2話 ---海老刺身---
色々と買ってきたものを検証したいが、先ずエビから始めよう。
こればかりは鮮度が命。
ベティが包丁を持って
「では早速、さばきますね。」
って!
「ベティ、ストップ!」
危ない、危ない。
「これは食べるために買って来たんじゃありません。形が面白いのでよく観察するために買ってきたのです。さあ、ひっくり返してお腹側をよく見してください。」
侍女達は明らかにがっくりしている。
僕の専属になってから彼女達は(文字通り)結構おいしい思いをしている。
試食とか、オヤツとか、試食とか、オヤツとか…
しょげている顔が子犬みたいでかわいいな。
表情が変わらないのはラーヤのみ
「ラーヤ。このエビの事知ってる?」
「はい。ヒロ様はご存じないかとは思いますが、何度か食卓に上がっております。」
そーか、あの肉厚のエビはコイツだったのか。
確かに大きさからすると身はちょびっとに見えるがだがそれでも胴周りはイセエビくらいはある。
外見はモロ、『アノマロカリス』だ。
が、
…
口の形が違う。
…
円形シャッターではなく、櫛状のあご。
歩脚も湾曲したヘラ状で合わせると筒状となる。
この形態に近似しているのは『マンタ』だな。
眼の付き方からするとやはりホウネンエビが元なんだろう。
つまりは、ホウネンエビが濾過摂食対応し巨大化。
表層を泳ぐために、遊泳脚を横に広げた結果、アノマロカリス形態に進化した。ってとこか。
となるとこっちのエビは…
腹側を見ると足の着き方がダンゴムシ、フナムシに酷似している。
こちらはグソクムシが、頭部から何節までかは融合して頭胸部と化し、扁平となり、三葉虫形態に進化したのだろうか。
いずれにしろ、こいつらはカンブリア生物ではなかったということか?
多少残念ではあるが、偽物でも、生きたこいつらが見れたことで良しとしよう。
「ベティ、さばいていいですよ。身は生のまま薄切りに。ガーリィは、ミソは鍋にまとめて火を入れてください。」
そうそう、市場ではこんなものも見つけたんで買っておいた。
「ドコデ、モドア。このホスラ(西洋わさび)を『プロセッサー』にかけて下さい。」
二人には『フールド』を応用した『プロセッサー』と言う魔法を教えている。
単に風を球状にまとめるだけでなく、鎌鼬を発生させて内部の物を粉砕する魔法だ。
『ラセンガ〇』とネーミングしても良かったんだが、あくまでも生活魔法なんでやめておいた。
他にも魚醤があった。(醤油はなかった)
さてと、エビの刺身の試食タイムだ。
「ヒロ様。エビって生で食べて大丈夫なんでしょうか?」
アリス達は、「食べてみたい」「ちょっと怖い」の困惑顔だ。
「ちゃんと漁師から、生で食べれることは確認済みです。では」
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
ちょっとホスラをのっけて魚醤をつけて食べてみる。
うん。コレコレ。まさに日本の味だ。
みんなが僕の真似をして、食べようとしている中…
あっ、イリス。ホスラそんなに乗っけては…
「▽♂■〇γ♉▲♀!!!!!」
イリスは泣きながらその場で身もだえている。
アリスが駆け寄るが、
「心配しなくて大丈夫ですよ。じき収まります。」
と言っておく。
……
……
イリスは鼻水たらしながら、涙がちょちょぎれている。
ちょっとは落ち着いたか?
「ホスラはこのツーンとした辛みは生臭さを消してくれますし、一種の毒消しの効果もありますが、量を間違えるとああなりますから注意しましょう。」
「ビロさまぁ。がんでぞのごとを、ヒック、おじえてぐれながったんでずがぁ。」
ちゃんと鼻水拭きなさい。イリス。
ラーヤが注意をしてくれる
「あなたが、注意を払わなかっただけですよ。イリス。侍女たるもの常に、主やその周りに気を配っていなければいけません。皆が主に倣って、ホスラをちょっとしか乗せなかったのに、貴女はたくさん取りましたよね。周りに注意が行ってなかった証拠です。」
明日からのイリスの侍女教育がもっと厳しくなるであろう。
合掌…
と、改めて試食タ~イム。
「辛ッ!」
「でも、うまッ!」
「おいしぃ」
「ワイン、ほしくなるぅ」
「甘みを感じます」
おおむね好評だ。




