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ちゅうに探偵 赤名メイ  作者: 神有月ニヤ
31/53

①′′

《ちゅうに探偵 赤名メイ①′′》


ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・


朝を告げる電子音が部屋に鳴り響く。カーテンから漏れる光が(まぶた)を押し上げ、俺は目を覚ました。


「ん・・・朝か・・・」


眠い目をこすり、ボーッとする頭を掻きながら上半身をゆっくり起こした。

昨夜早めに就寝してから早10時間。今は午前8時。赤名探偵から休みを貰い、久し振りにゆっくりとした朝を迎えた。


「顔洗うか」


予定はないがとりあえず起き上がり、洗面台へと重い足取りで向かった。歯ブラシに歯磨き粉を付け、入念に歯を磨く。俺はいつもこの時は無心なのだが、今朝は違い、昨夜寝る前に藤堂警部から電話で聞いた通り魔事件の報告が頭を中を巡っていた。


『中林の親はあの病院の院長だ』


『え、そうだったんですか?』


『あぁ。大島さんがその病院に運ばれたのは偶然か必然か・・・。思ったより軽傷だったから事情聴取を行ったんだがそう言っていた。親にも復讐してやるつもりだった、とね』


『それで自殺を図ろうとしたんですね』


『最後に親の顔に泥を塗って死ぬつもりだったらしい』


『殺人未遂を犯した息子が自分の病院で最後に自殺をしたとなると、親はたまったもんじゃないですね』


『そこまで追い詰めてしまった親にも責任があると思うんだが、そこはまだ調査中だ』


親の責任、か。ジャスティスの中林に対する怒り方も気になるな・・・。


『こんな事したって、失った物は戻ってこない!お前がやってることは、ただのガキのワガママに過ぎないんだよ!!』


ジャスティスにも昔何かあったのだろうか・・・。


そんな事を思い返しながら歯を磨き、顔を洗い、タオルで水気を取っていると、スマホが音と共に振動した。画面には【猪瀬(いのせ) 孝明(たかあき)】とある。中学、高校、大学と一緒だった仲の良かった同級生だ。俺はスマホを取り上げて電話に出た。


「おはよう。どうした、こんな朝っぱらから?」


『お〜、凌、久し振り!今仕事がひと段落して帰ってきてるんだ。どうだ、奴らも誘って今夜飲みに行かないか?』


「良いね、俺も今日やる事なくて暇だったんだ」


『じゃあ19時に【武士道場(もののふどうじょう)】な!』


と猪瀬は電話を切った。


19時に【武士道場】か。久し振りだな。


【武士道場】は、地元で有名な居酒屋だ。チェーン展開をしていないにも関わらず、他の地域からの来客も多く、ほぼほぼ毎日満席に近い。最近では海外からのお客さんも居ると聞く。名物は豚の角煮だ。大学時代に頻繁に飲みに行き、そこの大将にも良くしてもらっていた。


奴らと会うのも高校以来か・・・。


奴ら、とは、中学、高校と仲が良かったグループのメンバーの事だ。電話を掛けてきた猪瀬(いのせ) 孝明(たかあき)鹿島(かしま) 秀人(ひでと)蝶野(ちょうの) 勝一郎(しょういちろう)、紅一点の赤川(あかがわ) 千尋(ちひろ)と俺、青山 凌の5人は、今はそれぞれ別の道を歩んでいるが、学生時代はよく遊ぶ仲だった。猪瀬、鹿島、蝶野の3人が同じ小学校出身、俺と赤川が同じ小学校出身で、中学で一緒になり、俺と猪瀬が同じ部活に入った事で交流が始まった。高校卒業まで事あるごとに集まって遊んでおり、親友と呼べるのは彼らだけだ。


さて、夜まで暇だな。赤川にも連絡してみるか。


と、俺はスマホを片手に赤川の連絡先を探す。【赤川 千尋】の名前を見つけ、電話を掛けたが、コール音はすれど、一向に出る気配がない。


あれ、あいつ今仕事か?


朝っぱらから電話をする方もどうかと思うが、仕方なくメールを送る事にした。内容は猪瀬から誘われた内容そのままだ。


「今日・・・19時に・・・武士道場集合!猪瀬たちも・・・来るよ。来れる?・・・、と!これで良いだろう」


打ち終えて送信が完了するまでにそう時間はいらなかった。時代の流れは早いもんだと感心してしまうほどだ。俺たちが携帯電話を持ち始めたのは中学の終わり頃だったが、その頃に比べると圧倒的に連絡手段としては進化を遂げていた。

赤川に送ったメールはすぐに返信が来た。恐らく、電車の中だったのだろう。


『おひさ〜。オッケ〜( ̄(工) ̄)』


相変わらずのクマの顔文字か・・・。


この顔文字は昔から変わらない。俺は学生時代を思い出しながらもその返信を確認し、スマホを置いた。全員が集まるとなると高校の卒業式以来になる。俺の胸は高まった。猪瀬とは大学が一緒だったからよく飲みに行っていたが、鹿島、蝶野、赤川の3人は高校卒業後、すぐ市外に出てしまったからだ。鹿島と蝶野は就職、赤川は女子大だ。


ふふ、楽しみだな。


猪瀬の突然の誘いに感謝しつつ、俺は着替えて今夜着ていく服を買いに外へ出た。


「あ、今の職業聞かれたらどうしよう?探偵って言えないよな。ん〜・・・まぁ、何とかなるか」


俺は日の光を眩しく感じながら、街中へ向けて出発した。


《ちゅうに探偵 赤名メイ②′′》へ続く。

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