4話 ---車上修練---
「ハル。僕はもう大丈夫だ。次の馬車塚までやるか?」
「いいよ」
屋敷を出る際に師匠から課題を出されている。「1日1時間は鍛錬する事」と。
しかし馬車旅中、そんな時間は取れない。
最初は『馬車塚間走り込み』を考えたが、義母上に速攻で拒否された。
「子供に外を走らせて、自分は馬車の中だなんて、どんな噂立てられるか分かったものじゃありませんわ!」
との事。
うん、確かに外聞上、良くない。
で、とった対応が、馬車の天井を平らに、そして丈夫にしてもらう事だ。
そうすれば、幼児二人分の剣を振るうスペースはできる。
僕自身は型稽古出来れば良いと思っていたのだが、ハルは模擬戦をやりたがった。
「無理だよ。」と言ったのだが、珍しく「やりたい」と駄々をこねた。
仕方がない。付き合ってあげますか。
「ハル。僕はここから動かないから打ち込んでおいで。」
一種の縛りプレーだ。
左足を軸に動作を制限する。
別に、ロープや鞭を使うわけではない。
足元には鉄板を仕込んでもらっているので、左足裏に黄魔力を纏わせ接合する。
そして中腰に構え、馬車からの振動を腰から下で緩衝する。
しかしこれは足腰に来るな。
こんな足元だと必然的に、
「ヒロ兄、いくょワッタタタタ」
コケる。
ただでさえ不規則振動な床でまともに踏み込めるわけがない。
「ハル。解ったかい。模擬戦が無理だと言っていた理由が。
立っているだけでもきついのに、こんな場所では戦うこと自身、無理だろう。」
師匠ならできるだろうけど。
「まずは安定して立つことから始めよう。大地に根を張る金の世界樹を思い浮べて。」
今、ハルの立っている足元にも鉄板が仕込んである。
ハルは土と火の身体強化術ならイメージさせるだけで何とか出来てしまう。
ウル姉さんエル姉さん以外の土属性団員だと中々イメージ通りの魔力制御が出来ないのだ。
「良い調子だ。そのままじゃ頭がかなり揺れるだろ。中腰になって頭が揺れないように足腰で調整するんだ。」
「ヒロ兄。キツイ。」
「そこは筋力強化術を使うんだよ。足の裏から金の根っこ。そこから上は揺らめく炎のように柔軟に。」
うちの義弟マジ天才。このイメージだけで出来ちゃってる。
僕は型稽古だ。まず一の型は…
「ヒロ兄。ひま~~」
「ハルも素振りか型稽古すればいいだろ。」
「つまんない~。」
天才かと思えばこういったところは三歳児か。
「じゃあ僕が型稽古しているところに打ち込んで来ればいい。」
型の切り替え練習になってちょうどいい。
「じゃあ行くよ。えい!」
一の型の途中から三の型へ〈キン!〉
「えい!」
三の型から流れるように二の型へ〈キン!〉
「えぃトトトトトトト」
ハルの足元の黄色魔力が途切れて倒れかけた。
「ハル。足元の集中を切らしたらいけないよ。」
「でもこれ、むすかしい~」
「さっき『ヒロ兄、だらしな~い。』なんて言ってたのはどこの誰だったかな? 『ハル。だらしいな~い。』って言われたくなければとにかく頑張れ。さもないと」
「さもないと?」
「帰ったら師匠の『地獄の肉体クッキング 特別メニュー』へご招待だ!」
「それだけはヤダー!」
『特別メニュー』がよほど嫌なのか、その後は、僕の教える型稽古に従った。
「『特別メニュー』ってそんなにキツイかな?」
「そんな事言えるのはヌシぐらいじゃろうて」
「師匠もキツイって判ってたんだ。」
「儂の用意するメニューを次々にこなしよってからに。ヌシは規格外よのう。」
「あの~。師匠にはいまだに勝てないんですけどね。」




