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ちゅうに探偵 赤名メイ  作者: 神有月ニヤ
49/53

⑲′′

《ちゅうに探偵 赤名メイ⑲′′》


それは、とある日の一部分だった。俺は、赤名探偵事務所内で事務作業をしていた。


「おい、青山」


呼んだのは赤名探偵だ。俺は作業の手を止めてデスクへ向かった。


「はい、何でしょう?」


赤名探偵は腕を組んで何か迷っている様子だ。


一体何だ?


「お前・・・うどんとそば、どっちが好きだ?」


・・・何だ、その質問。


「うどん、と、そば・・・ですか?」


俺は顎に指を這わせて天井を見つめた。


うーん、前に旅行先で食べたうどんは美味しかったけど、日常的に食べてるのはあったかいそば。あー、でも、この前食べた鴨せいろは美味しかったなー・・・。


などと考えていると、赤名探偵は、フッと笑った。


「お前、よく周りから真面目なやつだと言われるだろ?」


「そうですね、比較的言われる頻度は多いですね。でも、どうしてそう思ったんですか?」


まだ長い年月を過ごしていないにも関わらず俺の性格を当ててみせたのは、やはり凄腕の探偵だからだろうか。感心している俺の顔を見るなり、再び赤名探偵はフッと笑った。


今度は何だ?


「私は預言者でも、占い師でもない」


「それは知ってます。勘が鋭すぎるだけなんですよね」


「それだけみたいに言うなよ。今のは、ちょっとしたテクニックだ。お前も覚えておけ。人は何気ない瞬間に素を出す。私は今2択を出したが、他には熱々のコーヒーを口に運ぶ瞬間なども素が出やすい。『冷ましたい』という動作に集中するからだ。もしお前が仮に犯人に捕まった時に試してみろ。思い掛けない情報が手に入るかもしれないぞ?」


そして赤名探偵は余裕の表情で湯気の立つコーヒーを飲み始めた。

そんなところで、俺は目を覚ました。


「〜〜〜・・・、痛てて。何だ、夢かよ・・・」


俺はすぐさま現実を受け止めた。後ろで縛られた腕はびくともしなかった。おまけに足も縛られていて身動きが取れない上に周りは暗い。恐らくここは、俺がスタンガンで気絶させられる直前に見た車のトランクの中だろう。車特有のエンジン音、マフラーの音、道路を転がるタイヤの音。それら全てが答えであり、俺が置かれている状況を如実に表していた。


うーん、どうするか、この状況・・・。


頭は焦りを通り越して冷静になっていた。むやみに外へ出ようと暴れれば、もれなく危害が加えられるだろう。何とか無事に出られないだろうか、と考えていると、急に車は止まったり進んだりを繰り返し始めた。


何だ・・・?渋滞か?


俺が気を失ってからどれほどの時間が経ったかは分からない。どこで乗せられてどこに向かって走っているのかも分からない以上、俺が周りを知る唯一の武器は『聴力』だ。


耳を澄ませ〜・・・。何か情報を・・・。


集中し、芋虫の様に中を這いずってトランクの優しい絨毯(じゅうたん)に耳を押し当てた。僅かに聴こえたのは、パトカーのサイレンだった。何かの事件だろうか、数台のパトカーが通り過ぎていった。と、思いきや、先程から止まっては進んでいた俺が閉じ込められている車が、完全に停止した。そして数人が近付いてくる音があった。


何だ・・・?


『すいません、飲酒運転の検問にご協力ください』


検問、か。運良く怪しんでトランクでも調べてくれれば儲けもんだが、そう上手くはいかないだろう。が、俺もたたでは捕まってるわけにはいかないんだな、これが。


「あれ・・・この声、どこかで聞いたことあるような・・・」


俺は記憶にある、特に最近聞いたことのある男性の声を思い出そうと口をへの字に曲げた瞬間に、頭の中に顔が浮かんだ。


「浅井さんだ・・・!!」


その声の主は、俺たち赤名探偵事務所のメンバーが日頃お世話になっている藤堂警部の直属の部下の浅井さんだった。藤堂警部に、赤川の件を聞きにいった際に病院内ですれ違った際に声を掛けられた時の事を鮮明に覚えていた。


「浅井さん!!トランクを開けてください!!」


俺は意を決して叫んでしまった。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑳′′》へ続く。

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