2話:街へ行こう
凛が情報統合研究部に入部した次の日。その日は学校の都合で、午前中の授業で終わりの日だった。当然下校しなければならないが、部室棟は解放されている為、6人とも部室に集まっていた。
「おひるー!おひるー!おべんとー!」
やたらテンションの高い翠。
「おひるごはんぅー」
やたら大きい重箱を開け始める琴音。
「相変わらず琴音の弁当はでかいなぁ。そして翠は相変わらず自分で作ってるのか」
「そりゃ自分で作った方が自分好みになるしね」
「今日の……中身は……?」
翠がやたらニヤニヤしながら弁当箱をゆっくりと開ける。
「ふふふ……一昨日妹が釣ってきたウナギで作ったうな重だよ!」
翠の妹の趣味は釣りで、休日はよく釣りに行っている。そして釣ってきた魚を翠が調理するのが一連の流れである。家には専用の水槽があるほどである。
「ウナギって釣れるもんなんだな」
「滅多にないけどね。妹も驚いたって言ってた」
そのまま各々の弁当を食べ始める。
「取り敢えず、来週のテーマ決めるか」
「次こそゲームでいいのでは?」
「んじゃ、それでいくか」
来週のテーマはゲームに決定し、食事を続ける。
「そういえば、パソコン3台で足りるか?凛が加わって6人になっただろ?」
「でもボクは寝てる事が多いし」
「私は食べてる事が多いぃ」
「私は自分のノーパソ持って来てもいいけど」
「じゃあ大丈夫か」
食事を続けていると、奈緒が何かを思い出したように話し始める。
「そういえば、夏休みどうする?凛も連れて行くか?」
「いいと思うよ。私が出すし」
困惑する凛。
「あの……何の話でしょうか?」
「あぁ、夏休みに皆で旅行に行ってみようって話をしてたんだ。だからその旅費を稼ぐ為にバイトとかしてたんだが、凛も行くなら翠が出してくれるらしいぞ」
「い、いえいえ!そこまでお世話になるわけには……なんとか用意してみます!」
首を横に全力で振って断る凛。
「そっか。ところで、どこに行くか決めたの?」
「まだだ。何も決まってないぞ」
「そろそろ……決めなきゃ……まずいのでは……?」
「お前らの要望が多いから決まんないんだろうが」
そう言って奈緒が凛以外の4人を睨むと、全員が一斉に視線を逸らす。
「今日はこの後どこか行く?」
「私は今日は平気ぃ」
「私も……行く……」
「あたしも空いてるぞ」
「私も大丈夫です」
「ボクもー」
「じゃあ色々回ろう!」
食事を終え、鍵を管理室に返し、6人は街へと繰り出す。
「まずは何処へ行くんだ?」
「ゲーセン行きたい。欲しい景品があるの」
6人はゲームセンターに入る。
「あったあった。このクレーンゲームの景品が欲しいんだよねー」
そう言って翠は早速とばかりに硬貨を投入する。
その間、琴音が大きなお菓子の箱が景品のクレームゲームに挑もうとしていた。傍で千景と凛が見守る。
「こういうのって……取れるの……?」
「私もあまりゲーセンには来ないので何とも……」
挑戦する事5回。未だ取れずにいた。
「うぅ……全然取れないぃ……」
そんな琴音の元に翠達が来る。
「調子はどうー?」
「こいつ、500円でアニメキャラの絵が入った財布取った後、500円でフィギュア取りやがった……」
「翠はゲームは何でも得意だよねぇ……」
翠は琴音に近づき、ゲームの中を覗く。
「ん?琴ちゃんコレ取りたいの?」
「うんぅ。取れそうに無いけどぉ」
翠は左右上下色々な角度から観察する。
「ふむ、これなら……」
そう言って100円を投入し、スイッチを押してクレーンを操作する。そして箱が落下し、『ガコンッ』という音が響く。
「計画通り!」
翠は今日一番のドヤ顔を決める。そのまま箱を取り出して琴音に渡す。
「ありがとぅ」
そのまま6人はゲームセンター内を見て回る。
「クー、こいつやろうぜ」
「良いよー」
紅伊那と奈緒は銃で迫る敵を倒すゲームを選ぶ。
「おぉ、このダンスゲーム、新しいやつか。やってみよう」
翠は新しく出たダンスゲームを選ぶ。凛と琴音と千景が後ろで見学している。
翠は体質からあまり外で遊ぶことは出来ないが、運動神経はかなりいい方である。その為、ダンスゲームもノーミスでクリアする。
「ふふっ。見たか、私の実力!」
「翠ちゃんぅ、すごーいぃ」
「相変わらず……運動神経……良い……」
奈緒と紅伊那も合流する。
