12話 ---大店訪問---
俺は新年1日から働くために夕方、エチゴヤに行ったんだ。
「ガッキ君といったかね。よく来てくれたね。まずは離れに行って待っていてくれたまえ」
店の偉い人に促され離れに行くとさ、すでに何人か来ていた。
皆、新しく雇われた人の様だ。
「あちらに湯を用意していますので順次、身ぎれいにしてお待ちください。」
大店っていうのはすげーな。この冬場の新年初日に大量の湯を用意してくれるなんてよう。
まあ当然か、大店に努めている以上、汚い体じゃいけねーわな。
とりあえず座って順番を待とう。
「坊主もこの待遇に飛びついた口かい?」
後で隣に座ったおっさんが話しかけてくる。
「おう、なんたって住み込みなら食べるもんには困らねーしな。そのうえ給金もいいなら、家の父ちゃんや母ちゃんに楽させてあげれるし妹にもうまいもん食わせてやれるしな。」
「ほう、家から出てきたのかい。」
「そういうおっさんは?」
「俺は宿無しだよ。いや運がいい。年を越す際には寒空の下だったが、今夜から屋根の下で暮らせるんだからね。」
この王都には、俺たちの住む下町よりも下にスラムってもんもある。どうやらこのおっさんはそこ出身らしい。
「おっと、次は俺の番か。おっさん先に湯をもらってきなよ。俺は後でいいから。」
「いいのかい。」
「言っちゃ悪いが、おっさん、結構臭いぜ。さっさと綺麗にしてきなよ。」
「悪いね。有り難く先にいただくよ。」
見てると、タライの湯は一人ひとり替えてるようだから、前の人の汚れが残っていることはないようだ。
おっさんにはああ言ったが俺もそこそこ体は汚れている。しっかり洗わねーとな。
「湯を先にありがとう。坊主。」
そこには『おっさん』と呼ぶのおためらう姿の『大人』がいた。
「見違えたぜおっさん。」
「『おっさん』はよしてくれ。これでもまだ若いつもりだし、これからは一緒に働く仲間だしな。『ネプト』と呼んでくれ。」
「なら『坊主』ってのも無しだぜ。俺は『ガッキ』ってんだ。」
「そうか。ガッキ君、湯を先にありがとう。君もさっぱりしてくるといい。」
「ああ、おっ…ネプトさん。行ってくる。」
 




