2話 ---酒会準備---
「バッヘン様。バッヘン様の支援を受けておきながらこのような不始末、申し訳ありません。」
会合一番、親方が謝罪してくる。
「よい。あれは私が支援する遥か前に作られたものだ。それに聞けば、地下蔵の隠し扉の奥にあったものであろう。その件は不問とする。」
「ありがとうございます。バッヘン様が与えて下さった『罰』のおかげで私以下、皆の者がいつもより温かい年を迎える事が出来ました。心より感謝いたします。」
私の意図は、理解してくれていたようだ。
今回の場合、『謝罪』はあくまでも形式的な物でしかないのだ。
「うむ。与えた『罰』が役に立ったのならば何よりだ。早速、その隠し扉へ案内を頼む。」
「はい。」
固い岩盤に掘られた穴を進む。
元々鉄鉱石を含む岩盤で、採掘のために掘られた坑道だ。
結局、それほど鉄鉱石は取れず廃坑となった穴を、地下蔵として利用しているのである。
「こちらになります。」
その扉はランプかけ杭の下に位置していた。土がはがれた後がある。
「たまたま、うちの者が壁に手をついたんです。そしたら壁土がはがれて、扉が表れたんです。」
眼の良い者なら壁色の違いで解ったかもしれんが端から『壁』と認識しているものを凝視したりはせぬであろう。
それに文字どうり『ランプの真下は良く見えぬ』のだ。
「発見当時、確認した所、同じものが15本ありました。他にもありますが同じものか特定できなかったのでそのまま放置しております。先の15本より2本のみ丁重に持ち出しそれ以降はこの扉は開けておりませぬ。」
「ウム、良い判断だ。」
ワインは環境の変化に敏感である。
保管するには変化が少ないに越したことはない。
「持ち出した1本を試飲してみた所、得も言われぬ薫り、味に、気を失いかけました。」
「其方もか!」
お互い目を合わし、思わず大声で笑いが出る…所を必死でこらえる。
ワインは音にも敏感なのだ。
そっと扉を開けて中に入る。
フム。なるほど。湿り気、温度共にワイン保管に最適な場所の様であるな。
報告にある通り、保管棚に13本。これがそうか。
他の棚には、3本だけ…2本…3本……
「まず、例の13本のうち3本を丁重に運びだし、うち一本を今日来る客人にふるまう様に準備せよ。後の2本は蔵の保管庫へ。
また、この瓶以外は今日でなくて良いから、順次運び出し、品質を確認しておくように。」
他の瓶も気になるが、今日はリアス殿がお見えになるのだ。失敗は出来ぬ。
…
駄目だな。こういった気構えでは。
妻の様に、自分も楽しみ、相手を楽しませるようにせねば。
その準備はもうできておる。
上位の方だが、気さくな御仁だ。思いきり楽しんでいただこう。




