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ちゅうに探偵 赤名メイ  作者: 神有月ニヤ
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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑫》


水本(みずもと) 麒一郎(きいちろう)が屋敷に姿を現してから数十分が経過した。俺は一旦屋敷の探索を中止して犯行のあった奥様の自室にいた。赤名探偵に呼ばれたからだ。最初は何事かと思っていたが、どうやら警察の事情聴取が全て終わり、その結果が一覧となって赤名探偵の手元に来た、というわけだった。新人だが俺にも見せてくれるようだ。


「アリバイが無いのはこの3人、か・・・」


渡された紙の名前に丸印が付けられていたのは、執事、メイド長、そして水本 麒一郎の3人だった。


嫌な3人が残ったもんだな。


見知らぬ人が容疑者として上がるなら気持ちも違うが、顔を知っているだけに、その犯行は想像したくはなかった。


「執事の龍野(たつの) 伸二(しんじ)は犯行時刻である時間に1人で部屋にいたらしい。メイド長の虎谷(こたに) 京子(きょうこ)は1人で厨房で軽食を作っていた。被害者の夫、水本(みずもと) 麒一郎(きいちろう)はこの屋敷のすぐ近くを散歩していたそうだ。一応嘘は吐くなと言ってある」


やっぱりこの3人の中では、一番怪しいのは水本だ。だいたいこの真っ昼間に屋敷のすぐ近くを散歩していたという、怪しまれてもおかしくない事を何故話したのか。本当に散歩していたのか、それとも・・・。いくら警察から嘘吐くなと言われていようが、もっとマシな言い訳ぐらいあったろうに。


「それぞれがもし仮に犯人だとして、動機はなんでしょうね?」


ピンクガーデンこと桃園が顔を覗かせた。


「それはうちで調べてある」


と、藤堂警部は別の紙をピンクガーデンこと桃園に渡した。書いてあるのは3人の名前と、横に動機になり得るモノ。


「執事の龍野は重度の腰痛持ちでな、その原因が被害者の銀将院 麟華だそうだ」


それであの写真で腰を曲げてなかったのか!


「3年前、脚立に立って作業をしていたところ、犬を追い掛けてきた被害者に押されてバランスを崩して落ち、腰を打ち付けた。証言はメイド長の虎谷がしてくれた。もちろん、本人にも確認済みだ」


動機としては十分か・・・。でもその重度の腰痛持ちで、殺人を犯した後、鍵が掛かった部屋から逃げれるもんかな?


「次は、水本 麒一郎だ」


あれ?メイド長の虎谷さんは?


「彼は浮気をしていたらしい。後は大方予想は付くな?単純に被害者の存在が邪魔になったとすれば、十分動機になる。これの証言は執事の龍野、メイド長の虎谷がしてくれたが、お前らはコレの調査で入っていたらしいな?」


「あぁ。隠すつもりはなかったが、話すタイミングがなくてな」


赤名探偵は腕を組みながらアゴに指を這わせていた。


「最後にメイド長の虎谷だが、彼女は動機らしい動機が無くてなぁ・・・。ただアリバイが無いってだけで名前が挙がっている」


藤堂警部は溜め息を吐いていたが、赤名探偵の鼻からは、やる気に満ちた息が抜けた。


「なるほどな。・・・ピンクガーデン、ブルーマウンテン、お前ら私に付き合え」


指名・・・嫌な予感がする・・・。


「どこに行くんですか?」


「ちょっとな、確かめたいことがある」


そういう事なら、とピンクガーデンこと桃園は意気揚々と赤名探偵の後ろを付いて行こうと部屋を後にした。俺も遅れまいとすぐ後ろを付いていったが、ピンクガーデンこと桃園とは裏腹に、少し気乗りはしなかった。


「どうした?」


「あ、いえ、何でもありません」


俺は、この自分の名前を呼ばれる『指名』という行為に、あまり良い思い出がない。中学生の時だって、高校生の時だって、呼ばれれば嫌が応にもお説教が付いてくる。社会人にもなっても尚、そのドキッとする癖は治っていない。俺は廊下を歩いている間、顔は下向き加減だった。


「ブルーマウンテン」


「・・・はい?」


「お前、何か私たちに隠し事してるだろ?」


恐らく、遺体を発見した時に背後で感じた違和感だ。


・・・お見通しかよ・・・。


「・・・はい」


立ち止まって俯く顔を上げた瞬間、赤名探偵の平手打ちが飛んできた。しかしそれは怒りの暴力ではなく、寝ている者を起こすかのような、優しくパチンッと小さく廊下に響いた。呆気に取られる俺に、赤名探偵は諭してくれた。


「良いかブルーマウンテン。私は捜査を始める時、何かあれば必ず伝えろと言ったはずだ。お前が今隠してる事がもし、この事件の鍵だとしたら、犯人を特定できずに迷宮入りになってしまうかもしれない。だからお前は気づいたことを堂々と、胸を張って私に報告すれば良いんだ。・・・もし間違っているなら、私が責任を持って相手に謝罪する。だから安心して言え」


最後にコツン、と俺の頭に拳を当てると、再び歩き出した。まさか自分より年下に『責任は取る』と言われるなんて思ってもいなかった俺は、胸のつっかえが取れたように、スッキリとしていた。


そうか、俺は不安だったんだ・・・。否定される事が・・・。


「・・・分かりました。俺が感じた違和感をお話しします」


赤名探偵は優しく微笑んだ。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑬》へ続く。

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