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百合な純白少女の日常  作者: リミュ
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1話:情報統合研究部

 もうすぐ夏に入ろうとする梅雨の時期。連日の雨で濡れた地面を、数日振りの太陽が照らす。

 東京のとある高校の、本校舎からちょっとだけ離れた部活棟を目指して歩く一人の少女。145センチ程の、平均より少し小さい身長の少女は、日傘をさして、季節外れの長袖に、スカートの下にはタイツを履いて、足取り軽く向かっていく。

 日傘の下に見える彼女の肌は、肩までかかる長さの髪は、共に真っ白である。彼女はアルビノという、特殊な体質である。

 アルビノとは、生まれつきメラニンが欠乏し、体が白くなる遺伝子疾患の一つである。その為、太陽光に弱いので、外を歩く時は必ず日傘をさしている。

 部室棟に入り、廊下を進み、元茶道部、現『情報統合研究部』の部室へと入っていく。


「皆おっはよー!」


 扉を開け、元気よく挨拶する彼女。元茶道部の名残で、畳の和室である部室の中にはまだ二人しかいなかった。


「相変わらず元気だなぁ翠は。もうちょっと静かに入れないのか?毎日毎日……」


 遠回しにうるさいと言われた少女、『愛星翠』は無い胸を張る。


「私の生態なので無理です!ってか、部長とクーちゃんしか居ないんだ。珍しい」


 眼鏡をかけ、ショートカットの髪型で155センチ程の身長の彼女は、この部活の部長。名前は『丹羽奈緒』

 部屋の中央に置かれている、電源の入っていない炬燵で眠っているのが『眼龍紅伊那』

 部室に来ても9割以上の確率で眠っており、「くぅ……くぅ……」と寝息を立てて居る事から、名前も相まって、いつの間にか「クーちゃん」と呼ばれるようになっていた。


「二人はコンビニに行ってるぞ。おやつを買いに」


「パシらせたのか、部長……」


「いやいや、パシらせてないから。二人が小腹すいたからって買いに行っただけだから」


 二人がそんな話をしていると、再び部室の扉が開く。


「ただいまぁー。翠ちゃん来てたんだぁ」


「ただいま……こんちゃ……」


 ゆるふわウェーブのロングの茶髪に、見た目通りのほんわかした性格の女の子。『鈴野琴音』

 ロングのストレートヘアーの黒髪に、基本無表情の女の子。『月花千景』

 5人揃って情報統合研究部である。


「おやつたいむぅ」


 琴音が早速の様にお菓子を開け始める。


「とぽー……」


 千景も琴音に続く。

 そんな二人を気にする事無く、部屋の端の机に置かれた3台のパソコンの電源を入れる翠。


「今日は何するー?」


「そうだなぁ……。っと、そうだそうだ。優愛先生から部活の活動報告書的な物作って提出してくれって言われてたんだ。期限は今週末までだとよ」


 奈緒はそう言ってプリントを炬燵の上に置く。翠は露骨に嫌な顔をする。


「うへぇ。めんどくさっ……」


 そう言いつつもプリントを確認する。


「活動報告書って言われても、ただ部室で遊んでるだけだしねぇ、私達。何書けばいいのかさっぱり」


 そう言って寝転がる。


「元々、日々進化する情報社会の現代で、様々な物事を調べ、研究し、将来に役立てる。という事を活動内容にして部活申請してたしな。何かテーマを決めて、それを調べて纏めればいいんじゃないか?」


 5人は中学時代からの親友で、この学校に入学した数日後にこの部活を設立した。


「うーん、まぁぱっと思い付かないし、それは明日でいいや」


 現実から逃げる翠。そのまま炬燵で寝ている紅伊那の顔を覗き込む。


「寝ているクーちゃん可愛いなぁ。ほっぺつんつん」


「お前、ホント残念だよなぁ」


 紅伊那の頬を指でつっついて笑みを零す翠を眺めていた奈緒が本音を漏らす。


「残念ってなによ」


「いやだって、お前。髪も肌も真っ白で、顔も悪く無いってか、かなり美少女なのにオタクで百合好きって、誰が見ても残念って言うぞ」


「やだ、そんな褒めないでよ、照れる」


「いや褒めてねぇよ」


 手をブンブンと振り、否定する奈緒。そんな事をしている内にパソコンの起動が完了する。


「パソコン起動したし、テーマになりそうなの適当に検索して探すか」


 パソコンをいじり始める奈緒。翠は鞄から眼鏡を取り出し、奈緒に続く。翠は眼鏡がないとよく見えないが、翠自身が「私に眼鏡は似合わない」と言って、授業や部室でパソコンを使う時等、必要な時以外は外している。


