3話 ---腸詰酒会---
「して、大将。息子達の様子はどうでしたか?」
ランプの明かりのみの部屋で、『ポーク』ソーセージを肴に儂は主と酒を酌み交わしていた。
「いい加減『大将』はやめんか。引退してかなりになる。それに今はヌシに雇われている身じゃて」
儂ははそう言ってワインを口に含む。
「いえどんなに時が経とうとも『大将』は『大将』です。大将の教えを受けたものは今だに大将を敬愛しています。」
主はこればかりは譲れないと言い張る。
強情な男だ。がこの男の強情さが軍を円滑に動かすきっかけとなったのだ。ここは儂が折れておくか。
「まあ良いわ。して、ヌシの息子。長男の方だが、アレは面白いの。儂の孫として連れ廻すよう提案してきよったわ。」
息子には娘が二人。
彼女らが生まれたころには他国からの侵攻があり、あまり孫娘にかかわる機会がなかった。
やっと他国との関係が安定してきた頃には孫娘は『淑女』になっており、もう爺と遊ぶ年でも無くなっておった。
『生涯現役上等』とあまり気にはしておらなんだが、『お爺様』と呼ばれるのはわるくないのぉ。
息子に、もう一人産むようにけしかけてみるかのぉ。
おっと、今はヒロ坊の話じゃったな。
「儂に剣術と身体強化術を教えてくれと言ってきおっての、魔力が扱えんと無理じゃと伝えると、アレはいきなり『ライト』を発動しおった。恐らく『無詠唱』じゃ。」
あれにはたまげたの。
洗礼前の幼子が魔法を使えるなど…
『無詠唱』は驚きはしたが別段ありえない事ではない。
教会は否定しておるが、戦場では当たり前の事じゃて。
ただ、教会が怖いために口外しないだけじゃ。『無詠唱』なだけにの。
話がそれたわい。
「明日にでも、ヌシに許可を貰いに来ると思うから、許可してやってくれぬか?」
3歳からの剣術教育。普通の洗礼後からの剣術に対して、どれだけ強くなれるかたのしみじゃわい。
「大将。それは許可できません。息子を千尋の谷に突き落とすような真似など…」
「…ヌシは儂をどのように思っとる?敬愛しとるんじゃなかったか?」
失敬な。儂はそれほど鬼ではないぞ。
団員どもの訓練には、
倍以上の荷物を持たせ
無理だと言う者には尻をたたき、
ぶっ倒れてもたたき起こし、
…
…
鬼か?
「それとこれとは話が別です。断固拒否します。」
「いや…いきなり幼子にあのような訓練を施すわけでなし。最初は素振り程度から…」
それからは、あーだ、こうだ、と、説得に大わらわじゃ。
確かに鍛えるのは楽しみじゃが、今までは薹が立ったものばかりじゃて。
そんなものから慕われるのも悪くはないが、幼子から慕われるのも…のう…
爺馬鹿魂に火が付いたって所じゃ。
「…はぁ~。解りました。許可しましょう。でも決して無茶させないで下さい。」
「解っておる。儂もアヤツに嫌われとうない。」
この男の親馬鹿ぶりにも困ったものじゃ。
儂も人の事は言えぬか。
今日だけでアヤツに、すっかり情が移ってしもうたわい。
「そうそう。今日息子が『酒の宛てに』と、こんなものを寄越しましてな。海老味噌のペーストだそうですが…」
少し舐めてみると…味がきついのぅ。これじゃと酒じゃ太刀打ちできんわい。
おお、そうじゃ。
「実はな、さっきのソーセージ以外に掘り出し物があっての。味があっさりしすぎて、良い宛てがのぅて困っておったんじゃが。ちょっと待っておれ」
侍女に儂の部屋から瓶を持ってこさせる。
「コ麦で作った酒と言うことで誰も手を出さんかった代物じゃ。」
主と自分のグラスに注ぎ、
「が、酒としては十分な旨さがある。どれ、海老味噌を舐めてから」
グビっと
「旨い! ヌシもやってみ。」
ぺろっ、グビっと
「旨いですな。」
それからは、報告会という、親馬鹿、爺馬鹿談義だったわい。




