1話 ---新劇公演---
「フィロルウェイン様。すごく面白かったですわ。」
「殿下ってあのかっこいいセリフ実際に言いましたの?」
「これって事実ですの?」
例の劇が終わった後は皆からの質問攻めだ。
劇の公演日が決まったので、一般席の予約を打診したのだが、個室を用意されていたのだった。
個室といっても、3室連結の大部屋だ。
元々、個室は貴族向けがいくつかあったのだが、
「大部屋をパーテーションで区切ってみてはどうでしょう」
と提案した結果、個室3室を大部屋一部屋に改造し、必要に応じて区切って使うことで、10人規模のグループからカップル、個人仕様まで要望人数での変化に対応できるようになったのだ。
ちなみに、最小単位部屋なら中商家位が手を出せる価格になったので利用者が増えたのは言うまでもない。
「冒頭でも言ってたように、この物語はフィクションです。確かにあの事件をモデルにはしましたが。」
「そうよね、確かその悪徳貴族は捕縛され陛下が沙汰を下されたって聞いていたけれども、劇では壮絶な最期だったわよね。」
「あれって東洋の『ハラキリ』っていうの?『バルド皇帝に栄光あれ!』って叫びながら自害するなんて。」
どこかの怪人が叫ぶようなことを言わせてみたのが好評だったようだ。
「でも殿下もすごいわよね。『敵なれどその最後、天晴である。』なんて褒めたたえるなんて。ねえルゼちゃん。本物の殿下もあんなかっこいいセリフ言うの?」
「…どうでしょう…そ、そういった場面には出会わしてはいないので…」
ルゼ姉の歯切れの悪さ。それは…
「お姉さま方、次の劇が始まりますよ。次の題は『笑う行商人』ですよ。」
「これこれ、話には聞いていたけど一度見て見たかったのよ。」
「そうそう、楽しみ~」
「皆さん、お静かに。始まりますわよ。」
(我はあのようにセリフを言っておったのか。他人事として聞いて居れば確かに『かっこいい』が自分がやったとすると…ちと恥ずかしいぞ。)
扉際で(偽)護衛騎士が内心、悶絶していた。
この騎士の正体を知っているのは、僕とルゼ姉である。