「うーん、テーマねぇ……。もうゲームでいいかな」


 考える気ゼロな翠。


「良いんじゃないか?特に日本と海外だと大分違ったりするしな。その辺を纏めれば十分だと思うぞ?」


 部長は真面目に考え、アイデアを提供する。


「最初だしぃ、改めて自己紹介みたいなの皆で書くのはどぅ~?」


 お菓子を食べていた琴音がアイデアを出し、それでいいやと話が纏まる。


「自己紹介で検索するとさ、やっぱりっていうか、例文とかやり方とかばっかヒットするね」


「まぁ就活とかで定番だしなぁ。いざどう書こうかって考え始めると結構分からないだろ?」


 当然、その日だけでは書ききれず、完全下校の時間間際のチャイムが鳴る。


「ん、もうこんな時間か。まぁ週末までまだ時間あるし、また明日続きやればいいか」


「あぁ、夏は日没が遅いから嫌だなぁ……。帰るのめんどくさい……」


 机に突っ伏す翠。そんな翠の頭を、いつの間にか起きていた紅伊那が撫でる。


「あ、クーちゃんおはよ」


 欠伸をしながら空いた片手で撫で続ける。


「おはよう……。気付いたら下校時間だった……」


「いつものことぉ」


 笑顔で眺める琴音。


「クーちゃん……帰るのがめんどくさいよー」


 紅伊那に抱き付く翠。


「翠は毎年夏になると元気が2割ぐらい減るよね」


「逆に言えば冬になると2割増しになるんだよな」


 紅伊那から離れて帰り支度を始めながら頬を膨らませる翠。


「だって、夏に長袖とタイツは暑いし、日差しも強いし、日中が長いし……。私に優しくない季節だもん……。その点冬はいいよね。日の出が遅いし、日没が早いし、日差しも弱いし、タイツとか長袖とかしてても違和感ないし」


