やたらと理由をつけて、家へと誘ってくる。執拗いナンパかよ!?と思いながら唇に蓋をした。「まてよ──これは罠かも知れない」と思ったからだ。


「いや、それは後回しにしたい。お前の役目で②家へと誘って道具を渡す名目上で実際には③脱獄犯として有害な俺を封じるつもりかも知れない。その前にまず、ここで①マトリョーシカ人間の事実と過去について知りたい。」

 家へと行かなくてもここで話は聴ける。死ぬかも知れないこの状況で下手な選択は選べない。死か有益な情報か……。これは駆け引きだ。

「そうですね。まずはあなたに起きた状況について教えましょう。」


 俺と八茂、隆志しかいない空間は音の消えた静寂へと包まれた。その静寂を切るように隆志は小さく鳴る音を放った。


「多分もうお分かりかと思いますが、あなたは死ぬと全体的に容量がほんの少し小さい偽物を生み出す代わりに生き返るのです。それは、"こけし"と言う妖怪の仕業です。あなた、あなたの分身の身体にはその妖怪に取り憑かれているのです。

 不老不死の身体で、傷もすぐ回復する。取り敢えず、ある手段を取られない限り無敵ですね。」

「知ってるよ。肢体を切り落とされるとその部分が戻らない。ってことと、火で死ぬことだろ?」

「その通りです。すぐに回復する能力を逆手に取って肢体を離せますし、火を受けると人ではありえない速さで燃え盛って、燃え滓となり死にますね。そこに宿る"こけし"は消えます。こけし人形のように木製だと考えて下さい。」

 木でできた艶のある人形。細長くふんわりとした身体つき。そこに艶のある色が塗られている。こけし人形のイメージが頭を過ぎった。

「あなたの身に起きた状況はそういうことです。一つお伺いしましょう。何故"こけし"はあなたをより分身させようとするのでしょう?そもそも、何故取り憑いたのでしょう?」

 分からない──

 悪魔はより分身することを望んでいたし、分身が作られることを喜んでいた。何故、そんなに分身を望むのだろうか?

 そして、何故、俺はマトリョーシカ人間となったのか?


  俺は選ばれた存在だからか────?



「まず、あなたは"こけし"の罠に引っ掛かった人間だった。"こけし"は誰でもいいから人間に取り憑きたかった。取り憑くために罠を潜ましたのです。あなたはたまたまそれに引っ掛かった。選ばれてなんかいません。たまたま、あなただっただけですね……」

 あ、そうなんだ……

 たまたま【呪いの本】を手にしたのが俺だっただけ。まさか俺の思考が読まれるなんて。選ばれたと思っていたさっきまでの俺を恥じたい。

「そして、"こけし"が人間に取り憑いて分身を増やすのは……《ゲームを行いたい》からです。合計100人となればもう分身することはないでしょう。」

「えっ、分身って無限にされる訳ではないのか?」

「はい。100人になれば"こけし"自ら分身させません。そして、その数となってから、"こけし"はその100人をゲームに参加させる。そこで勝ち残った者には《一つだけ望むもの》が手に入る。殆ど何でも手に入りそうです。」


 悪魔はゲームのために分身を望んでいるのか?

 そのゲームとは何なのか?だが、俺はそこまで踏み込まなかった。


「さて、これがあなたに起きた情報ですよ。理解できましたか?」

「ああ、」

 理解出来ない所も多かったが、その場の雰囲気にのされ理解出来たように醸し出してしまった。


「それでは、次は過去について語りましょう──」

次回予告


 マトリョーシカ人間にまつわる過去の話。

 俺の物語とは違うもう一つの物語。


 謎の正体"こけし"とは?

 その真相が明かされる────



 次回はあるかもしれないしないかもしれない

to be continued

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