10話 ---酒店店主---
「師匠。コ麦酒を買ったお店ってどこですか?」
「なんじゃヒロよ。ヌシではまだ酒は買えぬぞ。」
「いえ。酒の材料を使って作られる調味料が無いか確認したいのです。」
前回師匠は、僕の知らないうちにコ麦酒を買っていた。少なくとも穀物区画ではないはずだ。
連れてこられたのは雑貨区画だ。
そうか。星砂騒ぎの時か。
「店主。居るかい?」
「お~、この前の老騎士様。今日はいかなご用件で?」
露店のわりに対応が丁寧だな。
「この前のコ麦酒。あれは美味かった。今日も置いているかな?」
「気に入ってくださいましたか。もちろん置いてますとも。いかほど御用意致しましょうか。」
「2瓶、いや4瓶ほど頼む。それとの、孫が聞きたいことがあるというので連れてきたのじゃがよろしいかな?」
「こちらのお坊ちゃんですかな。どのような事でしょうか。」
「あの、コ麦酒作っている地域で、豆から調味料を作っていませんでしょうか?」
店主は思案顔の後、思いついたように
「豆から作ったものかどうかは存じませぬが、少々変わったものがあります。確認されますか?」
「是非に。」
取り出されたのは2つの甕だ。
「お恥ずかしい話なのですが、コ麦酒入荷の際に紛れ込んでましてね。どういった物かもわからずに苦慮していたものなのですが。」
1つは茶色いペースト。1つか黒い液体だ。香りからすると間違いないんだが。
「舐めてみてもいいですか?」
「よろしいのですか?塩辛いだけですよ。」
まずは茶色いペーストをすくって舐めてみる。「味噌だ。」
次に黒い液体は。「醤油だ。」
「『ミソ』と『ショウユ』と言うものだったんですか?」
「いえ、これは本に載っていた呼び名です(嘘)。現地では別の呼び名の可能性があります。」
日本語チックな名前が多いから意外と似た名前かもしれない。
「して、その使用法は?」
「その前に。オル兄さん。いる?」
「ヒロ君。なんだい?」
「さっき買ったイカの足10本ほど、吸盤の付いていないところ切ってきてくれる?」
「わかった。」
ホントどんな技術なんだろう?
いきなりオル兄さん、表れて消えたのに、店主さん、疑問に思ってない。
「味噌は、スープ作るときのの塩気の代わりに溶かして使います。」
「ほほう。溶かして使うものだったのですか。」
「通の方は味噌を直接チビッと舐めてからコ麦酒を飲むと聞いています。」
「ヒロよ。その飲み方はこの前、海老味噌ペーストでやったぞ。うんアレは美味かった。」
「さすが御爺様。通ですね。」
「私としてはなんでヒロがそんな『通』な飲み方を知っているのか聞いてみたいところですが。」
ドキッ!
「や、やだなぁ。父上。父上の蔵書の中に有ったじゃないですか。『通な酒の飲み方』って本が」
「そんな本、あったかの?」
「して『ショウユ』はどのようにして使いますかな?」
ナイス話題変更。店主さん。
「ヒロ君これでいいかい。」
オル兄さんもタイミングばっちしだ。
「ありがとうございます。これに醤油をちょっとつけて。」
[もぐもぐ]
ちゃんとした刺身ではないがまさしく日本の味だ。やっぱり魚醤より醤油。これが正義。
店主さん。恐る恐る[もぐもぐ]
「美味しいですな」
師匠も父も、オル兄さん、ラーヤまで[もぐもぐもぐ]
「「「美味い!」」」「美味しい!」
「生でなく焼き魚にかけてもいけますし、これをベースに砂糖などを混ぜた調味液に食材を漬け込んで焼く調理方もあります。
詳しい事は、作った元にお聞きするのが一番でしょう。
で、この2甕。いかほどで譲っていただけますでしょうか?」
「間違って納入されたものとはいえコ麦酒として納入されたもの故、コ麦酒と同等の価格。
と言いたいところですが、今回のご教授を踏まえてタダでお譲りしたいと思いますがいかがでしょうか。」
と父上から
「何か裏がありそうだの。何を企んでおる?」
「企むなんて滅相もない。騎士爵然とした御恰好を成されてますが実は高位の貴族様でいらっしゃるのでしょう。それに坊ちゃんは成りは幼くても聡明であらせられる。その様な方の御贔屓にしていただけたらと思った次第であります。」
「ただの露店店主…ではないな。」
「御慧眼恐れ入ります。私、南区で酒屋『麦価酒』を営んでおります、ドース=ステンと申します。月市にはこのコ麦酒のように『一般的ではないが美味い酒』を置く店として出店しております。」
「もし儂らが、ただの騎士爵以下の場合ならどうするつもりじゃ。」
「それでしたら、私の商人としての眼が節穴だったまでの事。お客様のお気になさることではございません。」
「ウム。気に入った。今は身分を明かさぬが、後ほど当家より正式にコ麦酒の定期購入の注文を出すとしよう。」
「お待ち申しております。」
「父上、『味噌』と『醤油』も注文していいですか?」
酒神バッカス⇒麦価酒 酒呑童子⇒ドウジ・シュテン⇒ドース・ステン




