3話 ---長屋巡回---
「おや?デル君。帰ったのかい。」
「はい。年末年始は家族と過ごすようにと主様のお計らいで。あっこれつまらない物ですが。」
「まあ、こんな気を遣わなくていいのに。でもまあ…もらえるっていうんならもらっとくよ。おや?ヒロ君でないかい。こんなところで会うなんて奇遇だね。」
「うん。デル兄さんが家に帰るって聞いたんで、一緒について来たんだよ。」
隣に住んでるおばさんは 市でのヒロ様をよく覚えておられました。
「そうかい、デル君が奉公に出たのってヒロ君と同じ屋敷だったんだね。でそちらのイケメン兄さんは?」
「初めまして。デル君と同じところで働かせてもらっているヴィナスといいます。今日は非番なんで荷物持ちとして付いて来たんですよ。」
「そうかい。デル君はすごくいい子だからね。二人とも、デル君のこと、屋敷でいじめられない様よく見てやってね。」
「「はい」」
この後、回る所々で似たような対応が繰り返されました。
皆、僕のことを気にかけてくださってた事が非常にうれしいです。
「おじいさん。居られますか?」
最後は、ここに長く住んでおられる、おじいさんです。
「おお、デル坊。親孝行に帰ったのかい。」
「ええ、主様のお計らいで。おじいさんにはコレをイプス姐さんから預かっています。」
「おっ上等な酒じゃないかい。長屋出ちまったにもかかわらず気にかけてくれるなんぞ義理堅い嬢ちゃんだ。」
イプス姐さんはヒロ様に本雇用となってから、ここに戻ることなく長屋を引き払われたのだった。
「嬢ちゃんに伝えておいてくれるかい。『こんな爺のことは気にせず、新しい所で頑張りなさい。』と」
「はい、伝えておきます。」




