2話 ---貴族裁判---
ここは謁見の間。
私たちは壁際の席に座っている。
中央にはアクダイ候が縛られ直に座らされている。
「さてと、何か申し開きはあるかな?アクダイよ。」
「陛下。商家への援助、便宜取り計らいは他の家でもやっている事。その事でなぜに私が裁かれねばならぬのです。」
確かに私も、領地の発展のため商家や宿屋への援助はしているが…
「その事だけを問うているわけではないのだがのう……確かに他の家も行っている事であろう、しかしじゃ。その行為はあくまでも法で許される範囲でじゃ。侯爵の名を出せば検閲の手が緩むのをいいことに…いや、衛兵に賄賂を渡す場合もあったと聞いておるの。そうやって禁制品の輸入や通行税のちょろまかしなど、していい事と思うかのう?」
「くっ!」
私は、支援に対する収支報告は外に出しても恥ずかしくないよう徹底させている。
それに衛兵には賄賂などは受け取らないよう厳しく言っている。
(領民からの差し入れは黙認している。それはあくまで日ごろの勤務に対する礼であり、手心を加えるための物ではないと知っているからだ。)
下級貴族の衛兵という立場上、上位の家紋が入った品の検閲は差し控えられるが、どの家のどのような品が通過したかは記録に残している。
「それにじゃ。新年早々放火を企て取ったそうじゃのう。『放火』は大罪じゃ。未遂であっても罪は免れぬぞ。」
『犯罪に手をそめてはならぬ』これは当たり前の事だ。
「そっそれは…ガルド皇帝からの入れ知恵にございます。」
「ふむ、ガルド皇帝とな。それが事実ならかの国に抗議せねばならぬところであるが、証拠はあるのかな?」
「いえ…それは…」
「証拠がないのであれば抗議は出来ぬのう。聞くところによるとガルド皇帝の密使と名乗る男より『王都を混乱させれば』とそそのかされたそうじゃの。その、素性も分からぬ男の言葉に『放火』を思いついたのは其方であろう。」
「うっ!」
「その密使の所在も分からぬでは、確証の取りようもない。一応、帝国の大使に問い合わせたところ『そのような者はいない』ということじゃ」
「そ…そんな」
上位からの頼みでも法に背く事ならば、断固拒否する気概を私は持っているぞ。
(ルーフィン公からだと断れる自信もないのだが…いや、ルーフィン公はそんな頼み事はされはすまい。)
「さらにじゃ、他国へ亡命するなど、もはや王国の爵位など要らぬと言うておるのじゃろう。よって、爵位剥奪の上鉱山送りとする。引ったてい!」
「「ははっ!」」
すかさず衛兵がアクダイ(元)候を立たせようとする。
「陛下!なにとぞご容赦を!」
抵抗はするが縛られていてはなすすべがない。
「火あぶりにされなかっただけでもマシと思うことじゃ。」
「陛下~!陛下~~~」
アクダイ(元)候が強制退場させられたのち、入場してきたのは候の家人一同だ。
その先頭にいるのは嫡男のヨルーク殿だ。
「アクダイ元侯爵の子ヨルーク=アクダイよ。本来なら一族郎党、極刑に処するところなれど、家人は知らぬことであったのであろう。」
「へいか。知らぬこととはいえ、父上がつみを犯したのです。いかなるしょばつをも受けいる覚悟でございます。」
「うむ、アクダイは悪事に手は染めていようとも次代の教育は間違えておらなかった用じゃのう。其方の心意気に免じて家人への罪は問わぬものとする。ただ其方へは最後に特別に沙汰を出すものとする。」
「はい。」
まだ8歳だったと記憶しているが、幼いながらも貴族としての誇りを持っているのが判る。
家人たちは退場したが、ヨルーク殿だけはこの場に残られた。




