第20話 体が覚えている
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謙譲は、今皇城にいる。サツキら6人と、騎士・亜人18人に「待たずに、しっかり寝るように」伝え、宿から皇城に転移した。転移した場所は、召喚された牢獄のような部屋だ。
固有魔法である、転移魔法には、いくつかの制限がある。「一度行った場所で、その風景がはっきりイメージ出来るところに転移可能」というものと、「目に見えている場所に転移可能」というものだ。しかし、これらの制限は他の能力でカバー出来る。固有魔法「情報魔法」や固有スキル「完全記憶」などだ。勿論、規格外アイテムのペンダントもその一つだ。今回は、カバーせずにやってみた結果、一番印象に残っていたのが、召喚された部屋だったというわけだ。
地球にいた頃はどうだったか分からないが、現在、謙譲のペンダントは、「創造のペンダント《創世級》」という名称になっており、性質の一つにインテリジェンスアイテムとなっている。
この世界の物品レアリティは、以前にも述べたが、以下の通りだ。
下級<中級<上級<希少級<王宮級<伝説級<幻想級<神話級<創世級
とは言え、神話級以上を保有する国は無いし、個人で持つなどあり得ないらしい。幻想級を保有している国も古代王朝サルサリアの血脈を保っていると公言しているサルーン帝国と世界最大の国家ペサジャストン王国だけらしい。この情報は、皇城の宝物庫側の史料室にあった書物で読んだ内容だ。
だが、覚えているだろうか。謙譲は、皇城の宝物庫から一切合切、魔法金属で出来ていると思われる棚やケース箱に至るまで奪ったことを。そう、サルーン帝国が保有していた幻想級アイテムも手元にあるのだ。まとめて奪っただけなので、詳細は確認していない事が、残念である。
閑休話題
謙譲は、スキル「隠形」を使い、場内を闊歩していた。誰にも気づかれる事なく、闊歩できるのだ。勝手知ったるなんとやらだ。この城で欲しい物は既に1つしかない。《姫奪還の依頼達成》だけだった。
それにしても兵がいないな
そう、今夜は不思議なほど、警備が薄かった。数日前までは、昼間でも兵士が巡回していたというのに、今は夜だというのに巡回兵を見ていなかった。
謙譲は知らなかったが、これには理由があった。創造のペンダントが、「どうにかする」と言った少なくなった奴隷の件が関与する。謙譲が襲撃した皇族の城の皇族たちは、創造のペンダントが奴隷の首輪をつけて、かの奴隷館に放置した。貫頭衣を着せて、見すぼらしい格好をさせて、喉を潰した状態で、謙譲が助けなかった、関係者以外の奴隷の入った部屋の中に。
変な言い方にはなるが、“本物の”冒険者を装った盗賊たちが、某依頼を伴って、かの奴隷館に来た。その時になって、詐術が部分的に解けた。誰か思い出せないが、奴隷商人は騙されたことに気づいてしまった。しかし、だからと言って、信用問題になると奴隷商人は焦りに焦り、よく確認もせず、同じ部屋にいた、奴隷を人数合わせに使ったのだ。お金は貰っていたし、損をするわけではない。それに薄暗い部屋にいた為、皇族とは気づかなかったのもある。盗賊たちに連れていかれた奴隷たちは計画通り、兵たちの餌食になった。そこからが大問題だった。一応、兵たちには監察官が付いていた。奴隷たちの検死確認で、遺体の一部が皇族であることが確認された。その為、皇家からの依頼での盗賊退治が、叛逆の疑いに変わり、現在、件の兵たちを含め、近衛兵全体が城外に隔離されていた。そのせいで、巡回兵がいなかったのだ。
その代わりと言っては変だが、メイドや執事が巡回をおこなっているようだった。チラチラと鑑定した限りでは、そこそこの武術スキルか魔法を所持しているようで、兵ほど本格的ではないにしても、主人を守れるくらい、或いは盾となるくらいには戦えるのだろう。そのうちの一人、若い執事がこちらに向かって来ていた。
「んー?真っ直ぐ向かってきている?」
繰り返すが、謙譲は、スキル「隠形」の効果で気づかれにくくなっているはずである。しかし、近づいてくる執事とは何故か、目が合う気がしていた。
《マスター。あの方気づいてますよ。》
やっぱり?
ペンダントがあの方という言い方を使ったのも気にかかる。元の世界では悪魔だった名残かもしれない。とすると、魔族という可能性もある。この城に召喚陣を通って来たあの日、広域鑑定で人種とは違う何かが城を徘徊していた事を謙譲は覚えている。それは、植物やペットっぽい何かだったが、それだけではなかったようだ。
まだ、異世界に来て数日。こんな序盤で、魔族に会うのは、ハードモードだろう。普通なら。
謙譲と執事は何事もなかったかのようにすれ違った。すれ違ったあと、後方から凄まじい殺気を伴って、レイピアが迫って来た。謙譲は、歩いていた足をそのままに回れ右をすると、そのまま執事右手のレイピアをかわした。それから、執事の左手を狙う。狙うは小指、そして親指だ。「ペキッ、ペキッ」と小骨が折れる音がして、執事が持っていた片方のレイピアの握りが甘くなったところを、まるで受け止めるかのように奪うと、執事の後ろを取った。
体が覚えている
謙譲は、素直にそう思った。謙譲は、特殊なペンダントを15で手に入れたが、それだけが謙譲の特異点ではなかった。
謙譲の父方の実家は宮司だったが、母方の実家は古武術の道場だった。関東のとある山の中にある古武術道場が、母の実家だった。父が数年に一度転勤するタイプの転勤族だった関係で、母とともに古武術道場で過ごすことが多かった。
その古武術は、修験道を基とする流派で、小角流と言った。成立は鎌倉時代とも江戸時代とも言われている。修験道を基とした忍術や刀術などを含む体術流派である。「無手にて向いて、武器を奪って敵を討つ。」小角流の基本である。
謙譲は幼い頃から祖父の指導を受け、古武術道場に伝わる秘技も奥義もすでに修めていた。祖父が亡くなったのは14の時、道場は母の兄が継いだが、その時、謙譲が未成年でなかったら、中学生でなかったら、道場を継ぐのは謙譲だったかもしれない。それだけの力量だった。伯父よりは習得した技術も力量も上だった。14歳でありながら、小角流師範代だったのだ。
せめて伯父が嫌な人なら
簡単だったのだろうな
伯父夫婦には子がなく、甥である謙譲を本当の子どものように可愛がってくれ、力量が上である事を妬みもせず、その上、「ゆーくんが、やる気になったら、いつでもうちを継いでいいからね。」と伯父夫婦に子が出来るまで言われていた。
16の時、父の海外転勤に伴ってついて行った母と一緒に事故で亡くなった時も、17の時に荒んだ生活をしていた時も、それからあともずっと庇護してくれていた。なぜか覚えているのだが、大学生の頃、やっと伯父夫婦に子が出来たあと、やや疎遠になった。しかし、社会人になってからは、隔年で年末年始は伯父の下で過ごしていた。
元の世界に未練はほぼない。あるとすれば、残して来た、父方の祖父母と伯父一家くらいだ。小角流の技術を体が覚えている事に気づくとアンニュイな気分になってしまうのだ。
そこが、隙になったのだろう、気づくと執事のレイピアが迫っていた。
ストックがなくなりました。
3月から地元図書館で、司書として働いていることもあり、やや多忙です。もしかしたら、不定期更新になるかもしれません。




