10話 ---新春初劇---
「ルーフィン公爵様と御家族様。バッヘン侯爵様と御家族様。ブローキャス劇場新春公演にいらしてくださいましてありがとうございます。」
ルーフィン公爵よりブローキャス劇場の新春公演に誘っていただいた。なんと我が家族一同をだ。上位からのお誘いなので断れないのだが恐縮する。
「バッヘン侯爵には、泥炭採取組織を取りまとめて貰っているのです。これぐらい何ともないですよ。」
何とも太っ腹なお方だ。
「それに、そちらの細君には妻が世話になっていますし、子供たち同士も仲が良いのです。一緒に楽しもうではありませんか。」
以前は、あくまでも貴族同士の付き合い。単に『妻のお茶会派閥』の間柄であったのだが、泥炭の件。いや、エドルーゼ嬢の事があってから家同士の距離がかなり近くになってきている。
こちらが世話になっていることが多いからかなり恐縮なのだが。
「アマリちゃん。今日は誘ってくれてありがとう。一度来てみたかったのよ。」
「エイリちゃん。今日はすごいのよ。なんとフィロルウェインの新作があるのよ。」
「えっ!フィロルウェイン様の?どんな話?」
「聞いた事ない題名よ。『7つの竜玉』だって。」
娘の様にはしゃぐ妻の姿は新鮮だ。これを見れただけでも来た意味があると思う。
「バッヘン侯爵。我らも妻に倣って愛称呼びしてみませんかな。せっかく楽しみに来たのです。堅苦しいのはなしに気楽に行きましょう。」
そういえばルーフィン公爵は陛下とも親密であると聞く。
『執務室で陛下とドツキ漫才してた』と言う噂も聞く。あくまで噂だが。
私的な場では壁を作らない方なのであろうか。
「ルーフィン公爵。私の事は『ロス』と呼んでください。濁音で呼ばれる事は好んでおりませんので。」
「解りましたロス殿。私の事は『リアス』と呼んでください。」
すぐに切り返すのは緊張する。
何か話題は無いか?
「そういえばリアス殿。子供たちの姿が見えませぬが。」
「子供たちは子供たちで別の部屋を取っております。その方が落ち着いて観劇できますでしょう。」
「重ね重ね感謝します。」
「先ほども言いましたが堅苦しいのはなしです。さあ、始まりますよ。」
本当にできたお方だ。
これが『公爵家』というものであろうか。




