1話 ---野菜市場---
「さてと、この後どうするかじゃが、ちょうど今日は月初めじゃ。市を見に行こうかの。」
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ニコニコ月の公転周期がちょうど29日。なので7日を週とし 4週+1日を月としている。
月の最初の日を、安息日として、後は1日2日と数えていく。
毎日、市はあるが、週の初めは週市(中規模)が立ち。その中でも1日は月市(大規模)が立つ。
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かなりの賑わいだ。
僕たちは騎士姉さんに抱っこされて市の様子を見ている。
これを機会にパフパフしようかと思ったが…
っ硬ってい~。
皮のブラか?
女騎士軽装時の標準装備らしい。
う~ん。残念。
ここは野菜区画か? 『俺』の知らない野菜ばかりだ。
とはいえ、よく見ると種類、系統が解ってくる。
柑橘系にウリ科。根菜に葉菜。
父に野菜辞典ねだってみようか。
と、見覚えのある赤い実発見。
騎士姉さんにそっちに向かってもらう。
「おばちゃん、こんにちは。この赤い実ってなあに?」
「おや?ちっこいのにしっかり喋る子だね。これはキャルフの実といって、この赤い実の部分だけを食べるとね眠気が吹っ飛ぶ不思議な木の実さ。だからね、子供がは食べるんじゃないよ。その日は眠れねくなるからね。」
それが本当だとするとその種は…
「種はどうするの?」
「捨てるだけだよ?おかしな事を聞く子だねぇ?」
なんと勿体ない。
「御爺様。この木の実を全部買ってもいいでしょうか。」
「全部とはまた大層な量じゃのう。樽一つ分だぞ。こんなにたくさんどうするんじゃ。」
「これを使って飲み物を作ろうかと思いました。うまくいけば御爺様達の『力』にもなるはずです。」
「なにか企んでおるようじゃのう。まあよいわ。」
と爺さんは片手を軽く上げて高速で指を動かすと、一瞬の魔力の高まりとともに一人の平民の男が傍にいた。
瞬間移動か?と思う位で現れたのだが、周りは気づいていない。
『ずっとここに居ましたよ』と言う雰囲気である。
おそらく騎士団の一人だろう。
「おばちゃん。この実を全部買い取りたいですが、いくらになります?」
「おやまあ、おったまげた。ただの坊ちゃんかと思いきや、御大尽様のお子様だったとは。これはこれは失礼なことしつかまりましたです。」
「別に敬語つかわなくてもいいよ。で、いくらです?」
「小銀貨10枚になりますです。」
「敬語はいいってば。おばちゃんこの木の実、また売りに来る?」
「…ではお言葉に甘えまして…。正直言ってあまり売れないんでもう持ってくるのをやめようかと思っていた所だね。坊ちゃんが全部買い取ってくれるというのなら来月も持ってくるよ。」
「今はちょっと約束できないかな?買い取れるようなら使いを寄越すよ。おばちゃんどっから来たの?」
「こっから南に馬車で3日ほど行ったナミネっていう小さな村だよ。坊ちゃんが使いを寄越すにはちょっと遠いよ。」
爺さんを見ると、軽くうなずいている。
「問題ないよ。僕はヒロっていうんだ。おばちゃんは?」
「『キャルフのおばちゃん』でいいよ。村の中じゃこの名前じゃないと通じないからね。」
地方では苗字の無い文化圏が存在する。そういった場合、屋号や目印になるものが苗字の代わりとなる。
「うちの生垣が全部キャルフの木なんでね。今じゃ名前で呼んでくれる者も居なくて、自分ですら名前忘れちまったよ。」
…じ、冗談だよね?…
おばちゃんは村のまとめ役で、村の作物を売り、村に必要なものを買うため月市に来ているそうだ。
「あっ。捨てている種があったらまとめといて欲しいな。そっちも買い取るつもりだから。」
「どうするつもりだい?種なんて硬くてまずくて食べれないよ。まあ、買ってくれるというなら売るけども…」
爺さんに勘定をすましてもらうと、平民男(騎士兄さん)は樽を抱えてどこかへ行ってしまった。
「おばちゃん。連絡まっててね。」
「期待しないで待ってるよ。」
なんで、この温暖な気候で育っているかは疑問だが、あの実はおそらく…




