3話 ---鏡演観劇---
幕が上がる。支配人の口上。
「では『侍従の鏡』始まりでございます。」
舞台は、僕が作らせたそのものを使っている。
役者には…魔力の繋がりはない。
全くの他人ではあるが、メイク等でよく似せている。通常、客席からは気が付かないレベルだ。
他人同士だが、動作のシンクロがすごい。
流石はプロだ。
客席からは、驚きと戸惑いの混じったビミョーな声が洩れてくる。
さて、ここから例のシーンだ。
役者の動きが『ぶれる』
客席が驚きと共に沈黙する。
[なんなのあれ?][鏡じゃないの]という声が漏れ聞こえてくる。
何度か『ぶれた』後、終幕。
客席は戸惑いの最中である。
「今回 演じてくれた俳優をご紹介いたします。」
幕が上がってゆく。
終演後には役者が挨拶するのが習わしらしい。
が、その際に幕が上がる事はないので、観客は戸惑っている。
「侍従:トーマス=ライアン」
侍従部屋(舞台)の扉があき、侍従が入ってくる。
そして舞台の端まで来てお辞儀をする。
もう一人の役者は、ちゃんとシンクロし、舞台奥で反対側へお辞儀をしている。
客席からの拍手に再びお辞儀をする。
「そして、侍従:フレデリック=ノーマン」
舞台奥から、向きを変えてこちらへ歩いてくる。
客席は驚きと共に沈黙する。
鏡[枠]をくぐり、舞台端まで来るとお辞儀をした。
…
…
…
大歓声と共に拍手で劇場は埋め尽くされた。




