14話 ---下拵開始---
「ヒロ君、来てあげたわよ。」
「手がいるんでしょ。手伝うわ。」
呼んでもいないのに騎士姉さん達がやってきた。
どうやら試食にありつきたいらしい。
「それでしたらこの猪肉をミンチにしてください。」
専属達にやってもらうつもりだったけど、丁度いい。手伝ってもらおう。
騎士なら体力も速度も申し分ない。
2丁包丁を持つ二人を作業台に向かい合わせに立たせ、4本の包丁で、まな板の上を高速でタップしてもらう。
<タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!>
さすが騎士。包丁であろうと刃物の扱いは慣れたものだ。
こちらは任せておいて、
「では師匠。お願いします。」
師匠には前もって来てもらうように頼んでおいたのだ。
「儂は調理器具ではないんじゃがのっ!」
調理台の熊肉塊は一瞬で見事にスライスされた。
「お見事!さすがは師匠です。」
「しかしどうするんじゃ?ペラペラな肉なんぞ食べ応えがないぞ。」
「それは後のお楽しみ、という事で。 皆、今切った肉にこのキノコのスライスを挟み込んでください。」
このキノコ。名をガルム茸といい、ガルムの樹の倒木に生えるキノコだが、このキノコと肉を一緒にしておくと、肉が柔らかくなる。
おそらくマイタケ同様、たんぱく質分解酵素を含んでいるものと思われる。
「ヒロ君。こっちは終わったわよ。」
「次は何?」
「次はモルネ(玉ねぎ)を刻んでください。ドコデ、モドアはそのサポートを。」
ドコデ、モドアに風の結界で騎士姉さん達をモルネ汁から守ってもらおう。
美人のうるんだ瞳は色気があるんだが、涙ドド漏れの鼻水グチョグチョじゃあ…色気も何もあったもんじゃない。
「ヒロ兄、ボクにも手伝えることない?」
「じゃあもうすぐモルネのみじん切りができるからそれが透き通るまで『ヒート』をかけてくれる。イリスはその時に出た水分を飛ばしておいて。」
「ヒロ兄。解かった。」
「畏まりました。ヒロ様」
ハルは『ヒート』が使えるが、魔力を使った調理方法っていう認識だろう。
やっていることは『ホカホ』と変わりないのだが、『炎』という現象が伴っていないので、彼はおそらく魔法とは思っていない。
その間に固くなったパンを少し乳に浸しすりつぶす。
「ヒロ兄。モルネ、透き通ったよ。」
「ありがとう、ハル。ガーリィ。『ファイス』でモルネを外気くらいに冷やして。」
「ハイ、ヒロ様『ファイス』」
「後は材料を塩とハーブを混ぜて、捏ねて行ってください。」




