《俺》・は"マトリョーシカ人間"
100,000文字まで書く予定なので、簡単には終わりません。
新聞の見出しに大きく「刑務所からクローンが脱走!?クローンの正体とは?」と書かれていた。そして、防犯カメラが捉えた俺の脱走シーンが一枚貼られている。
大阪で囚人が四名脱走。その内一人はクローンで増産している。どうして増産したのか?
警察の公表した指名手配犯のポスターに俺の顔がまじまじと写る。他に、瀧、冬秀、裕翔の顔も別途で写っている。
情報は瞬く間に拡散され日本を覆い尽くす。誰が見ているか分からない。外野はスマホという一つの道具で世界へと拡散させ、それを見た多くの人がそれを共有する。それが積み重なり牢獄のような監視がされるようになる。
「ゲストに妖怪専門家の畔川大樹さんにお越し頂いてます。今回はどうぞよろしくお願いします。」
画面を挟んだ向こう越しにいるニュースキャスター。抑揚のある聞き取りやすい声が俺の耳へと入り込む。
「よろしくお願いします。」
「さて、早速ですが何故クローンが生まれたのでしょうか?」
大樹は鋭い眼光をカメラに向けた。彼は眼鏡を掛けていた。俺が出会った彼は眼鏡を掛けていなかった。眼鏡をかけた大樹は印象が少し変わって見えた。
「彼は《こけし妖怪》に取り憑かれて妖怪の身体となったのです。その身体は死ぬとクローンを作り出します。ただ、そのクローンは本物と違ってほんの少し容量が小さいですし、服装や装飾品などは偽物です。彼のことを名付けるのなら……言うなれば、」
間が空いた。今多くの人がそれに関心を持っている。次に発する言葉は非常に重い。画面越しの場所の空気は唾を飲む程張り詰めていた。
「「「《《マトリョーシカ人間》》です!!!」」」
俺はそのニュースに目が釘付けとなっていた。
次々と俺の知らない"俺"について解き明かされていく。悪魔と思っていたのは妖怪で、こけし妖怪と呼ばれていた。そして、俺はマトリョーシカ人間である。
「それでは、マトリョーシカ人間への対処法はあるのでしょうか?」
重い空気を切るように司会のアナウンサーが再び聞いた。
「彼は死ぬ代わりにクローンを作る。つまり、不死です。さらに、傷などはすぐに回復し不老でもあります。不用意に対処しようとするのは危険ですので、すぐに警察へと連絡して逃げるのが一番でしょう。
それでも、もし逃げれない場合は火を当てて下さい。彼は可燃性です。燃やせば灰の残骸となるでしょう。マッチの棒の先端に火をつけて投げるのが安くて簡単ですね。ただ、すぐ消えてしまうので不安だという方はライターを輪ゴムで巻いて常に火を出せるように固定するという方法もありますね。」
「なるほど、マトリョーシカ人間は火に弱いということですね。ただ、やはり優先するべきは警察に連絡することと逃げることですね。」
「そうですね。」
俺は火に弱い。家事が起きたら普通火によって死ぬより前に煙によって死ぬ。しかし俺は、火に触れた瞬間燃え盛って燃えくずとなる。なぜなら、可燃性だから。
「それと、大樹さんは今回の件で警察から刀を使うことを許可されたとされます。マトリョーシカ人間に刀も有効なのでしょうか?」
そうだ。大樹が現れた時、刀を持っていた。普通なら銃刀法違反となるため、その時に持っている確立は非常に低い。彼自身が捕まる可能性もある。
けれども、警察から許可されて銃刀法の特例とされた。だから刀を使ってきたのか。
「マトリョーシカ人間は傷をすぐに回復させてしまいます。それを利用して手足を切り落とします。その落とされた部分と身体の部分は結合する前に身体の傷は塞がり結合出来なくなります。そうすると、彼の動きを封じることが出来るのです。」
まさに生き死にだな。
彼はマトリョーシカ人間を人間としては見ていない。
「そうですか。"マトリョーシカ人間も人間だ!同じ人のように扱うべきだ!!"という意見がありますが、それについてどう思いますか?」
「彼はもう人間ではなく妖怪です。対処しないと勝手に増えていきます。被害が増える前に対処する必要があるのです。是非、ご理解下さい。」
俺は人間ではなく妖怪?
