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ちゅうに探偵 赤名メイ  作者: 神有月ニヤ
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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑧》


「お待ちしておりました。赤名様」


大きな玄関の前で出迎えてくれたのは執事の方だった。彼は蓄えた白いヒゲに黒のスーツ姿が似合う、いかにも『執事』という言葉で表すにはもってこいの人物だ。


「うむ・・・」


赤名は一度頷くと、何か怪訝な表情になり、彼について行った。


あれ、どうしたんだ?


俺は赤名を始め、桃園、白井、黒柳、藍沢の様子もおかしい事に気付いた。


みんなまでどうしたんだ?まるで葬式みたいな顔して・・・。


その表情が飲み込めないまま、俺は最後尾でみなについていき、依頼主の待つ大広間へと案内された。そこには相変わらず大きな体をさせ、ギラギラのドレスを身に纏い、指にはゴツい指輪が数個付いている奥様が椅子に腰掛けていた。俺らに目をやると一度お辞儀をし、覚悟を帯びた表情で迎え入れた。


「・・・どうぞ」


前回と違って俺らの分まで椅子が用意されており、座るとすぐに、メイド長が紅茶を淹れたカップを目の前に置いてくれた。


なんだか落ち着くな。


俺がそれに一口付けると、赤名は切り出した。


「さて、奥様・・・。依頼の件ですが・・・」


「はい・・・」


「ご主人の麒一郎さんは、間違いなく浮気をしています」


その言葉を聞き、奥様は俯いた。近くに立っていたメイド長と執事も口を手で覆ったり、顔を背けたりしていた。


「大変辛いとは思いますが、調査資料の方に目を通して頂きたいと思っております」


と、赤名は聞き込みで得た情報や、俺らが撮った写真をテーブルの上に並べた。そして奥様は一通り目を通すと、諦めた様に目は虚ろに、肩の力は抜けた。


「・・・少し、部屋で休みます。赤名さん、しばらくはここで寛いでくださって構いませんので・・・。それでは」


奥様は椅子から立ち上がると再びお辞儀をし、その部屋から出ようとした。


「あ、京子(きょうこ)さん、お昼は何か軽いモノが良いわ。赤名さんたちにも、軽食を」


そう言い残すと、奥様は部屋からゆっくりと出て行った。


誰だ、京子さんって?


と辺りを軽く見回すと、メイド長が深くお辞儀をして見送っていた。


あの人が京子さん・・・?良い名前だなぁ。


和んでいると、執事も出て行ってしまった。


「すみません、奥様、最近元気ないんですよ・・・」


メイド長の京子と呼ばれていた女性は、申し訳なさそうに奥様が飲んでいたカップを片付けた。


「それは、今回のとは別件ですか?」


「・・・実は、ここ数日脅迫状が届いてまして」


メイド長は3枚のA4サイズの紙をテーブルに並べた。そこには新聞の切り抜き文字でこう書いてあった。


「『呪ってやる』、『お前のせいだ』、『あと少しで全てが終わる』か・・・」


俺はアゴに手を置き、考えた。一体誰が、何の目的でこの脅迫状を送り付けたのかは分からないが、俺は少しでもこの京子さんの悩みが晴れればと思い、考えた。


「どうせイタズラだと思いますけどね。昨日まで連日届いて、今日はありませんでしたから。それでは、私は奥様とみなさまの分の軽食を作ってまいりますので、これで」


メイド長はお辞儀をし、部屋から出て行った。それから数分が経過した頃、赤名はおもむろにテービルに置かれた脅迫状を手に取った。


「なぁお前ら。何故今日、脅迫状が届かなかったと思う?」


3枚の紙は、赤名の手によってヒラヒラと踊らされた。


何故って。何でだろう・・・?


一端に頭を捻るが、答えは出てこなかった。


「もう出す必要がないからだよ」


ジャスティスこと白井の答えで俺はハッとした。ということは、


「奥様が危ない・・・!?」


俺たちは急いで部屋を飛び出した。でも、どこだ、奥様の部屋は、とうろたえていると、アーサーことドイルが先陣を切った。


「こっち!!」


おぉ!?何で一目散に向かうんだ!?


不思議そうな顔で見つめていると、その気持ちが通じたのか、アーサーこと藍沢は答えてくれた。


「あのオバさん、香水キツかったでしょ?その匂いを辿ってるの」


犬かよお前は!


と心の中でツッコミを入れた矢先に、俺らはとある大きな扉の前で止まった。


「ここが奥様の部屋・・・」


場所は1階の、廊下を2度程曲がった先にある大きな部屋。木の扉が重苦しく、軽々しく開けてはいけない雰囲気を醸し出している。


「奥様、気分は大丈夫ですか?」


赤名が扉を叩くが、反応はない。ドアノブに手を掛けるが、鍵も掛かっているようだ。


「奥様!扉を開けていただけませんか!?」


と強く扉を叩こうとした瞬間。



パリーンッ!!



何だ今の音!?ガラスか!?


その音を聞いた瞬間、赤名は指示を出した。


「ジャスティス、ブラックサンダー、ブルーマウンテン、体当たりで扉を開けろ!!」


緊迫した空気の中、俺たちは扉を破ろうと体当たりを繰り返した。2度、3度、全力で体当たりを繰り返し、扉は勢いよく開いた。そして俺たちは、中の光景に息を飲んだ。


「そんな・・・」


部屋の向かって左隅に置いているベッドの上で眠るように横たわっていた奥様の胸に、深く包丁が突き立っていたのだ。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑨》へ続く。

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