6話 ---憩菓休題---
「ヒロ様。ご依頼の品が届いてます。」
モドアが待望の品が届いた事を告げてくれる。
さすが公爵家である。庭の一角にはある林が形成されていた。
なんでも東の異国にある、草でも木でもない不思議な植物を移植したらこうなったそうだ。
そう、竹林だ。
庭師に頼んで2本ほど確保。
角棒にしてもらいその性質を吟味。
僕の知っている竹である事を確認した上で弓職人を呼んで加工を依頼したものが出来上がったのだ。
『ホイッパー』が。
「弓じゃないの?」という声もあるだろうが、まだ3歳児が弓なんぞ持ってどうするのよ?
(「3歳児がホイッパーなんぞ持ってどうするのよ」という声はゴミ箱にポイなのだ)
本来なら鋼線加工したいところだが、まだ鉄鋼技術水準を把握していない状態で無茶ぶりするわけにもいかないでしょ。
弓加工なら、木材の熱処理技術もあるだろうと依頼したまでの事。
弓職人さん。変な注文に面喰ったろうな。
加工方法、注意点等、事細かく書き出したメモを渡したからね。
あっ、もちろん弓の注文もしてますよ。父上用の。
竹はどんな木材よりも弾力性に富んでいるからね。さぞやいい弓ができるはず。
っと、本題に戻ろう。
教本にうんざりしていたところだ。
道具も手には入ったことだし、気分転換にお菓子作りといこう。
ホイッパーは注文通りの出来である。3本用意してもらった。
鋼線より太くなるのは仕方がないが、上手く加工してある。
「ガーリィ、薪ストーブに火を入れておいてください。ドコデはこのメモの材料確保を。」
ここにはド麦粉、とデ麦粉がある。
ド麦粉はパン用で一般的に使われている。分類的には強力粉か。
デ麦粉は粘り気が少なく、薄力粉に近い。低級に分類され、貧民向けという認識が一般的だ。
この粉をある程度確保するように頼んだら、厨房長に嫌な顔されたと聞く。
今回のお題はこのデ麦粉を使ったケーキだ。
膨らし粉の存在が確認されていないのでメレンゲ発泡のシフォンケーキ(もどき)を作る。
材料は
卵:3個 薄力粉:60g 砂糖:60g 牛乳:30g サラダ油:30g
これを元に単位変換。
デカ卵1個 デ麦粉:10ガルム 砂糖:10ガルム 乳:5ガルム 植物油:5ガルム 用意してもらう。
ガルムは重さの単位で、ガルムという胡桃に似た種の重さに由来する。約6グラムだ。
「材料が届いたようですね。これから『ケーキ』を作りますので控室に移りましょう」
ホイッパー注文した時点で、他の職人さんにも頼んで道具は確保済みである。
・底抜け鍋と鉄板
20cmくらいの平鍋の底を切り抜いてもらい、そこにちょうどはまるように鉄板を切り出してもらったケーキの焼き型だ
・線香時計
砂時計だと、ずっと見ておかないといけないが、線香時計なら糸と鈴を使えば時間で音が鳴らせる。
・白身分離器
丁度いい深皿に十字に棒が付いたもの。鉄製。ちょっと重い。
白身と黄身に分離してもらい、砂糖も半分づつ入れてもらう。
「白身はこうしてかき混ぜてください。」
と手本を見せる。
「時間と体力がいりますので、ドコデ、モドア、ベティ。交代でお願いします。ガーリィは火の番を。」
次々と指示を与えてゆく。
「アリスとイリスは残りの材料を混ぜておいてください。」
「ヒロ様。だんだん白くなってきました。」
…
「重くなってきました。」
…
「こんなんは、気合でガーっと」べティ。仕上げは優しくお願いします。
…
15分ほどしてメレンゲ完成。
「ガーリィ。燃えている薪はすべて出して炭火だけにしてください。アリスとイリスはさっきの生地を半分メレンゲに入れててください。」
ヘラを取り出し
「このようにして優しく混ぜてください。ベティみたいに乱暴にしないように」
残りも入れてアリスに混ぜてもらう。
「イリスは容器の内側に油を塗っておいてください。」
さて、ぶっつけ本番やってみますか。
目をサーモグラフモードに切り替えてオーブンを見る。
前に、マイクロ波が見えたんで意識を集中してみたら、ある程度見える周波数帯を選定することができた。
今やっているのは赤外線視認による熱感知。(原理は不明)
某狩猟宇宙人が見ていたあの映像視点である。
某戦闘宇宙人が着けていた装置のように数値化されないのが残念だ。
オーブン内温度は約180℃で安定している。頃合いか。
氷0℃、体温36℃、沸騰100℃換算による文字どおり『目測』だ。
「アリスは、生地を型に流し込んでください。イリスは線香時計の準備を。25分にしてください」
型をオーブンに入れ時計をセット。
「お疲れさまでした。ちょっと休憩しましょう。」
ファンタジー書いてるつもりなんだが、なぜか菓子制作になってしまう。何故だ?




