5話 ---悪代侯爵---
「アクダイ様。お名前をお貸ししていただきましてありがとうございます。おかげで商いが順調に進んでおります。これは山吹色の菓子にございます。」
「エチゴヤ。おぬしも悪よのう。」
「そんな滅相もない。わたくしはただ商いをしているだけにございます。そこに便宜を図っていただいたアクダイ様にお礼をするのは当然のことと思いますが。」
禁制品の密輸により財を成し、賄賂も用いて家格向上を図っておった。
さすがに公爵になろうとは思わぬが、せめて侯爵のトップになろうと画策していたのだが、
「アクダイ候。このお話、聞かなかったことにいたしますのでお引き取り下さい。」
どの公爵も庇護下には加えてくれなんだ。
何が不満なのだ。
持ってきた品は、舶来もののめったに手に入らぬ一品ものだぞ。
派閥に加えてくだされば、このような禁制品が自由に手に入るというのに。
そんな中、ガルド帝国の密使より
『近々粛清があります。』
と聞いた時には耳を疑ったが、あながち嘘ではないらしい。
『亡命しませんか? 皇帝陛下は、今ある財をすべて献上すれば子爵待遇で迎るとの事です。』
うむ、財を手放すのは惜しいが、このままここに居っても失うのなら、亡命という手もありじゃな。
庇護下商家も亡命できれば、すぐにでも財はなせるであろうしな。
『逃亡の際、王都を混乱させれば、陛下の覚えもよろしいかと存じます。』
混乱となると…出火かの?
屋敷に火を放ち身代わりの死体でも出てくれば私の追跡も免れるだろう。
もしや逃亡がばれたとて、火災への対応で追跡どころではあるまい。
新年早々逃亡を図るとは思っていまい。
よし、初日夜に計画実行だ。




