9話 ---剣教言質---
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
美味しかった。
皆でテーブルを囲んでの食事はやはりいいものだ。
コトリ。
「さっきはありがとさん。これはサービスだよ」
と、おばちゃん。
皆に飲み物を出してくれた。
爺さん達には、ソーダ。いや、シードルか?
僕たちにはジュース。
…
にしてはよく冷えてる。
まるで氷出冷やしたような…
----------
『氷魔法は水魔法を極めたものの一部がたどり着ける水属性の極致です』と辞書の記述されているように氷魔法を使えるものは非常に数が少ない。
たいていは宮廷魔術師として召し抱えられるため、こんな市井に居るわけもない。
氷の魔道具も発明されておらず、今の季節に氷があるとすれば氷室。それにしてもこんな街中にあるものではない。
----------
「おばちゃん。この冷たさってこ…」
「しっ! なんでそこに気づくかね、このちびっこは。…内緒さね。」
爺さん達も気が付いているようだが黙っている。
なんだか訳ありのようだが…
「ん。」とうなずくだけにしておく。
「冷たくておいしい~」ぐびぐび。
ハルだけは平常運転だ。
と、ここで話題を変えよう。
「御爺様。さっきのあれは何です?魔力を纏ったとたんに接敵されてましたが。」
「ヒロは身体強化術を見るのは初めてか?」
「あれは身体強化術だったんですね。」
「そうじゃ。儂の属性が『風』と解った時点で徹底的に速度強化の術が叩き込まれたでの。おかげで今でもあの速度で動くことができる。」
「団長は未だに鍛錬を続けられているので、団員だれも追いついておりません。」と騎士姉さん。
『生涯現役上等』は伊達じゃないって事か。
確かにあのとき纏っていた魔力は『緑』だったがあの魔力は…
体の空気抵抗を減らす作用をしていた。
いや、しかし空気抵抗ゼロでもあの速度は出ない。
やはり、筋力、反射速度も強化されているとみるべきか?
「御爺様は、他の強化術もお使えになるのですか?」
「強化術は一通り使えるし教える事はできるぞ。そうでなければこ奴らを鍛える事は出来ぬからな」
爺さんが一にらみすると、騎士姉さんたちはびくついていた。
騎士団の鍛錬は相当厳しそうだ。
「御爺様。僕にもその強化術と剣術おしえてもらえないでしょうか?」
「ヒロ兄ずるい。僕も教わりたいぞ。」
「う~む…。剣術はともかく、強化術は洗礼後じゃないと無理じゃろう。魔力が扱えぬのじゃから。」
そうだった、魔力関係は洗礼後がこの世界の常識だ。
そうだ。
僕は爺さんのコップにそっと手を当て、極小の『ライト』を発動させる。
木のコップなので、爺さんにしかその光は見えないであろう。
「ぬっ!これは!?」
「僕もハルも[魔力は]多少なりとも扱えます。それでも無理でしょうか?」
爺さんは思案した後
「まずは父上に許可を貰う事じゃな。話はそれからじゃな。」
「解りました。」
これで強化術の先生、ゲットしたも同然だ。
「ハル。母上にも許可取っておこう。」
「え~なんで?」
「ハルはなんで、剣術と強化術習いたいの?」
「だってさっきのかっこよくみえたから。ボクも『かっこいい』したい。」
そんなことだろうと思った。
「ハル。剣術を習うということは、剣を交えるということだぞ。そうすると必然的に怪我もする。そんなことをあの母上が許すと思うか?」
「ん~、ムリ」
「黙って習っても見つかって連れ戻されるのがオチだ。」
「え~。じゃあどうするの?」
「だから前もって許可を貰うのさ。理由は『かっこいいから』では駄目だぞ。『母上を守れるように強くなりたい』と言うんだ。これでたぶん許しが出るはず。」
「ん?解った。」