「冬に日傘は違和感凄いけどな」


「うん、まぁ。弱いって言っても日傘はあった方が良いから……」


 そのまま支度を終え、5人は学校を後にする。


「今日はどうする?どこか寄る?」


 日傘の下から顔を覗かせた翠が4人に聞く。


「私は……この後塾……」


「私はぁ、家族で出かけるのぉ」


「ボクも今日は早く帰らなきゃだなぁ」


「あたしは空いてるが……」


「部長と二人っきりはなぁ……」


「お前、はっ倒すぞ」


 悪びれもせずニヒヒと笑う翠。


「まー、たまには真っ直ぐ帰りますかー」


「お、そうだ。話変わるけどさ、今日ウチのクラスに転校生が来たんだよ」


 歩きながら会話を続ける5人。


「転校生?高校でこの時期に転校生って珍しいね」


「あぁ、それでな。この子を部活に誘おうかと思うんだが、一応皆の意見を聞いておこうと思ってな」


「私はいいと思うよぉ」


「同意……」


「ボクもいいと思う」


「その人って女の子?」


「あぁ、女の子だ。ロシアとのハーフだったかな」


「なら大歓迎!」


 非常に分かりやすい反応を見せる翠。

 呆れる4人。


 その翌日。

 奈緒のクラス。

 奈緒と同じクラスの琴音が席にすわって談笑している。

 やがて、クラスの扉が開き、銀髪のロングストレートの少女が入ってくる。

 彼女が昨日転校してきた神崎凛。まだクラスに馴染めず、親しい人もいない。

 二人は早速話しかけようとするが、先生が入ってきてHRが始まった為、大人しく席に着く。

 昼時には気付いたら教室からいなくなっており、結局放課後になってしまったが、二人は凛に近づく。


「凛さんぅ、私達の部活に入らないぃ?」


 奈緒が話しかける前に琴音が話しかける。良くも悪くもマイペースである。


「えぇっと、唐突にすまん。私達5人で情報統合研究部って部活やってるんだが、一緒にどうだ?」


 困惑する凛に出鼻を挫かれた奈緒が話しかける。


「えぇっと……私なんかでいいですか……?こんな髪色だから……中学でも前の学校でも馴染めなくて……」


「いや、ぶっちゃけもっと特殊な見た目の奴いるから」


 自虐気味な凛になっているのか分からないフォローをする奈緒。

 そのまま、取り敢えず一回来て見る事になる。


「翠ちゃんぅ、もう来てるってぇ。クーちゃんからメッセきたよぉ」


「丁度いいな。いつも来るの遅いくせにこういう時だけ早いよなあいつ」


 翠は小さい頃から外出が出来ない影響でインドアな趣味が多く、その為、いつも帰りのHRが終わると図書室へ寄ってから部室へと向かう。

 そうして部室に到着し、扉を開けると、残りの3人が揃っていた。真っ先に反応したのは、やはり翠だった。


「おはよー!おぉ、そっちの子が言ってた子?」


 凛は翠の姿を見て驚く。


「あぁ、そうだ」


 奈緒が頷き、部室に入っていく。


「あ、そうだ。昨日のレポート?が完成したからちょうどいいや」


「もう出来たのか。相変わらず嫌な事は終わらせるの早いなお前」


 そう言って立ち上がり、片手を胸元に寄せ、一度お辞儀をする翠。


「私は愛星翠。愛する星に羽を卒業する字で翠っていうよ!趣味はゲームとか読書とか裁縫とか料理とか、インドア系を中心にいろいろやってるよ!で、私の一番の特徴はこの容姿かな。アルビノって言って、メラニン色素ってやつが少ないから肌も髪の毛も真っ白で、瞳もほんのり赤いんだよね。だから私の肌は日光に弱いから、夏でも長袖タイツで生活してるの」


 珍しく起きている紅伊那が翠に続き、適当な紙に自分の名前を書いて見せる。


「ボクは眼龍紅伊那。趣味はまぁ、睡眠かな。長期休暇の時はキャンプとか、アウトドアな事もするよ」


 いつの間にか取り出していたお菓子を食べながら琴音が続く。


「私わぁ、鈴野琴音っていうのぉ。食べる事がすきぃ」


 そのほんわかした性格からは予想もつかない量を食べる為、食堂の従業員や他の生徒から『ゆるふわフードファイター』というあだ名をつけられているが、本人は知らない。


「私は……月花千景。趣味は……旅行とか……鉄道とか……」


 その趣味故、長期休暇は紅伊那同様、殆ど家に居なかったりする。


「で、あたしが部長の丹羽奈緒だ。趣味は写真や動画を撮ったりする事かな。私達5人が情報統合研究部だ」


 凛がお辞儀をして自己紹介を始める。


「私は神崎凛って言います……。ロシアとのハーフで、趣味とかは……特に……」


 未だ緊張が解けてない凛。


「な、凛よりよっぽど特殊な容姿だろ、こいつ」


 そう言って翠の頭に手を乗せる奈緒。

 翠は褒められてると思い、無い胸を張る。


「あ、そうだ、部長。取り敢えず今週分、報告書っぽく纏めて書いといたよ」


 翠は全員分の自己紹介文が書かれたプリントを渡す。


「ホント、嫌な事は終わらせるの早いよなぁお前」


「昨日のメッセージ……そういう事だったの……」


 奈緒がプリントを受け取ると、翠は素早く移動して凛に抱き付く。


「だーいぶ!」


「ふぇっ!?」


 全く予想していなかった凛はそのまま倒れこむ。


「はぁー……女の子の匂い……」


 そのままお腹のあたりに顔を埋めてすりすりするが、すぐに奈緒に引き剥がされる。


「お前、初対面の相手にはやめろって言っただろう……」


「百合分を確保しないと死んじゃうんです」


「ぁー、驚かせてすまんな。こいつはよくこういう事するんだ」


 翠は満足そうな笑みを浮かべる。凛は驚いて、座り込んだ姿勢のまま困惑していた。


「だいじょうぶぅ?」


「あ、はい。ちょっとびっくりしました……」


 美琴の手を借りて立ち直る凛。


「ぁーっと、こんな部活だが、どうだ?」


「えっと、あの……ご迷惑でなければ、よろしくお願いします」


「女の子はむしろ大歓迎だよ!」


「ようこそ、情報統合研究部へ」


 こうして部員が6人となる。また明日から騒がしい日々が始まる。

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