「やっぱあの手のゲームは難しいなぁ。全然クリア出来ん。翠はノーミスかぁ。相変わらずだなぁ」
「流石だよねぇ」
ドヤ顔で無い胸を張り、誇らしげな顔をする翠。
「さて、満喫したし、そろそろ次行こうか」
「だなぁ、あまり長居すると、お金がいくらあっても足りんからな」
そうして6人はゲームセンターを後にし、本屋に向かう。
「さーて、今月の新刊を買い揃えないと」
翠は真っ先に漫画コーナーに向かう。
「あたしは写真とかの雑誌見て来るわ」
「私も……旅行雑誌……みたい……」
「ボクも適当な雑誌見て待ってるかなぁ」
それぞれ自分の興味が惹かれる本の売り場に向かう。
(あれ、これって……)
凛はファッション雑誌の一部分を見て固まる。
白のワンピースを着て写真に写る、真っ白な少女。翠が写っていた。
「凛、どうした?」
「あ、奈緒さん。この雑誌のこの写真なんですけど……」
奈緒が凛の指した写真を見る。
「あぁ、翠か。あいつスカウトされてモデルやってるんだよ」
「初めて知りました……」
そんな二人の元に翠がやってくる。
「どしたのー。雑誌を二人で見て。面白い記事でもあったの?」
相も変わらない調子の翠に奈緒はため息を零す。
「お前、自分が載ってる雑誌ぐらい把握しとけよ」
「あぁ、成程。そう言う事か」
納得がいった顔をする翠。
「翠さん、モデルやってたんですねぇ……」
「まだ学生だから、卒業するまでは週1に抑えて貰ってるけどね。私こういう体質だから、将来就活する時は凄い苦労するだろうなって思ってたけど、運がいいよねぇ、私」
どう返事をすればいいのか分からず困惑する凛。
「反応に困る話は止めろよ。凛が困ってるだろ」
長い付き合いか、空気を読まないのか、奈緒が突っ込む。
「いやー、ごめんごめん。あ、漫画買い終わったし、次行く?」
「あぁ、そうだな。次はどこ行く?」
「私……服みたい……」
そのまま6人は洋服店に移動する。
「暑くなってきたから……衣替えも兼ねて……新しいのを見たい……」
千景は興味に惹かれるまま店内を見て回る。
「服かぁ……。うん、やっぱこの時期に長袖は少ないね」
翠は長袖しか着れないので夏に服を買う事は少ない。なので帽子等、小物類を見て回る。
琴音は「小腹が空いたぁ」と言って紅伊那を連れてファストフード店に向かっていった。
「まだ二日しかたってないが、どうだ?ウチの部活は?」
残った奈緒が凛に話しかける。
「はい、楽しいです。誘ってくれてありがとうございます」
凛の言葉は弾んでおり、本音である事が伺える。
「そうか、ならよかった」
奈緒は何だかんだ、自分が誘った為、多少なりとも責任を感じていたので安堵の溜息を漏らす。
「二人で何の話してるのー?」
特に気に入った物が無かった翠が戻ってくる。
「部活はどうだって話だな」
適当に返す奈緒。
「あー、それ大事だねぇ。私達の部活、変人の集まりって言われてるから……」
「まて。それあたし初耳なんだが」
「そりゃ部長の耳に入るような場所で言ってないでしょ」
「うわぁ、何か嫌だなぁ。どうしてそんな風に言われるようになったのか……」
「まぁ事実、変わった子が集まってるからねぇ」
「その変わった子の筆頭はどう考えてもお前だろ」
「えっ?」
翠は何を言っているんだと言わんばかりの表情で奈緒を見る。
「え、何その何を言っているんだみたいな表情は」
「何を言っているの?」
「言わなくていいから」
そんな事を話していると、店内を見終わった千景が戻ってくる。
「中々……ピンと来なかった……」
「よくある事だよねー」
そのまま琴音と紅伊那の元に向かう。
「おかえりぃ~」
店の中でハンバーガーを食べている琴音。
「あれだけ食べてたのに、まだ食べられるんですか……」
琴音の食事を始めて見る凛は素直な感想を漏らす。
「琴音はマジで沢山食うぞ」
「中学の時、テレビとかでフードファイターが食べるようなメガ盛りを一人で完食してたよね~」
「食べるのって楽しいよぉ~」
そんな事を話している内にハンバーガーを食べ終わる。
「さて、そろそろ良い時間だし、帰るか」
「そうだねー。私も夕飯の支度しなきゃだし」
「翠さんが夕飯作ってるんですか?」
「うん、私料理好きだしー」
そんな他愛のない話をしながら駅に移動し、到着する。
「それじゃ、また明日ー」
「また明日ねー」
翠達は足取り軽く、それぞれに帰路に就く。