1話 ---従主相談---
「大将、どうされたんです?」
「じつはのぉ。知り合いから相談を受けたのじゃが、儂では対処しきれんでの。ヌシ、いやヒロ坊で対応できんかと思っての。」
もうすぐ安息日を迎える月下旬。儂は主に相談を持ち掛けたんじゃ。
「ヌシは憶えておるか?儂らが戦って一度も勝てなんだ傭兵団を。」
「『金の月兵団』でしたな。団長が『戦女神のアタルナ』の。」
隣国とのいざこざに、儂が指揮する団は決して負けはしなんだ。で、着いた二つ名が『無敗将軍』じゃ。
ただ、負けはしなんだが、常に勝っていたわけじゃないのじゃ。
「どんな好状況だろうと、あれが出張ってくると戦況が拮抗してしまいましたね。あの団長とは戦場で何度か刃を交わしましたが常に引き分け。私が軍をやめた後、その傭兵団も解散されたと聞いていますが。」
「その『戦女神のアタルナ』じゃが、今はこの街に住んでおる。」
「なんと!では早速、決闘の申し込みを。あの時の決着をつけようぞ!」
「落ち着けいっ!」
こうなる事が解ってたから今まで知らせなんだのに…
主が一兵卒だったころから、アヤツとは何度も戦場で刃を交わしておった。
一種の腐れ縁じゃの。
一時は「勝ってあいつを俺の女にするんじゃ―」と惚けて居った時もあったのう。主の黒歴史じゃ。
「…失礼しました。でそのアタルナがどうしたんです?」
「今ではあの当時の副団長と結婚し、娘を設けておる。その子は先日、洗礼も済ませたばかりじゃ。が…」
「……教会がらみ…ですか。」
「その娘。場合によっては異端扱いになるやも知れぬ。その見極めにヒロ坊の『眼』を貸してほしいのじゃ。」
「解りました。次の安息日にフィロルウェインとあちらに向かいましょう。しかし『もしも』の場合はどうなさるおつもりで?」
「その場合もヒロ坊一任じゃて。」
「そんな無責任な。」
「アヤツの性格じゃと、事情を知れば必ず、囲い込もうとするじゃろうて。
ヒロ坊も教会の異常性に気づいておる。
それに儂らが後ろについておるのじゃ。悪いようにはならぬよ。」