人の形をした妖怪なのか……
「最後に……」
大樹の持ち時間がもうすぐ終わる。そのギリギリで口を開く。
「これを見ているマトリョーシカ人間の佐藤太一。君を呼び寄せるための策を持っている。東京の福伝寺で待っているよ。来なければどうなるかは君の想像に任せるよ……」
そして、大樹の出番は終わった。
大樹は正義のために犠牲を厭わない性格だと踏んだ。もし行かなければ……大切な何かを失う気がして仕方ない。雲行きが怪しい。
大寒波が到来した二月。雪が頻っている月となった。その雲はまだ去らない。春の訪れを待つものに抗うように雲は未だに居残ろうと構えている。
大樹が見えなくなった画面が一瞬にして暗くなる。リモコンを押してテレビを消したのだ。
これで対処法を一般的も知るのだ。いつ火を放たれて死ぬのか分からない。誰が殺しにかかるか分からない恐怖を心の中に押し込んだ。
「おい、太一!!お前を探している奴がいるんだが、こいつ知ってるか?」
冬秀だ。彼は俺のことを太一。もう一人の俺のことを佐藤と呼ぶ。見分ける方法は服装の違いで見分ける。
冬秀は一通の封筒を渡してきた。その封筒の送り主は"隆志"と書かれている。俺は頭の中でその人物と出会ったことがあるかを整理した。深く考えようとする程分からない。そして、再び名前を見る。やはり、分からない。
「いや、分からないな。名だけじゃなくて、性の方も書いてくれないと分からないわ!!一応、その手紙の内容を見てみるよ!」
そう言って、封筒に入っていた手紙を取り出して内容を読んだ。
『拝啓 佐藤太一様
佐藤氏の居られる可能性が高い場所へと幾数もの封筒をそれぞれに送らせて頂いてます。佐藤太一氏とは無縁な方はこの封筒をしまい、佐藤氏が現れた時に彼へとお渡し下さい。
以下は佐藤氏へのメッセージであります。
私はあなたの身に起きたことについてお伝えする役目を持っています。この事実を伝えるために一度私とあって頂きたい。そのために、私の家へとこの折り返しの手紙と待ち合わせにする場所の提示を送って貰いたい。
場所についてはあなたの中に潜む妖怪に聴いて下さい。聴くためには死にかけになればよい。以下にその方法を印します。』
その下には幾つかの図が描かれている。首吊り自殺の時に使われる投げ縄の作り方とそれで死なずに死にかけとなる方法が詳しく説明されている。紐を引っ張ると首が絞まるようになる。自身で絞める具合を調節することで死にかけとなるのだ。
彼は何処の誰なのだろうか?
本当に信用していいのだろうか?大樹の手配なのかもしれない。
「何が書いてあったんだ?……というか誰なんだ?」
「誰かは分からないが、彼が俺のこの状況に詳しいことは分かった。もしかしたら、大樹とグルかもしれない……」
彼との接触は危険が高い。利点の方が少ないのかも知れない。だが、、
もし彼が危険ではなく有益な情報をくれた時、大樹と張り合えるかも知れない。大樹と戦わないと大切なものを失ってしまうと感じる。ここで逃せば大樹に理不尽に奪われるだけかも知れない。
「だけど、俺は彼と会ってみようと思う。 彼が危険じゃないことに賭けてみる。勿論、お前らには迷惑をかけない。」
約束の地を拠点から遠い場所へと設定し、設定した場所の近くで何日間野宿をして敵の行動を窺う。怪しければ俺はここへは戻れない。これは俺の人生を賭けた賭け事だ──
"俺はもう逃げない"と決めた側から逃げたくはない。
「俺はもう逃げたくないから────」
「分かった。だけど、一つだけ守ってくれ……」
冬秀の目は真っ直ぐ俺の瞳を捉える。
「絶対に死ぬなよ。お前を大切に思ってる奴はここに残っている。どうしようもなくなったら俺らを頼れ───」
俺は謎の人物隆志に会うことにした。
背中には頼もしい仲間がいる。俺はその背中に心を支えられたお陰で会うことをすんなりと決意出来た。
突如現れた畔川大樹。そして、彼の宣戦布告。俺と大樹の対立に火がつき始めた。
俺は何かを失わないために引くことは出来ない。
ただ、目の前に現れる幾つもの選択肢で何度も何度でも俺は迷わない。そう決めたから────
ついに2章へ突入───
ついに始まる畔川大樹との対決。
己の面を守りながら互いを潰そうと狙っていく。
謎のキーマン隆志。
東京に残る葉月。
知られざるマトリョーシカ人間について。
物語はついに、、、新たなステージを迎える。