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ぐわあぁ、な、流されるー。
これ岩のトンネルだよね?
実はもう大きな生物に食べられたとかじゃないよね?
やっぱり身体が自由に動かせないってすごい不安だ。
出口?
やった、明るいよ。
と、思ったら勢いよくトンネルの出口から海水と一緒に押し流された。
ぐふっ、壁ドンならぬ壁にドンしたぜ。
まだエビの身体が自分の身体って実感ないんだけどやっぱりぶつかると痛みがあるよ。
痛みを堪えて辺りを窺う。
それでここはどこ?
なんか明るいけどさっきは暗かったから今って夜じゃないの?
海の中でよく分からなかったのか、それともエビの眼の見え方のせい?
でも身体は思うように動かせないけど視界はそんなに違和感ないんだよね。
いや、違和感ない方が変なのかな?
んー、ありがたいけど、考えても分からないな。
やっぱり夢なのかな?
それだとこのおかしな状況も納得だけど……うん、今感じてる感覚がリアル過ぎて夢だとは思えない。
今いるのは多分洞窟。
海岸から繋がっていて、潮溜まりになってるのかな?
そこにいるみたい。
さっき流されてきた穴から何度も海水が飛び出してきているからこらから満潮になるっぽい。
そしてなぜかも明るい。
これはどうやら洞窟の壁が光ってるみたいなんだけどどうなっているのかな?
いまのところ私の脅威になるような生物は見当たらない。
私が流されて来た穴はそんなに広くないので、大きな生物は通れないだろう。
でもさっきのタコとかだと狭くても通れたりするのかな?
もしやって来たら逃げ場がない。
それにこの穴が仮に通れなかったとしても他にもっと大きな穴がないとも限らない。
でも、ひとまずは安心出来そうなので落ち着いてきた。
えっと、エビとして目が覚める前の記憶を思いだそう。
船に乗っていたはずだ。
高校の修学旅行で決して豪華ではないがなかなか立派な船で移動して、船の中で一泊することになっていた。
出港したばかりや夕焼け時は海を眺めて楽しんでいたけど、さすがに飽きてきて部屋でお喋りをしていた。
同じ班のみんなで、スペースのほとんどが2つの二段ベッドがしめる四人部屋でいろいろ話していたら、先生が回ってきたのでおとなしく就寝したはずだ。
その次の記憶ではエビの赤ちゃんになっていた。
うん、意味不明。
そういえばエビ、エビ言ってるけど私って本当にエビなのかな?
鏡とかないから見回しても身体の一部しか見えない。
生まれたてだからなのか、ちょっと透明で確かに甲殻類ぽい身体が見える。
さっきいた私の他の赤ちゃんエビもエビのように見えた。
でも私、そんなにエビに詳しくないしほんとにエビなの?、って言われたら自信はない。
ここが異世界なら独自の生物でただエビに似ているだけかも知れないし。
さすがにこの状況でここが地球で私はただのエビってことはないよね?
それだとこんなに意識がハッキリしていて人間としての感覚があるなんてエビの脳じゃあり得ないだろうし。
でも、ハッキリ確かめるにはどうすればいいんだろう?
あー、1つ思いついた方法があるけど、これは実際にやると恥ずかしいかも。
でも周りに誰もいないしやってみようかな。
“ステータス”
しーん
小説なんかの定番シーンみたいに何か目の前に現れたりしない。
くっ、別に恥ずかしくないもん。
喋れないから強く意識してみただけだけど、もし何か出たらここは異世界で確定出来るかと思ったけどそう上手くはいかないか。
“ステータスオープン”
“メニュー”
“メニューオープン”
しーん
ふぅ、忘れよう。
何もなかった。
あっ、あそこに水草が生えてる。
食べられるのかな?
あれ?、そもそもエビって何食べるんだろ?
でもこのまま何も食べない分けにはいかないしなぁ。
水草のところまで行って、そっと手(?)で掴んでみる。
ちなみに手の先はハサミみたいになっている。
水草の先っぽは柔らかくてこれなら食べられるかな?
あれ?
エビの口ってどこだ?
えっと、この頭の先の方にあるのが口かな?
けっこう先端にあって眼の位置との感覚が人間と大違いで変な感じだ。
ぱくっ
おっ、ちゃんと味覚がある。
うん、なんかレタスみたい食感だな。
そんなに美味しいとは思わないけどマズくもない。
これなら食べられそう。
それに味覚があるならこれから美味しい物を食べることも出来るかな?
やっぱり食事って大事だよね。
考えただけでなんだか元気になってきた。
でもどうすれば美味しい物に出会えるかな?
とりあえずはもっと大きくならないとだけど、エビの成長って何年くらいかかるんだろ?
むしゃむしゃと水草を食べていたらだんだん眠たくなってきた。
あー、どこで寝ればいいんだろ?
寝てる間に私がエサになるとかごめんなんだけど。
水草の中に隠れるようにして寝ればいいのかな?
んー、もっと生物の生態とか興味持っていればどうやるのが正解か分かったかも知れないけど全然知らない。
ん?
洞窟の方で何か動いてる?
海面すれすれまで浮上してみる。
そこから見えたのは陸を歩く大きなイカだった。
ここ異世界だ。