11話 ---弁師伝達---
「さぁさ御立合い。今回伝えるは、新年早々の第三王子ルーシフェル殿下の悪党貴族の捕り物劇ときたもんだ。」
市の始まり前に、弁師の声が事の詳細を伝えてくれる。
「事の発端はアクダイ侯爵の庇護の元、『エチゴヤ』『ジョウシュウヤ』『ビゼンヤ』が密輸に手を染めていたというものだ。その見返りとして…」
紙は羊皮紙か藁半紙程度しかない状態、なおかつ印刷技術もなければ新聞等は作れない。
そのため、いち早く物事を伝えるため『弁師』という職業が存在する。
貴族が各商売への庇護・援助を行っている王都では、その商売への評価が貴族の評価につながり、貴族の評価が庇護している商売への評価につながる。
何か事件が起きても事のあらましが判らなければ、そこに憶測が加わり、噂となり、その結果は想像できないものとなり、場合によっては王族評価、貴族評価を下げるものに発展する可能性が出てくるのだ。
そこで国は『弁師』を使って事件や御触れの詳細を伝える様にしたのだ。
伝えるべき内容を、要点はずらさず、人が興味を持って聞くように面白可笑しく話す。それが『弁師』という職業というわけだ。
「…と馬車塚まで逃げた貴族・大店の前にルーシフェル殿下が立ちふさがり、その罪を問いかけたんだよ。『罪を償う気はないか』と。
なんて慈悲深い王子様だろうね。」
要点をずらさなければ、多少の脚色は認められている。
むしろ『ヨイショ』する方向なら大歓迎だ。
「そんな事にも聴き耳持たず、その貴族は反撃してきたんだよ。
なんて愚かな貴族だろうね。殿下のお声を無視するなんてね。
それに対しルーシフェル殿下が号令を出したんだよ。『皆の者!悪者どもをひっ捕らえろ!』てね。
そこのあらわれたのは『ルーフィン』『イーフィン』『ラルフィン』『センフィン』4大公爵家の騎士団よ。
すごいねぇ。4大公爵家騎士団に号令出すなんて並みの胆力じゃできねぇよな。
公爵家騎士団の騎士といや精鋭中の精鋭よ。
結果、なすすべもなく悪党は全員捕まっちまった。というわけよ。」
『結果が伝われば』というわけだ。
「最後に一つ、。
悪いのはその貴族当主と大店店主であって、そこで働いてた者たち、取引していた者たちに罪はねーんだ。いや、職・取引先がなくなってむしろ被害者だ!そこの所は忘れないでいてくれ。」
風評被害が怖いので、ちゃんと最後にフォローが入る。
「わかりやすくてよかったぜ、兄ちゃん。また事件があったら聞かせてくんな。」
「ルーシフェル殿下って慈悲深い方なのね。話に感動しちゃった。」
「4大公爵家騎士団に号令だって。さすがは王子って事だな。」
最後におひねりが飛び交う。
いつもこの仕事があるわけでもないので普段は別の仕事についているが、国からの依頼なので結構実入りがいい。
さらに大道芸のごとくおひねりもあるので、おいしい職業なのだ。




